紙の本
徳山道助の帰郷,殉愛
2007/12/14 10:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ああ無常 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和前半を生きてきた人々が目指していたもの、見てきたものを日の当たる道を歩んだ軍人道助とそれを取り巻く兄弟たちのそれぞれの目で余す所無く描いた作品。今や遠くなった昭和の故郷の人々の暮らしの香りを鮮やかに甦らせる。今読むべき本である。
投稿元:
レビューを見る
うーん、これって面白いのか?
文学的に優れているのか?
自分には正直分からなかった、というかむしろ積極的につまらなかった。
この柏原兵三という作家は第58回芥川賞(選者は三島由紀夫など)を受賞しているのだけど、今では全ての作品が絶版となっている。
この一冊も2003年に出版されたものだが、数年で版切れとなっているようで、古本屋で手に入れたものだ。
やはり絶版になっているということは読み手がいないのだろう。
読み継がれるような作家ではないように思えた。
この本に所収されているテーマも
『落ちぶれた元エリート軍人』
『才能が枯れた画家』
『祖母が死んだ話』
といった具合であって面白味に欠けるものである。
芥川賞受賞作である「徳山道助の帰郷」も最初から最後までとにかくつまらなかった・・・。
これを三島は評価していたそうだが、当時としては結構なサプライズ受賞だったようでそれも頷けると思った(そもそも文芸誌に載るのも担当編集の助力による部分が大きかったようなのだが)。
ちょっと今回は外れを引いたかなという感じか。
まあ芥川賞の歴史を知るには良いのかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
「徳山道助の帰郷」「殉愛」「坐棺」の3篇を収録。
「徳山道助の帰郷」は昭和42年下期の芥川賞受賞作。
大分の田舎の農家に生まれ、最後は陸軍中将まで上り詰めた老いた職業軍人が、終戦後10年を経て死期の近づくのを感じながら最後の帰郷を果たす。
これは本当に小説だろうか、と思わずにはいられない淡々とした筆致で、老いた元軍人の人生を振り返るとともに最晩年を迎えた心境を語らせる。
ごく一部センセーショナルな出来事を盛り込んではいるものの、基本的には取り立てて事件めいたものも起らず、著者自身の母方の祖父をモデルにしたという主人公の人生への、国への、故郷への想いを辿ることで、明治から昭和へと生きた日本人が経験した「時代」を感じることができます。
「殉愛」は、3篇の中で個人的には最も気に入りました。
著者自身をモデルにしたと思われる主人公の晩熟な学生が、間借り人である画家とフランス人妻、通いの家政婦として寄り付く美しい主婦との関わりの中で、静かに心乱される感覚がリアルでよい。
「坐棺」はもっとも私小説的色合いの濃い短い作品。
学生時代に、祖母の葬式のために富山の農村を訪れた際の回顧の形式をとり、古い因習に捉われた田舎での親族たちの確執を丹念に辿る。
ひとり先に帰京することになった主人公が思わぬハプニングに遭遇するラストが印象的。
柏原兵三は、芥川賞受賞して5年後に38歳で脳出血により急死。
今となっては実に地味な存在ですが、いずれも不思議な魅力のある小説でした。
すでに絶版になっているようですが、彼の「長い道」という小説は、藤子不二雄Aの「少年時代」の原作だそうです。