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紙の本
なんだか、芥川龍之介の短篇か古典、今昔物語かなにかを読んでいるような気になってしまう。切ないおはなし?とんでもありません、極上の恋愛ロマンです
2004/08/28 22:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「お前ら、いつか結婚するぜ」そんな未来を予言されたのは小学生のころ。それきり僕は彼女と目を合わせることができなくなった。しかし、やりたいことが見つからず、高校を出ても迷走するばかりの僕にとって、彼女を思う時間だけが灯火になった…〈未来予報〉。ちょっとした金を盗むため、旅館の壁に穴を開けて手を入れた男は、とんでもないものを?んでしまう〈手を握る泥棒の物語〉。他2編を収録した、短編の名手・乙一の傑作集!」
以上がカバー裏の紹介。残りの2編というのが喫茶店で待ち合わせた大学生と、小説家の会話が意外な方向に展開していく〈フィルムの中の少女〉。結婚して子供も生まれ、順風満帆だった自分の人生が、交通事故で大きく捩れて〈失われた物語〉。この中では〈手を握る泥棒の物語〉と〈失われた物語〉が、自選集とでもいうハードカバーの『失われた物語』に再録されている。
カバーイラスト/羽住都、カバーデザイン/中デザイン事務所。勿論、本文中のイラストも羽住である。でだ、羽住の絵を、いかにも少女漫画チックなというか、MOE風の乙女チックな画風だなと決めつけていた私は、〈手を握る泥棒の物語〉を再読していて、89頁のイラストを見たときにその力強さに、凄い、と思ってしまったもである。
でだ、またまた調べもせずに発言してしまって恐縮なのだけれど、〈手を握る泥棒の物語〉って、今昔物語だよな、芥川龍之介だよな、と思うのである。〈泥棒の物語〉っていうところからだけの連想だ、というのは簡単である。しかし、この二人の夜の壁越しの囁きが、衆人環視の中での絡みつく視線がエロティックなまでの話は、現代的というよりは実に古典的な佇まいなのだ。
それは『平面いぬ。』の「石ノ目」にもいえることで、乙自身がそれをどれほど意識しているかは別にして、私などは乙のセンスに芥川を思ってしまうのである。うーむ、なんと言う短絡かと我ながら感心。そういう、誰かを思わせるところは〈フィルムの中の少女〉にも言えて、私はこれが黒澤明の手で映画化されたら、結構面白いものになるだろうなあ、などとも思うのである。
天才乙一の、期待を裏切らないレベルの作品集。
紙の本
今読んでも切なくて泣ける
2017/06/28 20:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MO - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者が苦労したと後書きで書くだけあるほどの切なさです。対象は中高生とありますが、年をとり子供が出来てから読み返してみても面白いと思えます。
昔の本ですから、今になってこのレビューを目にしているということは、著者に興味を持ったか、久しぶりに読みたいと思って検索しているかと思います。短編集なので簡単に読めてしまいます。買っちゃいましょう!
紙の本
せつない物語がつまってます。
2003/05/23 10:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和音 - この投稿者のレビュー一覧を見る
4つの短編が収められています。
未来予報…友人の古寺は、時々、未来が見えるらしい。でも必ず当たるわけではない。という事で、未来予報とはぴったりのネーミングだと思った。その古寺に「おまえ達二人どちらかが死ななければいつか結婚するぜ」なんて言われたら、誰でもその相手を意識してしまうだろう。思春期の微妙な心の揺れ。
主人公の彼はなんとなく大人になってしまいそうで未来に不安を感じる。私も未来や将来について考えた時、先が見えなかったりすると、いいようのない不安にとらわれたり、ぞっとする思いをした事があります。主人公の不安感は私と比べようにならないほど大きなものなのではないでしょうか? 最後のちょっとした勇気が彼を大きく変えさせたのならば、もう少しその勇気を早く持つ事ができたら… また主人公の未来は変わっていたのでしょうか?
「手を握る泥棒の物語」では壁越しに手を握り合っている時の緊張感がすごく伝わってきたし、「フィルムの中の少女」では、乙一さん お得意のちょっぴりホラーでせつない物語。
様々なシチュエーションや状況設定。独特の世界を生み出してゆき、少年少女の心理描写のうまい乙一さんはすごいと思う。
収録作品…「未来予報」・「手を握る泥棒の物語」・「フィルムの中の少女」・「失はれた物語」