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不思議のひと触れ みんなのレビュー
- シオドア・スタージョン (著), 大森 望 (編/訳), 白石 朗 (訳)
- 税込価格:2,090円(19pt)
- 出版社:河出書房新社
- 発行年月:2003.12
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紙の本
「本日のオススメ」に出てなかったら“ひと触れ”もできなかった、これぞマスト傑作選!!!
2004/01/20 14:04
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山 - この投稿者のレビュー一覧を見る
bk1にアクセスするとトップページに「本日のオススメ」というのがある。さいしょ無視していた。
これ、たぶん知られていないことだと思うけど「本日のオススメ」というのは、アクセスした人みんなに同じ本を紹介しているのではなく、その人のアクセス履歴や購入した本などによってセグメントされた本が「本日のオススメ」になるらしいのだ。
つまり「本日のオススメ」というのは理論上、アクセスした人の数だけ存在しても可笑しくない(そんなことはまずないだろうが)。詳しいシステムや本の選択方法は知らないけど、その人の好みそうな本が毎日ラインナップされるのは確かで、当たり外れはあるが、この本『不思議のひと触れ』も年末に「本日のオススメ」に紹介されていた。
買うつもりなどなかったが作者の紹介(もちろんシオドア・スタージョンなんて作家、知りませんでした)と書評を読んで、なんかグイッと惹き込まれて買物カゴに入れてしまった。
結果、大当たり!!! というか、こんな面白い短編集ここ2年ほどでは読んだことはない。なんなんだ、この粘り着くような読み口(目と頭に絡み付くような文体)と唸るような多彩なグルーブ感(ストーリーもリズムも一本調子でなく幾重にも相互作用、化学変化している)は。
河出書房の「奇想コレクション」にラインナップされているが、“奇想”というのは作家としてのシオドア・スタージョンのカテゴリーのことであり、本書は、ありとあらゆるジャンルの要素が詰まった短編集で、その一遍一遍がきら星のごとく脳髄をビカビカ刺激して、まさに「小説を読むこと」でしかイケない境地に読者を誘う。
ぜんぶの作品が、まさにマスト!!! なんだけど一品だけ採り上げるしたら「ぶわん・ばっ!」。
ジャズプレーヤー、いわばドラマーの成功物語なんだけど、これ、ストーリーもいいんだけど、文体がもう完全にイッてる。まるで音楽。
本を読んでいるわけだから(しかも日本語に翻訳された作品だから)、英語原文のリズム感というのは、よくわかんないんだけど目で読んでくだけでカラダの細胞が疼くというか蠢くというか、ともかく読んでる最中にリズムを刻んでいるんだね。ぶわん・ばっ! とか しゅっ! とか、そういう擬音語も挿入されているわけだけれど、読みおえたあと、なんだか一曲のジャズ名演奏をナマで観て興奮してブルブル震えているような感じになった。こういう経験って、ちょっとないよ、ほんと。
紙の本
「愛」と「孤独」の深みを知る者にのみ去来する奇想。「愛」と「孤独」の何たるかを知りたいと願う読み手に開かれる、不思議のひと触れ。
2004/01/26 18:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
2項を用いて物事を解説しようとするのはベタであるけれども、論理的に考えを整理していこうという折にはやはり便利なことである。今はそれを対立する概念として比較対照のために挙げるのではなく、傾向の分析に使う。
紙の上に、あるいはディスプレイ上に1本の横線を引く。右と左のどちらの端にも外側に向けての矢印をつけ、綱引きのように引っ張り合うベクトルとする。どちらかに「孤独への志向」と記入し、もう一方へ「愛への志向」と書けば、人間存在についてのひとつの論考が試みられるだろう。
そして、この図はスタージョン作品のそれぞれを、頭のなかで位置づけするときに使えるかもしれないと思う。だが、ここに収められたある種の小説のなかには、愛と孤独のベクトルが引っ張り合うのではなく、寄り添いながら同じ方向に伸びていくと見受けられるものもある。
あまり抽象的なことばかり書いていると、奇想の1アイディアでひょいと生じてくる物語の面白さを説明することから離れていってしまいそうだ。しかし、「人を恋しがること」と「ひとりでいたがること」との相対する気持ちの状態ではなく、孤独な状態でこそ守ることのできる愛、満ち足りた愛のなかに急に影射す孤独というものも確かにある。そういうものもすくいとっているのがスタージョンという作家の知性なのではないかと思う。
「愛への志向」で説明し得るのは「裏庭の神様」「不思議のひと触れ」「ぶわん・ばっ!」「閉所愛好症」「孤独の円盤」といったところ。「孤独への志向」で説明し得るのは「影よ、影よ、影の国」「タンディの物語」、そして「もうひとりのシーリア」「雷と薔薇」あたり、愛と孤独の寄り添うものと分類されるだろうか。
一番初めのわずか4ページの「高額保険」は、プールに入る前に浴びる冷たいシャワーのような存在で、奇想のショックに対する下準備の働きを果たす。語り(ナラティブ)のトリックにまんまとひっかけられる心地よい裏切りの小説で、とても気に入った。そのほかに、上記の愛と孤独が寄り添うような「もうひとりのシーリア」「雷と薔薇」に惹かれた。特に「雷と薔薇」には象徴的な表現があり、その部分に触れ、その2項が頭に浮かんできたのだ。
——ピートは人間すべての手をポケットに深く突き入れると、ゆっくりした足どりで外野席に引きかえしていった。(286-287P)
これは核戦争後の近未来を舞台にするという、今となってはありふれた設定のSF小説なのであろうが、人類の運命を左右する装置のレバーの存在を知った男が、ある決意をしたあとのくだりである。彼は、その直前、人類に対して大きな葛藤を抱えていた。
——こんな生物が……性根の腐った生物、たがいに殺しあう人類というこの兇暴な生物が、いったいどれほどのものだと? こんな生物に、あと一回でもチャンスを与える価値があるというのか? 人類のどこをどうさがせば、美点のひとつなりと見つかると?(286P)
訳者である大森望氏の解説が何と32ページ。それで、この作家の経歴から評価、作家性に各作品の情報などが分かり、すっかりスタージョン通になった気にさせられるのだが、魔法のように繰り出される奇想の素については、もちろん解き明かされることはない。『不思議のひと触れ』を読んで生じる私たちの内面の化学反応、そしてその余波に支えられる日々こそが奇想の価値であり、新たな不思議の生起につながる。そのように不思議の感得に慣れることが、人と社会をSense of Wonderで満たす契機になるのだろう。
紙の本
あやふやなるままに日暮らし
2004/04/02 14:29
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投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学生の頃、同級生の筆箱の中を見せてもらうのがやたらと好きであった。筆箱はワンダーランドだ。人それぞれに自分の性格とか価値観を投影した筆記用具をそろえ思い思いの筆箱生活を展開しており、それは見事なまでに持ち主の人生観を映す万華鏡であったと思う。年齢的に徹頭徹尾自分の趣味と経済力のみで構築できる世界はほかになく、誰もが自分の筆箱に真摯に打ち込んでいたものである。
『もう一人のシーリア』という短篇に出て来るスリムという男が、だから私は大層気に入ってしまった。この人物は休職中の暇を持て余し、こともあろうに同じアパートに住む人の部屋に次々と不法侵入を繰り返すのである。ストーキングとか窃盗目的ではなくて室内を観賞するだけ。短い話でもあるし詳細は省くけれど、あるじの留守に部屋の中を覗き見するという淫靡で不道徳な悦楽が、それでいてあんまり粘ついた雰囲気でなく、むしろ暖かくユーモラスに綴られているのがとても楽しくて、いっそこのテーマで本一冊書いてほしいくらいだ。しかし構成的にそういうわけにも行かず、スリムは短篇の醍醐味ともいうべき予期せぬ出来事に突き当たり、最終的にはなんとなくばつの悪い表情で物語から退場して行く。そこがいい。自分の行為に疑問や後ろめたさを覚えつつ、いつも何らかの保留事項を心に引っ掛けている人の方が、頼りがいには欠ける気もするが安心できるものだ。
なんであれ物事に確信を持っている人、というのは胡散臭い。
先日京都の養鶏業者の会長夫妻が自殺するという痛ましい出来事があったけれど、その事件を「鳥インフルエンザ騒動の真相を明らかにする義務を放棄したのであり遺憾である」という論旨で眉ひとつ動かさずに報道していたニュースキャスターを見てちょっと愕然とした。別に私は「キャスターたるものもっと盛んにマユゲを動かすべきである」と言いたいわけではなく、確かにその主張は正論なのだろうが(マユゲではなくキャスターの言い分の方だが)、どう考えてもあの会長夫妻は報道関係者に追い詰められたように見えたからだ。そうでなければ、刑事告訴は免れないとしても命まで失うことはなかったのではあるまいか。しかし私の見た限りでは(それほど多く見聞したわけではないのだが)そういう反省のもとにニュースを伝えた人はいなかった。
正義面をしている人というのはそのほとんどが、その寄る辺となる正義の有りようを自分で考え出しているのではなくて、既成の道徳観に照らし合わせたぺらぺらの御旗を掲げてワイワイ盛り上がっているだけだ。そのことに自分で気付いていないとしたら実に恐ろしいことだし、気付いてはいるけれど立場上気付いていないふりをしているのだとしたら、あの会長とどれほどの違いがあるのだろう。
これは言ってみれば、ある種取り返しのつかない事態に直面し、その苦さを内に抱えて行くほどほどに善良な男(覗き屋だが)の物語だ。それが悟り得ない凡人としての、ひとまずあるべき姿なのだと思う。あやふやなる人は幸いである。人間はたぶん流動的な媒質に過ぎない。
この話ばかりでなく、どの作品のどの人物も人物造形がたくみで生き生きとしているのに感服するのだが、特に『タンディの物語』の主人公の少女の憎らしげなところがまた圧巻。
紙の本
内容紹介
2003/11/03 23:17
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投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
【内容紹介】
アメリカ文学史上最高の短篇作家シオドア・スタージョン、待望の傑作集!月の出を待つ孤独な男女に、なにかが起きた……屈指の名作として名高い表題作「不思議のひと触れ」(「奇妙な触合い」改題)をはじめ、「もうひとりのシーリア」「影よ、影よ、影の国」「裏庭の神」「ぶわん・ばっ!」「雷と薔薇」「孤独の円盤」、さらにデビュー作「高額保険」他2篇の本邦初紹介作を含む、全10篇収録。編者による詳細な解説つき。
【著者略】
シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon)1918年、米国ニューヨーク生まれ。SF・幻想小説家。52年、長編『人間以上』で国際幻想文学賞受賞。代表作に、『夢見る宝石』『一角獣・多角獣』『不思議のひと触れ』他多数。85年、死去。87年、シオドア・スタージョン記念賞が設立。現在、米国にて短編全集(全10巻)が刊行中。