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紙の本
バブル末期を舞台に「ゴージャスな悪夢」を描く傑作!
2003/06/11 12:18
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投稿者:タカザワケンジ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『不夜城』をはじめとするアジアン・ノワールを得意とし、アンダーグラウンド社会に生きる人間たちを描いて定評ある馳星周だが、『生誕祭』はこれまでの作品とはひと味違う。
体言止めを多用するスピーディーで切れ味の良い文体、二転三転する起伏に富んだストーリーテリングはこれまでの馳作品と同様だが、暴力描写には抑制が効き、人も死なない。バブル後期を舞台に、金銭欲に中毒した男と女が、目も眩むような大金をめぐって権謀術数の限りを尽くす、上下巻に渡るエンターテインメント大作である。
堤彰洋は21歳。大学受験に失敗し、予備校からもドロップアウトし、六本木のディスコ「マハラジャ」で黒服をやっていた。そこで、幼なじみで初恋の相手、麻美に再会する。貧しい母子家庭で育った麻美は変貌を遂げていた。美貌に磨きがかかっただけでなく、全身を高価なブランド品で固めていた。麻美は「地上げの神様」と呼ばれる波潟の愛人になっていたのだ。
黒服の仕事に飽き飽きしていた彰洋は、麻美に紹介された齋藤美千隆に夢中になる。美千隆は30代半ばで数十億単位の取引をする不動産会者社長だった。美千隆は彰洋を気に入り、「二人で王国を作ろう」と囁く。
彰洋は美千隆の教えを忠実に守り、土地を持つ老人を騙し土地をせしめ、高く転売する。地上げの障害になっていた頑固オヤジを陥落させるために、その息子をワナにはめる。そのたび、彰洋の体温は上がり、快感を覚える。麻美はそんな彰洋の眼を「金に中毒した眼」だと感じ、その変貌に喜びを感じた。
「王国」づくりのために先行者である波潟をハメようとする美千隆。美千隆を愛しながらも、それ以上に金を求めてやまない麻美は、波潟にいつか棄てられるという不安を抱きながら、美千隆のプランに乗る。彰洋は麻美のお膳立てで波潟の娘、早紀と恋仲になり、秘密の恋に溺れるが、麻美に弱みを握られ窮地に陥る。彰洋は底のない金銭欲の世界に足を取られ、無様に落ちていく……。
この3人を中心に、波潟ほか金に群がる食えない面々が策を弄し、物語は錯綜する。ページを繰る手を休める間がないほど、物語に引き込まれる。
人間の果てなき欲望は、離れて見れば、醜く滑稽なシロモノだ。現在の視点でバブルを振り返れば、踊った連中がみな阿呆に見える。しかし本当にそうだろうか? 欲しいものを存分に手に入れ、札びらを切ることで味わえる快感は何ものにも代え難い格別のものではないか。『生誕祭』を読んでいると、気分はバブルまっただ中。いつか壊滅するとわかりきっているマネーゲームに、ひりひりする思いを感じる反面、登場人物たちの豪快な金遣いに、奇妙な快感を味わえることもまた確かなのだ。
石崎健太郎が手がけた装幀もこの作品にふさわしい。光沢のある黒いカバーを外すと、オビにあしらわれているヒエロニスム・ボス(ボッシュ)の「快楽の園」があらわれる。奇々怪々な化け物の姿は人間の欲望を連想させる。まさに、『生誕祭』の世界だ。
馳星周が、その世界をさらに深める第一歩となりそうな一作が誕生した。(タカザワケンジ/bk1エディター)
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