紙の本
近藤が歌舞伎の大ファンで、公演を見るために毎週のように新幹線で上京していたって読んだ時は、この本を抱えて腰抜かしたね、わたしゃ
2004/05/14 21:45
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本格ミステリマスターズの一冊。全12章。小菊の語る現在と、実の語る過去が交互に並ぶ構成で、その様子はゆっくり読んでもらう。小説は230頁に満たないもので、さらりと読んでしまう。
本文に続いて「もし歌舞伎が好きでなかったら」という、あとがきにかえて。「切り離された双生児たち」という、濤岡寿子による近藤史恵論、濤岡寿子による近藤史恵への「近藤史恵スペシャル・インタビュー」、最後に近藤史恵著作リストがついているシリーズお馴染みの構成。
で、話は梨園の人間関係の謎を扱うミステリ、とだけ簡単に触れておく。読みやすいので、ともかく手にして欲しい。カバーデザインが洒落ているシリーズなので、多分女性が持っていても、ファッシャンやデザイン関係のものと受け取られて、少しも恥ずかしくない。数あるミステリ叢書のなかでもダントツの存在。
で、登場人物を小菊と実の二手に分けて紹介しよう。
瀬川小菊は養成所出身の名題下の女形、師匠は60代で柔和な性格の瀬川菊花である。今、菊花のもとに、稽古をつけて欲しいとやってきたのが35歳の芙蓉、そして現在稽古をつけてもらっているのが桔梗屋の豊こと中村国蔵、芙蓉と同年代の女形で、国蔵は立役もやる。父親は名脇役と言われた先代の中村国蔵だが、主役級の家柄ではない。弟子は、中村国高、わたし小菊とおなじ中二階の女形役者、ただし養成所出身ではなく直接国蔵に弟子入りをしている。
玉置実は岩井芙蓉付きの番頭、名前はともかく女性、多分30代だろう。芙蓉は江戸時代から続く、名女形の家系に生まれ可憐な娘や姫を得意とし、女形か若衆以外は演じようとしない。妻は市ノ瀬美咲、有名な資産家の娘で、梨園の名家に嫁ぐだけあって人付き合いなどもソツなくこなすが、どちらかというと目下のものへの対し方が上手くはない。芙蓉の弟子は芙二郎だが、話の中での影は薄い。
この芸風が全く異なる、周囲からは中が悪いと思われている二人の役者を繋ぐのが、三ヶ月前、芙蓉を襲った悲劇である。弟子宅で麻雀に興じていて留守だった彼の自宅での火事、家で眠っていた妻の美咲は一酸化炭素中毒と火傷で未だ昏睡状態なのである。この事故を不審に思った国蔵が、小菊の大学時代の同級生で、母校の講師から転じて探偵となった今泉文吾に、調査を依頼したことから華やかに見える梨園の本当の姿が見えてくる。文吾の助手をするのが山本公彦、もうじき20歳の大学生である。
そして、事件の鍵は、芙蓉の発する問い「玉手は、俊徳丸のことを本当に好きだったと思いますか?」である。
上手いものである。特に、探偵今泉文吾が目立たないのがいい。近藤の思いは別にして、この小説で一番目立つのは芙蓉の妻美咲ではないだろうか。筆が割かれるのは、目の役をする小菊であり、実ではあるのだけれど、なぜか美咲が得をするのである。脇役が主役をくう、とでも言ったらいいのだろうか。ともかく舞台を扱うに相応しい、予想外の結果である。
で、鳥頭である私は、あとがきや濤岡寿子の近藤史恵論を読むまでは、これが『桜姫』と同じシリーズとは思いもしなかった。ウームである。近藤の「もし歌舞伎が好きでなかったら」という心配りに、わたしは小林恭二『歌舞伎通』を読むことを皆様にオススメする。この本を読んで、私の歌舞伎パッシングが、少しは収まったし、逆にもっと知りたくなったほどである。
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火事が原因で昏睡状態になった、歌舞伎役者の妻の美咲。彼女が愛した相手とは?放火した犯人は?
人の心理と歌舞伎の筋書きとの絡め方がお見事。最後はすごく切ないですが、すとんと綺麗にオチたな〜という感じ。生で歌舞伎を見たくなりました。近藤さん、きっと今年7月の歌舞伎座(「桜姫東文章」)は見に行かれたんでしょうね〜。
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今泉さんが出てくる(と、いうか小菊ちゃんが出てくるお話はいつも切なくて胸にぐっとくる。
これもそうでした。
摂州合邦辻を舞台に梨園で起こる事件です。
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探偵今泉文吾が登場する歌舞伎ミステリの第4作。
3ヶ月前の火事が元で、岩井芙蓉の妻・美咲は意識不明に陥り、以後眠り続けている。名門出身の女形である芙蓉とはライバル関係にあり、梨園では不仲と噂される中村国蔵は、何故かこの火事を不審に思い、瀬川小菊の紹介を得て今泉に調査を依頼した・・・
今泉とは別の視点から真相に迫ろうとする小菊の語りと、1年前から現在まで順にたどる芙蓉の番頭であり美咲の友人である玉置実の語りが交互に登場する形で物語は進んでいきます。その構成は本格ミステリそのものかも知れませんが、物語の主題はミステリ的部分よりもラブストーリーに傾いている気がします。今泉の出番も少なめです(もちろん、実の語りでは登場しませんし)。ラストで読者を驚かせるようなインパクトが、イマイチ欠けていた気がします。
筋書きはシンプル。しかし「二人道成寺」「摂州合邦辻」などの演目が物語を盛り上げ、そして真相が明らかになったときにより切なくしてくれます。あとがきにあるように、歌舞伎と本格ミステリはどちらもお約束が決められています。そのお約束=様式の美しさをうまく併せ持たせた作品ではないでしょうか。
歌舞伎に詳しい人も、そして詳しくない人も楽しむことができる恋愛ミステリの佳作です。 (2005.02.25)
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歌舞伎という一般人にはなじみの薄い世界をテーマにしているが、わかりやすい。ミステリとしては、淡白な印象。
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この人初でした。ふっと本のなかのことを考えて顔を上げてみたときにふーーーっといろいろこみ上げてくるポイントがおおい、そんな本でした。よかったです。
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歌舞伎を題材にしたの説を読みたくなった。歌舞伎の脚本つーのか?何百年も続く本(題材)の現代語訳で読んでみたいなぁと、歌舞伎に興味を持ったわ。
そう言えば女形坂東玉三郎好きで、歌舞伎中継よく見たもんら
作品は、歌舞伎の世界をモチーフに段落単位の進行で、面白かった。
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近藤さんの小説は、どうも優しすぎるお人よしな主人公が多いなと思っていたけれど、それでいいのかもしれないと思った1冊。そして、今までで1番おもしろかった1冊。歌舞伎のことはなんにも知らないけど、すごく興味深く読めた。途中あたりから、あ・これはもしかして・・・と気づいてしまいかけたのはあるけれど、それでも最後に悲しい方へだけれどストンと収まったのは気持ちいい。心の闇、なんて簡単には言いたくなくなるね。
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2007/9/30
掃除屋さんキリコのシリーズを読んだことのある作家さん、微妙に苦手意識があって遠慮してましたが、読むものなくって手にとってみた。
歌舞伎役者をめぐるささいな(?)謎とき話。ウンチク好きな私としては、歌舞伎の事が色々知れたのは面白かったけど、ミステリとしては中途半端で。
読み終わって何も残らない。ウンチク好きで影響されやすい私が歌舞伎見に行こう、とも思えないのは珍しい。淡々とした作風の作家さんなので、こんなものなのかな。
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歌舞伎界を舞台にしたミステリー長編。登場人物それぞれに含みがあって面白い。歌舞伎のマネージャー業務、初めて知った。内輪を知る楽しさもありました。シリーズもの。
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歌舞伎の女方である主人公から見た梨園の中の事件。シリーズ4作目?
道成寺はまだ見たことがないけれどぜひ見てみたくなった。
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歌舞伎シリーズ。例により、やはりどろどろの人間関係が垣間見える。けれど、その解決は哀しくも優しい。後味もすっきり、ではないけれど、穏やかな印象。歌舞伎の絡み具合もいうことなし。今までのシリーズ好きな人にはもちろん、ネタバレがないので未読の人にもお薦め。
今回の歌舞伎は「摂州合邦辻」がメイン。これもまったく知らない物語なのだけど、これを読むと見たくなったな。タイトルに「道成寺」が用いられているところから察したとおり、テーマはやはり「情念」。だけど全体としては醒めた筆致で描かれているのが個人的には好きだな。特に語り手の一人である実の視点に共感。すごく自分と似ているような気がして、珍しく感情移入しまくり。
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梨園の人々のサスペンスを絡めた恋愛のお話。
ところどころ歌舞伎の話を絡ませてあり、歌舞伎を知らない私でも少し歌舞伎に興味を持った。
梨園という一般の社会とは少し異なる世界の話も少々あり、興味深かった。
ただ、探偵役はあまり必要なかったかな、、という気もする。
シリーズものらしいのでそのへんは出さざるを得ないのかもしれないが。。
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不審火が原因で歌舞伎の女形役者の妻が意識不明となった。背景には妻をめぐる2人の女形役者の確執などが秘められていた。謎を解こうとする現在と事件が起きる1年前のことが、看板役者の弟子と女形の番頭によって交互に語られていく。
なんとなく図書館で手に取ってみた本だったのに、予想以上におもしろかった。『サクリファイス』の著者だよね?
歌舞伎『野崎村』のお光とお染は誰なのか。『摂州合邦辻』が事件に投影されていたのか。二転三転して、最後は切ない。どうしようもなかったのか・・・。何かが起こりそうな、ジワジワと何かが進行していくような語り口。読ませるわ。。読みながら、小池真理子の『恋』がずっと頭の中にいた。
どうやら探偵・今泉シリーズっていうのがあるらしい。
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女の情念。
探偵シリーズなのに探偵の影が薄いところがいい、このシリーズも4作目。
道成寺というタイトルからてっきり安珍清姫伝説と絡めたのかと思いきや、摂州合邦辻が大筋を占めていた。
ただ、タイトルにピンと来る人もいるだろう。(私は最後まで清姫伝説のアノ場面をコロッと忘れていた・・・)
ある意味最大のネタバレをタイトルでやってしまうとは・・・近藤さんも賭けたな。
実の過去視点と小菊の現在視点で話は進んでいくが、途中でこの話は四角関係か、とあらぬ疑惑をかけていた(笑)
それは無いと分かっても最後まで三角関係の疑惑を捨て切れなかった。
結局、一方通行(おそらく)行き止まりだったので良かった・・・(のか?)
三角関係だったらもっと面白いと思ったが、おそらくそこまで話を引っ張ると本筋と離れてしまうだろう。
私のものなのに、決して手に入れられない。