紙の本
一流大学に入学し、社会人となり、娼婦に転落し、悲惨な末路を迎える女たちの物語、読み終えた私は三重のあわれさを感じるのである。
2003/08/21 15:56
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
じっとりと湿ってすえた万年床の異臭、安手の脂粉に混じった体液と汚物に加え、病んだ精神の腐敗臭がページを繰るごとに強まってくる。グロテスク!
日本人の描く哀しい女の生涯には伝統的に末路として春をひさぐ娼婦の物語が多い。自由が奪われたままに容色は衰え、ぼろきれのように心身をすり減らし、病死、他殺、自殺、心中か、いずれにせよ死を迎えるのである。
一流大学に入学し、社会人となり、娼婦に転落し、悲惨な末路を迎える女たちの物語、読み終えた私は三重のあわれさを感じるのである。
四人の女のうち三人が四十近く、醜い姿をさらして渋谷円山町の暗がりで客引きをする。
「おにいさん、一回三千円にまけとくよ」「一流大学卒よ」「一流企業のOLよ、身分証明書みてよ」「おじさん、私、処女よ」暗がりで小便はする、客に請われてベッドで大便をする。そのうちふたりは殺害される。娼婦になれなかった女は新興宗教の幹部になり無差別大量殺人に加担、獄舎に繋がれる。まずこの鬼気迫る狂態に悲惨をみる。なんとかわいそうな女たちよ。
幼稚園から大学までのあるこの一流の学園では人間の価値はどうやら出自・家柄・その副産物である資産価値で序列がつけられている。そんな教育の場は現在の冷徹な企業社会では決して一流とは言わないのだが、なぜかそうなっている時代錯誤はともかくとして、その枠組みから疎外されているヨソモノは存在価値がないのである。ヨソモノである彼女たちはこの環境にも屈服することなく、自己を確立し存在価値を高め個性を発揮しなければならないと確信する、すなわち自我に目覚めるのである。ひとりは絶世の美貌の持ち主、フェロモンつき肉体を武器に中等部から男の愛玩用いい女と目覚め早くも先輩を相手とする娼婦として君臨する。高校生のその姉は他人を不幸に貶めることに快感を見出し、持ち前の悪意を露骨に実行する。あとのふたりはテスト成績で一番を狙う。社会人になっても、彼女らにとっては同様の仕組み(ここにも錯誤があると思うのだが)があって、この閉塞状況から飛躍するにはなにをするべきか、すなわち娼婦になることであった。養老先生のベストセラー『バカの壁』を併読していたらよぉーく理解できました。「間違った個性発揮」「欲望をコントロールできない」「真実は人知では見出せないにもかかわらず一面を見て真実と誤解する」三千円で体を売り、腹の上で果てる男を見て「征服した」として自己満足する。このあたりが伝統的悲劇とは大いに異なる自己主張型確信的売春感覚なのだが、本当にバカな、なんとかわいそうな女たちよ。
これはバーチャルリアリティの中の寓話である。しかし、桐野夏生の力作と評価された作品だけに男性優位の差別社会の中で女の自己確立を衝撃的に描いた作品などと万一うっかり誤解して「ワカル、ワカル」とこの生き方を評価しあるいは共感したり感動をもって読む女性がいないともかぎらないなどと思い巡らし、これこそがまことにかわいそうな女たちよと嘆くことになるのである。
そこで、この本は男どもに薦めて「さて久しぶりに円山町界隈をウォッチングしてこようか」などとニヤニヤすることはできるが、まちがっても女性には薦めてはならない。「よっちゃん! あなた私になにを言いたいの」と食って掛かられることは避けたい。ましてこれで目覚めた女性から「三千円でどう?」などと絶対に回避しなければならない。
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うわぁ・・・。
なんとも言えず気持ち悪いです。
女子としては、和恵のような部分を結構持っているので、直視するのが辛い気持ち悪さ。
「姉」のずるさなんかも、多かれ少なかれ持っている人が多いですよね。自分を正当化するのって楽ですから。
ユリコが男だったら、それとも百合男が女だったら、「姉」の態度が変わることは間違いないです。差別に囚われているのは自分。
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これも女性が主人公の作品。
彼女の作品は女性が主人公の物が多い。そして、女性が持つドロドロの部分、暗闇の部分が描かれた物が多い。
私も女性ですので、よくココまで描くなぁと思いつつ読んでいました。この作品は二人の女性と一人の男性が出てきます。そして、私はこの男性が結構スキ。理想的な男性像ではなく、二人の女性のイタイところをズバズバ付いてくる人で彼自身、イイヤツとは言えない人。でも結構スキ。
この作品もかなり長編で、それでもかなり読みやすくてスラスラと読めてしまいます。
私は彼女の作品が大好きだと言うわけではありませんが、読みやすくて面白い話が多いと思います。といっても今は二冊しか読んでいないのでなんとも言えませんが。でも、結構好き。
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桐野夏生の「グロテスク」読了。
東電OL殺人事件をモチーフに、殺された二人の売春婦と
片方の姉でもあり、もう一人とは学生時代の同級生だった女、
そして犯行を行った人間それぞれの目線から自分の生い立ち、
他人に対する視線を描ききっています。
一つの事実でも語る人間により
異なるという事は、「藪の中」方式ともいいましょうか、
それぞれの人間について筆者は容赦なく書いているので
記述の中に自分にも当てはまるものが見つかると、登場人物を
通して結局は自分に対する嫌悪感につながり、読みすすめるのが辛くなります。
が、最後まで一気に読ませてしまうのが筆者の力量なのかも。
読みすすめるうちに、自分の内側にどんどん黒いドロドロした澱が
たまっていき、気力も吸いとられている感覚に襲われました。
努力をすれば報われるという言葉を信じてもがく姿が
第三者からみれば滑稽と映ってしまう和恵の姿が痛々しい。
が、一方でそんな姿を一緒に笑っている自分もいるのだ。
学生時代にこの本を読んだら、受けたショックは大きかっただろう。
今という時期に読んでおいて良かったのかもしれない。(2004.7.29)
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東電OL殺人事件をモチーフにした作品。女子高を舞台にした成長期の女性の複雑な感情、関係。長じてエリート女性はなぜ売春をするのか。圧倒的筆力で描かれる業の深い世界に圧倒される。結末に若干納得出来ない部分もあるけど、その結末まで一気に読ませる魅力はある。
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東電OL関連の本を読んでいたら、同僚が貸してくれました。
2段組の割にスラスラ読める。まだ読了してないけど。
読了しました。終わり方がイマイチだったけど、全体としては悪くないです。
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――光り輝く、夜の私を見てくれ。
――堕落ではなく、解放。敗北ではなく、上昇。
――昼の鎧が夜風にひらめくコートに変わる時、
――和恵は誰よりも自由になる。
――一流企業に勤めるOLが、夜の待ちに立つようになった理由は何だったのか。
帯より
帯の惹句は作品のほんの一部分を現わしているに過ぎない。
「グロテスク」このタイトルから想像できるとおりのグロテスクな最期を女たちは何故選ぶのだろう。女たちだけではないかもしれない。男たちもまた、であろう。
生きると言うことは それほど日々闘わねばならないことなのだろうか。自分よりも優れる者と、自分より劣る者と、他者と闘う自分自身と。
負の相乗効果というものは きっと存在するのだろう。この本から それはゆらゆらと立ち上ってくるようだ。なんともやりきれない読後感である。
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読むと性格が悪くなりそう。
登場人物が不快でならない。
なのに(だからこそ?)ぐぐっと引き込まれて、夢中で読んでしまった。
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よく考えると、客観の事実がひとつも書かれていない。誰が言ってることがホントなのか。まあ、それは大して重要ではないとうことかもしれませんが…。
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表題から言っても楽しい小説ではなさそうだけど、案の定、すごいテーマとすごい登場人物とすごいストーリーでした。
差別やいじめ、階級、社会の体制、いろんな要素が出てきてそう言ったものと戦って、最後は呆れるほど徹底した堕落的というか、なんか、神がかり的(悪魔的といったほうがいいかも)状態に登場人物は陥ります。
いくつかの章が別の視点で書かれていて、絡み合っていく様はそのまま人間模様にもなっていて興味あるのだけど、途中、ちょっと冗長的って思うシーンや章立てもありましたし、ラストでも??って違和感を感じます。少し無理があるのですが、その無理すらも、無理と目くじらを立てる作品ではないのかもしれません。
グロテスク、、って、、、顔のことを言っているけど、確かにそんな意味もあるのだろうけど、精神がグロテスクなんだってことなんですね。
そう思うと、精神的に綺麗な人は顔も綺麗にイキイキなるのかもって思ったりして、明日も上を向けるような気持ちでいたいものだって教えてくれる作品でもありました。2003.12.10
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生々しさもここまで来るか、というのが読んでる最中の感想。生理的な圧迫感を覚えるので、結構読むのに体力使います。間違ってもおやつとか食べながら読めません。男性の読者が読んでも実感しきれない部分が大きい小説だとも思いました。桐野夏生の視点そのものが恐ろしい、そんな感じの一冊です。
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引き込まれるように一気に読みました。読みながら、時々背筋が寒くなったり、気分が悪くなったりもしましたが、でも、先を読まずにはいられない、主人公とその周囲の女性たちの最後を見届けずにはいられない。
まさに「グロテスク」な女性の腐乱した世界にのめり込みました。
モデルになった有名私立校の内部事情を知ったことも興味深かったけれど、女性を守るのは、「知性」と、「冷静さ」なのだと痛感しました。
外見の美はいつかは衰えるけれど、内面から外に出る美は、年々磨かれていくと思います。
それにしても、娼婦をして最後に殺される2人の女性の末路は残酷で、狂気に満ちていました。
作者の筆力は圧巻です。
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東電OL事件をベースにした小説。
人間の心の裏側をえぐるような感じで読んで感動するとかじゃないんだけど、一気に読んじゃいました。
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実在の殺人事件をモチーフに描かれた
2つの殺人事件の被害者、加害者、妹と、
学生時代の友人を殺された主人公。それぞれの半生。
誰もが賞賛する美人の妹と、同じ高校に通っていたクラスメイトが
同じように殺されてしまう。
妹とクラスメイト、主人公の、グロテスクなほどの欲望やねたみや嫉妬…
同じ女性として読んでいて不気味さを感じてしまいました。
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「東電OL事件」を下敷きにした小説として有名。事件についてはあまり知らないけれど、ネタとしては扱っていてもそのもの、ではないのでかなり違ったものになっていると思う。
人物像がうまく描かれていてよい。
ただ、題名がちょっと(^^ゞ
カバー着けずに読むのはイヤンかも。