紙の本
陸軍大学校における教育の欠陥より組織上の問題点の方が主論
2004/05/22 12:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
陸軍大学校における教育の欠陥が主要テーマとのことだが、それより組織の問題の方が、主に論じられている。
陸軍大学校における教育の問題点については、二点しか取り上げられていないようだ。国家方針と絡む高級戦略をになうべき将帥の教育と、狭い意味の戦略と戦術を担当する参謀の教育とを区別せず、曖昧にしたことが一つ。このため、視野の狭い戦闘の専門技術屋集団は育成できたが、国家の将来を見据えた戦争全体の方針が立てられなくなった。戦争をいつ始め、いつどのような形で終わらせるのか、全く考えられない。そのときの状況次第で、自分達の思い込みと希望的観測で突っ走る。現在の政治家の状況も同じかもしれないが。第二は、大学校といいながら、政戦略の幅広い研究が行われなかったことである。そもそも、日露戦争のために、中堅参謀の育成のために作られた学校で、途中から将帥となるための指導者育成が目的に追加されたが、そのためのカリキュラムが整備されなかった.。国家戦略を策定するためには、広い教養と人格の育成の必要性が、認識されなかった。むしろそのためには、一般の大学に国内留学させるべきであったろう。
以上の趣旨も、割かれている紙幅は少ない。ほとんどは、時の権力者たちの私意による軍政と軍令の分離の問題、その解決策として政略と軍令の調整のために設置された余計な調整機関、といった組織上の問題点が論じられている。もっとも、そのような組織上の欠陥が起こるのも、明治時代はともかく、大正昭和時代は、高級軍人の人の問題であり、その根本は陸軍大学校における教育の欠陥であるという、主張であろう。
投稿元:
レビューを見る
戦争遂行において中心となった陸軍参謀本部と、その人材教育を担った陸軍大学校について書かれている。
いかに戦前日本の軍事システムは未熟であり、太平洋戦争が無謀な戦争であったのかが分かる。ここで指摘されている組織の欠陥、教育の欠陥は現代日本でも指摘されており、勉強になる一方で、全く変わっていない現状に苦笑せざるを得なかった。
投稿元:
レビューを見る
陸軍大学校の話を十分にからめきれていないと思いましたが、
参謀本部の成り立ちの裏に夥しいほどの欲望が渦巻いていたことが感じ取れました。
どんな組織・機構も政治力学から逃れることは出来ない。
政治に長ける人が得をする。
どこもかしこも、
ずっとそういうものなのだということを、
悲しいかな確信しました。
投稿元:
レビューを見る
旧日本陸軍の参謀組織とその人材育成の視点からの簡単な通史。いたずらに悪者探しではなく読みやすい。政軍に通じた人材を育てられなかったのが致命だったと言うことか。
投稿元:
レビューを見る
なぜ日本は無謀だとわかっていた太平洋戦争を開始してしまったのか?
内閣と陸軍の分裂、陸軍と海軍の分裂、参謀本部と陸軍省の並列関係、陸大の「総力戦」学軽視、という組織や教育の側面から説明した力作。
戦前の軍の状況はあまり知られていないが、首相は大本営メンバーではなかった、陸軍大臣は参謀本部長よりも格下だったなど、意外な事実を学ぶことができた。戦前の軍組織の関係を知らなければ、当時の意思決定を正しく知ることはできないはず。
投稿元:
レビューを見る
日本はなぜ太平洋戦争へと突き進んでいったのか?陸軍、関東軍の暴走というのはよく言われている。ではなぜ陸軍がそうなってしまったのかを、陸軍の士官を養成する陸大の教育の分野から問い直している。その対象は広く、陸大・参謀本部の成り立ち、関係性や海軍、政府との関係について詳細に説明されている。また私が今まで勉強して来なかっただけだが、太平洋戦争に至るまでの動きが細かく書かれていたので、勉強になった。
人材教育の重要性と難しさは企業や現在の義務教育の場面にも当てはまると思った。また何を教えるかとはどんな人材を作るかであり、それは数十年後の日本や世界のビジョンをきちんと描かれていなければならず、今の日本にも不足している点だと思った。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
日露戦争に勝利した新興国家はなぜ破綻したのか。
組織の欠陥と無定見な教育に敗戦の真因を見出す新史観。
[ 目次 ]
第1章 山県有朋の参謀本部
第2章 幻となった統合参謀本部
第3章 陸軍大学校とメッケル
第4章 参謀本部の初陣―日清戦争
第5章 問われた陸大の真価―日露戦争
第6章 衝撃と迷走―第一次世界大戦
第7章 石原莞爾の挫折―日中戦争
第8章 組織が生んだ狂気―大東亜戦争
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
山県有朋の参謀本部◆幻となった統合参謀本部◆陸軍大学校とメッケル◆参謀本部の初陣-日清戦争◆問われた陸大の真価-日露戦争◆衝撃と迷走-第一次世界大戦◆石原莞爾の挫折-日中戦争◆組織が生んだ狂気-大東亜戦争
投稿元:
レビューを見る
2004年刊行。著者は防衛庁防衛研究所戦史部主任研究官。アジア太平洋戦争で敗れた要因は、政略・戦略眼の欠如、実行能力の不足、情報・兵站の軽視などに存すると見て、そこに至った理由が軍事指導者を輩出した陸軍大学校の教育の拙さにある。このような観点から、陸軍大学校の教育内容やその変遷、参謀本部の設立からその組織改編、現実の戦争指導等を広範に解読。陸軍大学校の教育内容に触れているのが少ない中、貴重な書だが、日清戦争以降の戦争指導の有りようも記述されているため、もう少し大学教育の部分を膨らませてほしいと感じた。
個人的な関心事からすれば、第三章、第四章1、2、第五章2、3、第六章3、4、第七章3、第八章1、2で十分かもしれない。
投稿元:
レビューを見る
「なぜ無謀な戦争に走ったのか」がわかれば、将来「無謀な戦争に走らずに済む」わけではないような気がしてきた一冊。
新書サイズにも関わらず、陸軍大学校と世界大戦の関係をきっちりと時系で説明できていて著者の知性というかドヤ顔が伺える。
陸軍大学校の創立から消滅まで、敗戦の一因としての立ち位置を新書レベルで克明に書かれている。例えば学校の卒業者が受けた教育の内容が貧弱だったために、第一次大戦において陸軍は「欧州に派兵しない(したくない)」という結論に至ってしまったのだが、これが無残な結果を招くことが予想できなかったなどなど。また共産化を防ぐという目的を離れて中国大陸で戦闘を初めてしまう暴走ぶりなど、どう考えても幼稚で痛々しく時代遅れの知識が背景にあることがよくわかった。
「戦争はんたーい」と叫んでいれば戦争に「巻き込まれない」なんて幼稚に考えてると、また「敗戦」するかもね。
投稿元:
レビューを見る
参謀本部、陸軍大学校、とちらも名前は聞いたことあるけどよく知らないってところ。
明治維新の勢い冷めやらぬ日清日露あたりまでは、組織の構成に不備があっても属人的な力で上手く回っていたものが、落ち着いて制度ができる頃から秀才は輩出されるんやけど大局を見る人財がいない、育てられない。簡単に歴史は繰り返すとか言うのも良くないけど、結局戦後日本も勢いのある高度成長期まで、落ち着いて来たはずなのに勢いがなくなるバブル崩壊後、いつか来た道感がもの哀しい。