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紙の本
意外性と毒、いや退廃、あるいは耽美といった、今までにあまり加納の作品には見ることの出来なかった面が見える、驚きの一冊
2005/03/31 22:15
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
とりあえず菅浩江(ただし『歌の翼に』だけだけれど)、若竹七海、松尾由美と、このひと加納朋子、というのが私にとっての、作品にヒンを感じるミステリ作家だった。不思議なことに男性作家は皆無で、同じ黄金の60年代作家とは言っても乃南アサ、高村薫、宮部みゆきは、品というよりは圧倒的な力を感じてしまう。
で、その加納朋子だけれど、品があるからといって、屈折が全くないかというと、決してそうではなくて、例えば、『虹の家のアリス』は明らかに『螺旋階段のアリス』とは違って、一見少女としか見えなかったアリスが、突然、独りの陰りのある女性に、しかもかなり企みごとを計る女に変貌して、あれ、加納の本当の姿はどっちなんだろうと思ってしまった。
で、この『コッペリア』は、それに更に輪をかけたというか、もし、この本から加納の名前を消して、連城三紀彦としても、かなりの人が納得してしまうのではないか、そんな意外性と毒、いや退廃、あるいは耽美といった、どちらかというと今まで加納が見せてこなかった面があって、少し混乱しながら読んでしまった。
この本の主人公というか、語り手は4人いる。一人は聖子、3人姉妹の末っ子で、今は女優、聖と名乗っている。もう一人が了、一人っ子で両親は死亡、人形に魅入られている。創也は、祖父が雛人形職人だったが、今は人形屋である。そして草太。母と別れて育った青年。
彼らの中心にいるのが、人形師の〈如月まゆら〉である。彼女が作る人形は、決して愛らしいものではない。むしろ、人は気味悪さを感じるという。しかし、その魔力は圧倒的である。一目彼女の作品をみた人は、どうしてもそれを欲しくなる。そして、まゆらが作った人形に瓜二つなのが、聖である。彼女が、自分が出演する芝居に、自分そっくりの人形を使う、悲劇の、いやドラマの舞台は、その劇である、といってもいい。
この小説には幾つもの嫉妬が出てくる。男が男に寄せる、脇役が主役に抱く、凡人が天才に持つ、そして貧しき者が富める者にぶつける。それにある要素が絡む。面白いことに、最近立て続けに、そのあるものを利用したミステリを読んだ。シンクロニシティ、面白いなあと思う。
この話は、因縁話であり、ある意味、乱歩、英夫、邦雄、博子といった人々によって書き継がれてきた演劇、職人、家を扱った小説であるといってもいい。ミステリとしてよりは、人間ドラマとして理解する方が、分かりやすいだろう。
柳川貴代+Fragmentの手になるカバーデザインは、ちょっとピンクが下品ではあるけれど、例えばこれが筒井康隆編著の、あるいは澁澤龍彦の手になる恐怖小説のアンソロジーのそれ、といっても通じるくらい、この作品にマッチしている。読み終わってから、納得するまでにちょっと時差を必要とするかもしれない、あるいはもう一度読み返すほうがいいかもしれない、加納が見せ始めた素顔、というか作風の変化が面白い。