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紙の本
『怖るべき子供たち』『蝿の王』にも通じる子どもの本性を捉えた1929年刊の古典的名作。新装刊。ジャマイカから英国への波乱の家路を描いた特異な海洋小説。
2003/11/30 18:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
米国の出版社ランダムハウスが1999年に発表した「英語で書かれた20世紀文学のベスト100」というリストがある。読者が選んだそれとモダン・ライブラリー編集部が選んだそれの2種あって、かなり違うが、本書は後者の一覧の71位にランクアップされている。ちなみに、1位から5位は『ユリシーズ』『グレート・ギャツビー』『若い芸術家の肖像』『ロリータ』『すばらしい新世界』といった具合。
虎の威を借るわけではないが、ヤングアダルト向けの良書というよりも、もっと広い層に読まれてしかるべき1冊という気がした。小難しい感じ、高尚な感じというのではないけれど、原文もそうなのだろうか。何か格調ある文章の雰囲気にまとまっているし、書かれている内容の根の深さが向日性を阻む。とにかく読んで楽しみを知ってもらうために手にとってほしい本というよりは、読む楽しみを得たあとに一歩先に進んで行くための作品という趣きである。
たとえばどんなことかというと、人に備わった「保身的行為」というものが書かれている。黒いものを白だと言うように明らかなウソをつくのではなく、それをわざわざ口にはしないことによって、あるいは黒の色味を少し薄めてグレーにして言うことによって、事実を曖昧にしてしまうケースというのが、社会の様々な場所にあると思う。何も政治家の汚職レベルのことを指しているのではなく、親や先生への言い訳、上司への業務報告、好きな人への自己表現といったあらゆる場所において見受けられることだ。
自分も無意識のうちに、たとえばここに文章を上げているときにもしていることだろうが、実はかつて他者の作為的なこの行為によって私は深く痛めつけられたことがあって…とつづけていくと別の話になってしまうので留めておく。しかし、そのような傾向に反発を抱くか否かが、人間の「徳」や「品」に関わってくる気がする。反発を抱くのが子どもで、受け容れてうまくやっていくのが大人という言い方をする人もあろうが、つい先日、まだ幼いのに、犯した過失をグレーにしようとした子どもに接して驚きながら、預かったよその子にどう言うべきなのか悩んだばかりである。「子どもの本性」と書いたが、それは「人間の本性」とほぼイコールであり、幼くともすでに個人差が大いにある。そのあたりをうまくすくいとっているのが、『怖るべき子供たち』『蝿の王』、そして本書であると思う。
この小説は書き出しがすばらしい。「いきなりかよ」と驚くほど、最初の1ページ分の記述で、島の荒廃した部分のゴシック世界に放り込まれる。海洋小説に分類できるのだろうが、航海に乗り出す前の島の風土の描写が圧倒的なのである。子どもたちが天災に遭ったがために、親と決別して長い旅に出るという設定なのだが、その天災の記憶が、物語のヒロインであるエミリーという少女のトラウマともなり、人格形成にも大いに影響してくる。航海時の行動も左右する。
古い時代の帆船ゆえに辛く厳しい長旅ということではなく、襲撃され別の船に乗り移ったところで意外な生活が待ち受けているという特異な設定になっている。そして2つの生命が失われる事件が起こるのだが、それが上記の「人間の本性」に関わってくる展開になっている。そのように人の窺い知れない領域を描く文学を「不可能性の文学」と埴谷雄高は称したが、この小説はまさにその系統にある作品で、読後にやるせない思いをもたらす。人は環境の産物なのであろうか。
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