紙の本
かの子さんが怒ります。
2003/04/06 11:11
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投稿者:栗山光司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文士ときたから、姦通なのか? どちらも、古めいた匂いがする。和箪笥の引き出しを、そろりと覗き見て、樟脳がつつんと鼻を刺激する。未だに不倫文学は作家先生の美味しい土俵で書くために不倫するのか、不倫したがために書く衝動を得たのか、判らぬが、姦通と不倫はどう違うのか、どちらにしろ、消費財として生き続けるアイテムであることは間違いない。
作者の口上によると、この本は姦通をめぐる文学史でもなければ、姦通の研究書でもない。『昭和文学史上・中・下』(講談社)を書いているとき、多くの文士が姦通を経験しており、姦通の仕方も十人十色で、それぞれ独特な姦通のかたちと思想をもっていることに気づいた。これら姦通にふける文士の顔は、好奇心にあふれており、読者に親しみを呼ぶのではないかと考えた。そこで姦通というある意味では下世話な話をとおしてありのままの文士の姿に親しく接してもらえるよう、「遊びとしての姦通」を書いたと述べる。
成程、だからなのか、掲載されている肖像写真は生々しい壮年の風貌で、漱石も志賀直哉も私が見慣れているものと随分違う。クイズ番組で「誰でしょう?」と、漱石のこの写真が出れば、千円札の肖像に相応しからぬこのセクシーさに付け髭した辻さんと答える輩が続出すると確信する。
結局、私がこの本で一番、感心したのは挿入された写真たちであった。色気があるのです。佐田稲子はこんなに美人だったかなあと思いました。北原白秋は脂ぎって精力絶倫の男伊達振りである。
本文は日本文壇史において有名な男と女の事件簿ばかりで姦通というスポットライトで再確認する、いわば、姦通文学入門書であろう。しかし、谷崎潤一郎と佐藤春夫の千代譲渡事件に第三の男(和田六郎)がいたことを知らなかったし、今更ながら、岡本かの子の【焼身】の過剰さに圧倒された。かの子は姦通、不倫という言葉に似つかわしくない。そんなもの、乗り越えている。歯牙にかけない。
「いのちの狂乱に身を任せ」た童女を夫岡本一平は支えて、早大生堀切茂雄、後には医師新田亀三と、愛人と同居するのを厭わない。私の好きな長編小説の一つに岡本かの子の『生々流転』がある。蝶子は男達を振り払い、旅立って女乞食に変じても、いのちの業は振り切れず、最後には女船乗りとなって墓場のない世界に船出するのだが、この本のタイトルはかの子によって足蹴りされるであろう。
「宇野千代」はまさに姦通と不倫の女大家であるが、明るく救いがある。男たちの「芥川龍之介」「宇野浩二」「有島武郎」「島崎藤村」の姦通は救いがない。無惨である。
「夏目漱石」の項はこの本のハイライトと期待したのだが、すべての姦通小説の元祖は漱石先生なのであると、作者は大見得を切ったのに肩透かしを食らってしまった。事実として、嫂登世との姦通説を肯定する江藤淳、否定する大岡昇平の説をダイジェストに紹介するが、川西政明の説を聞きたいのに、彼は冷たく言う。
謎解き遊びの条件はすべて出しました。後は読者にお任せすると、作者はこの本を閉じる。そのつれなさは、姦通よりつれないのではないか。まあ、680円だから、仕方がないか。読者も自立が要請される…。
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文士たちの生涯を資料をもとに、姦通の体験を軸に据えて描いた本。北原白秋の二度目の妻への手紙を「慈悲」と見るか「傲慢」と見るかは見解の違いかと思いますが、引用されている資料は面白かった……が、絶対に友人に持ちたくない自己中心な人々が大半(特に志賀、藤村辺り)。読んでいるうちにうんざりしないでもない……本を書いた人の力量とは、これは別の問題(素材だから)。
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ま、面白い。
近代作家、作品の源とでも。
アレなタイトルだが何のことはなく、近代作家の私的事情にフォーカスしたトリビア的要素の多い本。
知っている人にはつまらんかな。
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[ 内容 ]
心中する文士、逃げる文士、うまく立ち回ろうとする文士…姦通が、世の禁忌であり罪悪だったころ、それが白日の下にさらされた時に文士が見せた顔、顔、顔。
明治から昭和にかけて、各時代を代表する文士・男女十一人の姦通をめぐる事跡を、『昭和文学史』を書き上げた「名探偵」川西政明が丁寧に追う。
普段目にすることが少ない、「文豪若かりしころ」の写真も多数収録。
姦通に苦しみ姦通により更なる元気を得た文士が、渾身の力で織り成す人間曼荼羅を堪能できる新書。
[ 目次 ]
大正文士の姦通(二度にわたる姦通事件―北原白秋;「愁人」からの逃避と自殺―芥川龍之介;妻譲渡事件の謎―谷崎潤一郎;「文学の鬼」とヒステリーの相関関係―宇野浩二)
女性作家たちの姦通(楽しく姦通しながら生きていく私―宇野千代;夫公認の姦通―岡本かの子;「くれなゐ」に燃える暗い性―佐多稲子)
文豪たちの姦通(姦通から情死へ―有島武郎;文豪だって妻を裏切る―志賀直哉;妊娠した姪を捨ててパリへ逃げた―島崎藤村;幻の姦通―夏目漱石)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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2003年刊行。著者は元河出書房編集者。◆北原白秋、芥川龍之介、谷崎潤一郎ら大正時代の文壇、宇野千代ら女流、島崎藤村、志賀直哉ら文豪の姦通事件の読解を通して、その修羅場が、彼らの作品にいかな影響を与えたかを解説するもの。ただ、名を挙げ功をなしたから姦通が許容されるとか、怨恨が解消されるわけではなく、彼らの苦悩も同情する気にはなれない。そういう感情論からは一歩離れて、彼らの作品の解読の材料として本書は読むべきものなのだろう。
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作品は好きだが、作家その人自身が好きになれない時がある。
私の場合、谷潤こと、谷崎潤一郎がその代表だ。
何故か。佐藤春夫への妻譲渡事件があるからだ。なんだよ、
自分の奥さんを他人に譲り渡すって。しかも理由が、奥さんの
妹に惚れたからだって。
美しく哀しい『春琴抄』を書いた人は、淫靡で妖しい『痴人の愛』
を書いた人と一緒なんだよな。
妻がいながら、夫がいながら、他の異性と関係を持つ。そんな
文士たちの私生活を覗き見るのが本書である。
ほとんどが男性作家なのだが、女性作家も3人が取り上げられ
ている。でも、やっぱり男目線の解釈なんだよな。
だって、だって。島崎藤村なんて姪に手を出して、その姪の
妊娠が判明するとパリに逃走してるのよ。
著者は渡仏した先で苦労した…みたいに書いているけれど、
姪のこま子さんなんて、帰国した藤村に再度関係を迫られ、
最後は行き倒れ。
貧困のなかで妻や子を次々に亡くし、生き残った藤村の子供
たちの面倒を見た人に何をするのさ。キーーーッ。
「落ち着け、自分」と言い聞かせながら読みましたよ。著者は
そんな不倫関係が作品を書く原動力になっていると解釈して
いる。まぁ、私小説が全盛の時代にはそうだろうな。
でも、やっぱり男の身勝手なんだ。本書で取り上げられている
女性作家だって、岡本かの子を除けば元々の原因を作った
のは旦那だしな。
興味深い切り口ではある。でも、女の目線で読んだからなんだ
ろうけれど、谷潤と藤村は嫌い度が上昇しました。
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皆、よく、浮気だの不倫だのする余裕があるなと思っていたけど、その時のアレソレを全て作品に落とし込んでいるところをみると、納得がいくような……?
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タイトルは刺激的ですが、文士の女関係のスキャンダルと、それを通じて彼らが社会のなかでどういう目で見られていたのかがまとめられています。
この本を読むまでは、1880年制定の刑法における姦通罪が男性優位だったことと、文士といえばクズが多いイメージがあったことから、「男/文士の甲斐性」的にとらえられていたのかと思ったら普通に社会から白い目で見られていたのですね。
あと、島崎藤村『旧主人』(1902)が速攻発禁になったことに対して、それから10年も経っていない漱石の門三部作などが社会の禁忌とされなかったことには時代の変化を感じます。ただ、文豪たちが姦通という「戒」を破ることに挑戦したというのはちょっと綺麗に言いすぎかと。
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川西政明「文士と姦通」、2003.3発行。①人妻俊子との姦通で2w牢獄に入った北原白秋。その後結婚、離別。章子と再婚するも、章子も姦通で家出 ②秀しげ子と姦通で中国に逃避した芥川龍之介、自殺の原因もこれか ③佐藤春夫だけでなく、北原白秋にも絶交された谷崎潤一郎、恋愛の機微に疎いのか ④宇野千代の奔放な人生は他を寄せつけずw ⑤岡本かの子の学生や医者への姦通を公認した岡本一平 ⑥窪川鶴次郎の2度の姦通を小説にした佐多稲子、その後稲子も姦通を ⑦波多野秋子と縊死心中した有島武郎 ⑧茶屋の仲居に金を渡し片をつけた志賀直哉 ⑨姪のこま子に手をつけ妊娠させ、3年間パリに逃げた島崎藤村 ⑩「それから」「門」、姦通小説の元祖、夏目漱石。兄嫁登世との姦通は「?」。