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紙の本
音響学者だそうだけれど文章はグルーヴ感不足
2004/01/19 20:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る
栗本慎一郎直系の若手学者(京大助教授)による遅れてきた現代思想本。本書のノリは80年代風だ。「ヒトの進化の謎はここで完全に解かれる!?」と御大自身による序文がついているが、果たしてどうか。
乱暴に要約してみよう。
我々の祖先は進化の過程で知の快感装置を頭の中にビルトインした(表現する快感、および受け取る快感、また理解する快感)。そのことによって知の増大が図られ、脳の容量では勝るネアンデルタール人に打ち勝って現在の形に進化してきた。その知の快感装置とは、リチャード・ドーキンスによって発見されたミームに他ならない。概念であるミームは、物質的には記憶の際に起こる脳内の変化(=シナプスの変化)に対応する。
とまあ、こんな種類の議論である。
論証のために、マイケル・ポランニーの「暗黙知理論」および栗本慎一郎の「層の理論」が下敷きにされ、プリゴジンの「自己組織化論」、澤口俊之の「脳の多重フレームモデル」が引用される。こういう知のコラージュが少し懐かしい。部分的に少しは惹かれるフレーズがないではないが、一冊通しでつきあうのはちょっとつらい。議論の成否以前の問題として、師匠格の栗本慎一郎が持っている文章の強いグルーヴ感が感じられないのだ。80年代のエクリチュールが一様に持っていた文章のリズム(浅田彰の美文が典型)がここにはない。何よりそれが致命的だ。
進化論について最新の議論を知るなら、餅は餅屋で、佐倉統の方がずっとよいと思う。たとえば『現代思想としての環境問題』(中公新書)を推す。人類進化の謎といった大テーマに迫るのなら、もう少し地味でも緻密な議論の方が長持ちするのではないか。
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