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ブラボー、伊坂幸太郎。この、少しほろりとして、同時にガッツポーズを取りたくなるような胸のすく思いがして、更に、ちょっと世の中のことを考えさせられるような話はなんだろう。ミステリー作家としてデビューはしたものの、恐らく本人にミステリーに対するこだわり、あるいは、描く世界を狭くしてしまうような制限は、最初から無かったのだろう。
この本には5つの話が詰まっている。そこに登場する主要な人物はどの物語でも重なっている。しかし5つの話は時間の流れに沿って書かれている訳ではない。このやり方は伊坂幸太郎では初めてみたけれど、オーソドックスなオムニバス的手法だ。こういうやり方で書かれた時、登場人物の魅力だけに頼るのではなくて全体としてどこかに謎めいたところが残っていると、話としてもしまった感じがする。読む方も、話と話の間で停滞することなしに、惹かれるようにしてずんずんと読み進ことができる。もちろん、伊坂幸太郎の「チルドレン」でもその心配りはなされていて、ひとつ一つの話の中での小さな謎と、全体を通して明らかとなる、もう少し大きな謎とが交錯している。もちろん、ミステリーとしてみれば可愛い仕掛けなのだけれど、さすが解ってるよね、という感じがする。
その、もう少し大きな謎、に絡んで来るのが、主要な登場人物の一人である、陣内、だ。伊坂幸太郎の小説の中には必ずちょっと特殊な能力を持った人物というのが出て来るのだけれど、陣内もある意味でそのカテゴリーに収まる一人だと言える。彼は、底なしの自己中心的人物のようでありながら、周りの人間を何故か不思議と温かい気持ちにさせる能力を持っている。学生時代からの友人の一人である鴨居だけは、あからさまに陣内を嫌っているようであるが、付き合いを断たないところを見ると、彼は彼なりに陣内を好いていることが解って内心にやりとしてしまう。(余談だけれど、この、内心にやり、というのがどうも伊坂幸太郎の小説の特徴だが、なんとなく底の浅い楽しみ方であるようにも思えて、にやりとした後すぐに真面目な顔をするように心がけているのだけれど、どうもそこに惹かれるのだ)。陣内は、周りからみれば何を考えているのか解らない行動をしまくる。しかし、冷静に考えると、陣内の行動はそこにある問題を解決するのに効果的であり、あたかも彼が最初から計算で行動していたようでもある。そこで読者は考えてしまう。それは計算に基づいてのことだったのか、と。しかし、それはどうやら買い被りがすぎるようだな、と思い返す。その行ったり来たりで揺さぶられる。
5つの話の中で、一つだけ、どうしても陣内は計算ずくだなと思える話がある。それが「チルドレンII」で、その話は家庭裁判所に勤める陣内の後輩武藤の視点で語られるのだけれど、武藤が陣内に寄せるどことなく渋々の信頼が感じられるせいか、他の話には無いくらい陣内の行動は最初から最後まできちんと考えられたもののように思える。それでいて、全てをちゃらちゃらとやっているかのように振る舞っているようでもあるのだ。単純なヒーロー像ではないけれど、陣内を描く伊坂幸太郎がこのような人物を好んで描くのは、作家本人の人間観によるものなのだろうな、と思う。
特殊な能力を持つ人物は、実はもう一人登場する。それが盲目の永瀬だ。永瀬は生まれながらに目が見えないのだが、残った感覚能力を使って周りの状況を的確に判断することができる。本当の意味で、こんな人物がいたらとてもスマートだろうな、と思わせるのだが、またまた、これは伊坂幸太郎の小説ではお馴染みのキャラクターだ。例えば「陽気なギャングが地球を回す」では人のついた嘘が解ってしまう成瀬、「鴨とアヒルのコインロッカー」に出て来る謎の隣人。ちょっと間違えばこういうスマートな登場人物は薄っぺらくなってしまうのだけれど、伊坂幸太郎の描き方はそのギリギリのところで留まっている、と言えると思う。
これが直木賞を取るかどうかは解らないし、個人的には「重力ピエロ」の方がもっと良かったけれど、この作品が伊坂幸太郎のやりたいことっていうのを、少しはっきりさせたようにも思う。実は、そのやりたいことは、必ずしも自分にとって読みたいものかどうかは解らなくて、次の伊坂幸太郎の作品には、少しだけ手が伸びにくくなるのかな、という予感がしている。
ところで、帯に「短編集のふりをした長編小説です」という作者のことばがあるけど、その違いって何だろう? 自分にはこれは短篇集にしか思えないけど。まあ、それはお愛敬ってことで。
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短編として一つ一つ完結しているのにつながっている。
さくさく読めて、そして後味のいい内容でした。
晴天の午後にバスに乗って外を眺めている。言葉にするとそんな本ですかね。
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5つの短編からなる連作集です。 ・・・が、筆者があとがきで「一つの長い物語として楽しんでいただければ」と書いているように、長編だよね?と思えるようなまとまりがありました。
一つ目の作品「バンク」だけ、いくつかの章(というか節?)に分かれています。
それぞれに小タイトルがついているんですが、その命名の仕方がツボでした。
こういう言葉遊びって大好き。
登場人物も魅力的。
目立っていたのは、盲目ながら的確な推理を見せる「永瀬」と、メチャクチャやっているようで奇跡を起こしてしまう「陣内」。
2人とも、セリフや行動に意外性がある。
でも無理がないんです。
永瀬の小気味好い推理は読みながら嬉しくなるし、陣内の言動も痛快。
何より素敵なのは、2人ともすごくあったかいの。
どの作品も最後にはピッタリと納まるので、『そういうことか〜』とスッキリ。
それでいて温かい気持ちにも浸れる素敵な作品でした。
余談ですが、私はどうも名前から人をイメージしてしまう癖があるみたい。
「伊坂幸太郎」さんも、もっとお年を召した方なのかと・・・。
お若い人だったんですねー。
2つしか違わないとは!意外でした。
でも、写真を見たら、作品から感じていた通りの優しそうな印象。
『やっぱりねー』と思っちゃいました。
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陣内のいい加減さと、時々飛び出す痛快な言葉のギャップに魅せられて、一気に読みきってしまいました。永瀬も素敵なキャラクターだと思いますが、やっぱり陣内の濃さにはかなわないかな、と。
張られた伏線が一つに結ばれる時の小気味よさがたまらなくよかったです。
普通の小説としても、ミステリとしても楽しめる一冊です。
また、ペデストリアンデッキなど、仙台の街の描写がされていて場面が目に浮かぶようでした。これは住んでいた人間ならではのささやかな楽しみですね。
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まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き…。こういう奇跡もあるんじゃないか? ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「5つの奇跡」の物語。
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陣内という破天荒な男を中心に世界が回ってゆきます。子どもは一人だと英語でchildだけど、集団になるとchildrenになって別物になる、というくだりはかなり成程・・!と思いました。 子どもって不思議だ。そして話の最後のオチもよかった。
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伊坂氏の小説は、いつも奇想天外なラストを用意し、読者を楽しませてくれる。今回は奇想天外が5個もあって、非常に読み応えがある。そして、面白い。読後は割りと、爽快な気持ちにさせてくれるかも。
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10/1読了。
短編集の顔して実は長編小説なのですよ。陣内という男の日常を彼の友人や同僚らが語った5つのストーリー。それぞれのエピソードはジグソーパズルのように絡み合い、最後にすべてのピースがピタリとはまる。痛快で爽快な読後感と、胸ジーンも少しあったり。いいね。
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「絶対に」と言いながら全ての言葉に責任を持たない、少々常識を逸脱しているおかしな「陣内」と、彼の周りに居る人間とが出会う小さな解決。
連作短編という形で、陣内という少々、いや呆れるくらい奔放な人間を中心に物語は始まり、終わっていきます。
全然ばらばらに見える事柄が、徐々に形を取ってくる、という伊坂さんが最近得意とする手法が、冴えています。油断していると、ころりとだまされてしまう。連作短編という形も、なかなか生きていて面白い。
ただ、伊坂さんの得意な雰囲気と、扱うテーマが合致していないと思うのです。
伊坂さんの書く本のイメージは「悪はどこまでも悪」であり「善はどこまでも善」であるという、なんていうんだっけな……勧善懲悪? 昔のドラクエみたいなあの感じです。
文章は軽妙洒脱(伊坂さんの作品に一番あてはまる言葉)で、裏側に人間「伊坂幸太郎」が見えてきます。
そんな状態で主人公に視点を置くと、非行という現実的なテーマを扱っているだけに、主人公との意識の違いが、決定的に感情移入を妨げます。
今、伊坂さんに書いて欲しいのは、どこか一つ現実から浮いたようなミステリなのです。個人的な欲求ですが。
「伊坂幸太郎」を初めて読む人は「とても面白い」と感じると思います。
全ての著書を読んでいる人は、少々辟易するかも知れません。
でも、物語はとても面白く、読後感もさっぱりしていて、まあ、なんだかんだ言って、今まで伊坂幸太郎さんを読んできた人にもオススメです。
矛盾。
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5編の連作短編だが、5つの物語は独立しながらも相互に緩やかに連環する要素を含んでいる。全編に登場する「陣内」は、傍若無人で辟易させられるが、なぜか惹きつけられてしまうという人物。物語は陣内を取り巻く人物の視点で語られる。本書はキャラクター設定の妙、、構成の巧みさ、人に対する眼差しの暖かさ、柔らかさの中に感じさせる精神の強靱さといった要素が、長編に比してもより直截に現れている。読後感の良さは格別。
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格好いいなあと思います。推理モノのようでいて、そうではないような。主人公が奇特でぐいぐい引き込まれますね。まわりをとりまく人たちもとっても個性的で最後まで飽きません。五つのお話があるのですが、最後まで読むとちゃんと繋がってなるほどなあと思う。続きがでればいいのになあ。
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(収録作品)イン/チルドレン2/レトリーバー/チルドレン(日本推理作家協会賞候補(56回/2003年))/バンク
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帯に『短編集のふりをした長編小説です。帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。』と書いているんですが、5つの短編集が一人のキャラクター(陣内)をキーとして、つながった、やっぱり連作短編集です(^^; ま、長編と見ることもできますが。
ちょっとした勇気?(力)で物事は進み解決する。ちょっとほのぼのするストーリー。こんなのもいいんじゃないでしょうか。しかし、陣野さんの行動はびっくりしますね。
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魅力的な登場人物、軽妙な文章、洒脱な会話。話自体は決して明るいものばかりではないのだけど、とにかく読んでいて「楽しい」と思わせることに関して、この作者の右に出る人は無いのではないだろう。
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帯には短編集だけど、長編小説だからみたいなことが書いてありました。基本的には陣内と愉快な仲間達の話、確かに陣内の半生という長編小説といえるかもしれないが、短編集でしょうこれは。ただ一つ一つの話はちゃんと楽しめますよ。