紙の本
孤高の評論家のテクスト
2006/07/25 17:30
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、評論家スーザン・ソンタグさんのシンポジウムでの発言や
公演内容、エッセイなどを収録した本です。
前半は、討論会や公演での内容を活字に起こしたものがメインで
後半のテキストは、エッセイに近いです。
ソンタグさんのことは、あまり詳しく知らなかったのですが、
時節に流されず、常に自分の信念と考えを表明する
正に、孤高の評論家みたいです。
同時多発テロ以降もその発言は、緩むこともなく、
ドイツで行われたなにかの賞の授賞式でも、ソンタグさんが出席するだけで、
現ブッシュ政権下の駐独アメリカ大使が、出席を見送ったほどです。
アメリカ人でありながら、アメリカを客観的、冷静的に見るために
常に、アメリカ以外に滞在することを望み、
正に外からアメリカというものを見つめています。
又、ソンタグさんは、大江健三郎さんとの往復書簡でもわかるのですが、
完全に武力というものを捨てた平和論者ではなく、
最小限の武力行使というものを、認めながらも、その行使にいたっては、
最大限の考慮と相手の尊重が必要と言う考え方です。
日本出版向けの前書きにも、書かれている
ソンタグさんの言葉、ここに。
「孤独は連帯性を制限するが、 連帯性は孤独を堕落させる」
この孤独と、連帯は、solitaire( 孤独)solidaire(連帯)となっていて、
英語では、韻をふんでいます。
投稿元:
レビューを見る
『常に旅をすることを心がけること。』
ソンタグとしても決して好きではない母国アメリカ、
その母国を客観的、冷静的に見るために様々な国へ滞在し、
その国が受けた影響や現地の人々の見方を自分の目や耳でリサーチして、
自分なりの考えを慎重に構築して行く。
『つねに自分の言葉や感情を疑いながら考え、発言せよ』
『安寧な状態は人を孤立させる。』
普段忙しさにかまけて自分を取り巻く世界の様々な問題を『熟考する』機会が、無くなって来ている。
そのことを改めて思い出させてくれる本。
シンポジウムでのやり取りは、彼女の真摯な態度を垣間みる事が出来、
事なかれ主義的な日本人として暮らしてしまいがちな私としてはその強硬な態度に驚き、
その後語られる言葉によって納得するに至った。
投稿元:
レビューを見る
人の生き方はその人の心の傾注(アテンション)がいかに形成され、また歪められてきたかの軌跡です。注意力(アテンション)の形成は教育の、また文化そのもののまごうかたなきあらわれです。人はつねに成長します。注意力を増大させ高めるものは、人が異質なものごとに対して示す礼節です。新しい刺激を受けとめること、挑戦を受けることに一生懸命になってください。
アテンションは知力を表す
ということに近いのかな
投稿元:
レビューを見る
メモ 「美についての議論」
<ガートルード・シュタインいわく、芸術作品を美しいと言ったら、その作品は死んだことになる、と。美しいということは、「たんに」美しいだけのこと、の同義語になりさがってしまったのだ。これほど味気ない、あるいは陳腐な賛辞がほかにあるだろうか。>
テイストとコンセンサス、カントの判断
「美しい」と「面白い」(ant.退屈)
<今日では、よいテイストは美よりもっと逆行的な観念にすらなっているようだ。厳粛で難解な「近代主義(モダニスト)」芸術や文学は時代遅れとみなされるようになった。俗物たちの共同謀議である。いまや、革新は弛緩の代名詞となった。今日のE=Z(イージー)アートは、万人に青信号を発している。>
投稿元:
レビューを見る
高橋源一郎は授業でこのテキストを紹介した後で、「窓の外を見てください。風景が変わって見えませんか?」と語った。自分の内側に向かって強烈な力が働く。魂の核、心の芯といったものが意識させられる。スーザン・ソンタグは掘削機だ。固定概念という大地に鉄の爪を立てる。
http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100428/p5
投稿元:
レビューを見る
問題意識の厳しさ、曖昧さの回避、定義の厳密さ、歴史から学ぶ姿勢。氏の眼差しの卓抜した鋭さにまた多くを学ばせてもらった。
投稿元:
レビューを見る
Sさんに紹介してもらった。思考の奥深さを改めて知る。
「インドさながらの世界―文学の翻訳について」が特に面白かった。
投稿元:
レビューを見る
来日された際のトークセッションや
雑誌のインタビュー、随筆等色々な角度から著者の思想を伺いしれます。
特に序文が印象的で「読み返す事のない本は読む必要がない」「自己検閲は恐ろしい事である」などの部分が心に残りました。
投稿元:
レビューを見る
見聞きしただけでなく、直接の体験を根底に意見をすること。しかし自分の意見にすら懐疑を抱き続けること。思索と言語への真摯さ慎重さを感じる。歴史から進化過程を考え、同時に抽象的な用語や単語を精査する。大きな構造的概念に留まる時、その下で声なき命が押しつぶされる。9.11や水俣の悲劇を後世にどう残すかと云う話が興味深かった。3.11後の移り変わる町を見ながら、気配のような何かを伝えるには何が必要だろうかと考えた。1942年12月末の冬のロシアで警備に立っていたドイツ兵士の手紙が引用されていて、とても美しかった。
投稿元:
レビューを見る
序文だけでも持っていかれる。というか(友人が紹介していたものに感銘を受けたので)序文のためだけに買ったと言っても過言ではない。
そして内容も、戦争や環境問題も含め世界が混沌としている今だからこそ響く。本書ではパレスチナ問題にも触れられているが、それについての明確なイエス、ノーではなく、歴史に立ち帰ること、その歴史が織りなしてきた社会的構造が複雑に絡み合った結果が戦争であること、そしてその事実を知り意見する以上に「傾聴し続ける」こと、「認識し続けること」の重要さが説かれている。
おそらく本書はインタビュー集のオムニバス形式なのと対談相手が日本人であることから洋書は出版されてないものと推測するし、現在絶版なのでAmazonでも高値と思うような金額で売られているが、その値段でも買うに値するようなことが書かれていると思う。