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アフリカの宗教――特にサハラ以南のアフリカ諸民族で信仰される民族宗教を紹介した書。キリスト教、イスラーム以前から今日まで続く「アフリカ宗教(African Religion)」の神学や諸神話、儀礼や信仰形態を包括的に解説し、その根底にあるものを説く。
本書は、Facts on File社のWORLD RELIGIONシリーズの一冊であるAloysius M. Lugira, AFRICAN RELIGION (Facts on File, 1999)の日本語訳である。アメリカのアフリカ宗教研究の重鎮である著者によって記された本書は、初学者向けにアフリカ宗教を概説・紹介するものとなっている。宇宙の創造者・維持者たる至高存在とその子供達である諸精霊、世界に満ちる神秘力とそれを扱う諸々の儀礼……。様々な民族における信仰形態を概観しつつも、著者はアフリカ諸民族の信仰が一つの本質の上に成り立つものであると解説する。即ち、キリスト教やイスラーム以前よりアフリカ大陸に存在した一神教、人が自然・超自然含めた宇宙の一部であるというヒューマニズムとしての「アフリカ宗教」である。
アフリカの民族宗教を平易に紹介しつつ、従来の論説とは異なる斬新な解釈を示す本書ではあるが、皮肉にもその斬新なアフリカ宗教論は問題を多々含むものとなっている。例えば、著者は一つの「アフリカ宗教」を希求するあまりアフリカの多様な宗教形態を単純化しすぎていると訳者は指摘している。「アフリカ宗教」の本質を唯一神としての至高存在を崇める一神教とする説も、かのシュミット神父の「原始一神教説」――すでに棄却されて久しい一神教的な宗教理解の焼き直しの域を出るものではない。訳者はあとがきにて本書を「アフリカ出身のアフリカ宗教研究者が、西洋的宗教研究の枠組みのなかで、みずからの宗教的伝統を再吟味するならば至るある典型的な議論の方向を示しているといえよう」(p169)と評しているが、それを踏まえてみると本書はある種の著者の政治的スタンスが表れているようにも感じられた(本書の最終章で著者が、「アフリカ宗教」――他の宗教にも負けない倫理性とヒューマニズムを兼ね備えた世界宗教の復権と復興を高らかに謳い上げている点からもそれは察せられる)。初学者向けの平易な本であり、各民族の至高神名リストなど面白い要素もあるが、同時に内容には注意が必要な一冊であるといえるだろう。