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紙の本
2003年の桐野は豊作だった。やっと『OUT』の桐野が帰ってきた、そんな感じである。雌伏10年とは言わないけれど、直木賞受賞以来、どこか違っていた気がする。私は今の桐野が好きだ
2004/10/13 21:48
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「隣の家から聞こえてきたガラスが割れるような音。怖くなったトシだが、塾に出かけるときに見かけたその家の高校生は、どこか爽やかな表情をしていた。ちょっとした女子校生の好奇心が」現代小説。
やっと『OUT』の桐野が帰ってきた、と言ったら失礼だろうか。初めて桐野を読んだのが『OUT』。無論、その前から彼女が乱歩賞を受賞したのは知っていたが、何故か読む気がしなかった。だから、私の桐野観を一気に作ってしまったのは『OUT』。以来、『柔らかな頬』『ジオラマ』『玉蘭』『』『ローズガーデン』と読んできて、どれも感心はしたけれど、違うという気がしてならなかった。それが、やっときた、来た。
主人公は5人の高校生。ホリニンナ、ユウザン、キラリン、テラウチの女子高校生4人と名門受験校に通うミミズ。ホリニンナこと山中十四子がふと耳にした隣家のガラスが割れるような物音。そこで、彼女と友人のテラウチこと寺内和子、ユウザンこと貝原清美との携帯での会話が始まる。電話のあと、塾のために家を出たホリニンナに珍しく挨拶をしてきた隣家の高校生は、どこか晴れやかな顔をしていた。
いつもは、こちらから頭を下げても、そそくさと逃げるように行ってしまう彼にトシがつけた渾名はミミズ。息子の自慢ばかりしている母親。息子同様、挨拶に返事すら返さない、アスコットタイをしている父親。塾から帰ろうとしたトシの自転車が盗まれた。どこかに消えた携帯電話。ミミズウの家に起きた出来事が、キラリンこと東山きらりなど四人の少女たちを巻き込んでいく。
構成については、読んでもらうのが一番。ある意味、これは読み慣れたもので、主人公の少女の一人が「これって、ロンドみたい」という場面があるが、それがピッタリ。最初についた嘘、悪意からではない、ちょっとした好奇心が、五人を次々に結び付けていく。その鍵となるのが、今では当たり前の存在になった携帯電話と、少女たちが持つ二面性。
友情という名に隠された18歳の男女の真実。さりげない一言に込められた愛情、憎悪、軽蔑、諦念、嫉妬、羨望。同性愛、家庭崩壊、男漁り、不倫、受験、チクリ、マスコミ、自殺、強盗、ホームレス、コンビニ。愛らしい会話を一皮向けば、親への、同級生への、自分への憎しみが熱いマグマとなって、外に噴出すチャンスを窺っている。現代の生活は、いや過去からもそうだろう、薄氷の上にある。そんな人間の心、人との関係が浮かびあがる。
個人的に好きなのは、テラウチの弟のユキナリ。塾に5年も通わされているうちに、性格が変わり狡賢くなったと姉に思われている中学一年生。結構、渋くていい。それから、テラウチが私立の小学校に満員電車に乗って通い、次第に痴漢の標的になっていく、それに両親が気付かないという話もリアルだなあとおもう。
もっと言わせてもらえれば、狂っていく運転手が凄い。細い糸の上の私たち幸せ。いやあ、上手い。褒め始めたら、きりがない。文句をつけるところが無い。思わず、娘たちの顔を見てしまった、彼女たちの笑顔の下に潜んでいるものを。そして、あらためて見つめる、自分の心の奥底。
装画はHenry J. Dargerの‘The Sacred Heart of Jesus'。赤く塗られた本の小口が妙にしっくりして、紙質ははるかにいいのだけれど、どこか安っぽいPBの手触りが心地よい。内容の現代感覚がそのまま姿になったようで、赤と言うよりは朱と紅が微妙に混ざったような色合いも含めて好きだ。装丁は妹尾浩也。
紙の本
圧倒的な現実感で
2003/10/03 02:06
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投稿者:海の王子さま - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルの通り、圧倒的な現実感に蹴倒されっぱなし。もっとも、「圧倒的でない現実感」なんて感じたことがないので(感じることはかなり難しいでしょう)、現実感が どう だと 圧倒的 なのか、あまりはっきり把握しているワケでもないのですが…。
「リアルワールド」に描かれている 世界 は、僕にとって少しだけ非現実的で、おおざっぱに現実的。そうだよねー、あるよねー、こういうことって。一つ一つのできごとに(おおよそ)共感しながら読んでいくと、最後には涙が止まらなくなります。っだー。滝のように。
どうして、そういうラストになるのかなぁ。この「どうして」は疑問ではなく非難。どうして、どうしてそうなるんだよ! リアルはあまりにも冷酷。だからリアルなんだね。夢じゃないから、夢を見させてくれる機能はないんだよね。夏という季節が「天王山」だった頃、僕はどんな リアル をそこに感じていたんだろう。
紙の本
本当のリアル
2003/04/15 14:07
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投稿者:umi - この投稿者のレビュー一覧を見る
いつからこんな時代になってしまったんだろう?
親に反抗する気持ちとか、友達が本当に自分のことをどれくらい理解してくれているのかとか、抑えきれない毎日を、いつから過ごすようになってしまったんだろう?とか。ちょっとした偶然から、どんどん事件が大きくなってしまう…。受験をまじかに、まあこれぐらいだったらいいだろう。という甘い考えが、許されない領域にどんどん追い込まれていく4人の女子高生、と一人の母親殺しの男子高校生のかけひきともいえる、心理戦がうまく書き込まれている。殺人という重いテーマにもかかわらず、さらりと引き込まれてしまう。読み終えたあとは最後の悲しい現実(リアル)が胸に迫ってきた。
紙の本
弱い者を食い物にする、私たちの現実・リアルワールド
2003/06/13 11:58
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投稿者:PNU - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校生の十四子は、仮名を好んで使うことでささやかな防御とし、傷付かぬためのクッションにしていた。彼女の隣の家から、ある日何かが壊れる物音がする。それは彼女と友人達を、平穏な日常と決別させる契機となる音なのだが、そのときの彼女には知る由も無いのであった。
個性的な女子高生4人が、それぞれの人生をまじめに悩みながらも、身近に起こった大事件に非日常の魅力をおぼえ、惹かれていく様子が描かれている。物語の常ながら、浅い思慮で起こした無軌道な行為は、その代償として彼女らに一生消えぬ精神外傷を負わせてしまう。それさえも受け入れて立ち上がる、力強い少女の成長記とも読める。
ただ、少女達の描写が生き生きとして素晴らしいがゆえに、事件を起こした張本人の少年「ミミズ」がいかにもダメ男で、心理描写も浅くがっかり&うんざりしてしまう。ミミズと少女の一人との同行は衝動的で唐突で、とても共感することが出来ない。少女の気持ちも私にはさっぱりわからない。ゆえに、ミミズという愚かで薄っぺらい触媒無しで、普段の少女達の心の内奥をもっと描写して欲しかったように思う。でも、これくらいの命のやり取りでもしなければ、厚いヴェールで隠しおおせている彼女らの本質というものは、永遠に明らかにならなかったのかもしれない。事件さえなければ、彼女らは少女を演じ続けたのだろうか、それともミミズがいなくとも、いつかは張りつめた糸が切れるがごとく、カタストロフがやってきたのであろうか…。