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短編集。
菊池寛の短篇十話。
三浦右衛門の最後
忠直卿行状記
恩讐の彼方に
藤十郎の恋
形
名君
蘭学事始
入れ札
俊寛
頸くくり上人
解説として「注はいるまいとおもうが」
を小島政二郎が書いている。
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先に読んだ池内紀氏の「文学フシギ帖」をきっかけに読んでみようかなと思った菊池寛氏の作品です。
池内氏が紹介していたのは「入れ札」。本書の8番目に登場します。
菊池寛氏の作品としては、豊前国耶馬溪にあった青の洞門を舞台にした「恩讐の彼方に」などストーリーを知っているものもありますが、恥ずかしながら菊池寛氏の原作を読むのは初めてです。
本書に採録されているのは、「恩讐の彼方に」はもちろん、「忠直卿行状記」といった代表作に加え「三浦右衛門の最後」「藤十郎の恋」「形」「名君」「蘭学事始」「入れ札」「俊寛」「頚縊り上人」の10編。私にとっては、どの作品もとても面白かったですね。手垢のついたミステリーを読むぐらいなら、こちらの方が格段にワクワク感があります。
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大正8年(1919年)1月に発表された菊池寛の短編小説。
主人公の市九郎は、主人である中川の愛人と密通していたことがバレて手打ちになりそうとなる。しかし逆に主人を殺してしまい逃げ出す事になる。
その後、市九郎と一緒に逃げたお弓とともに峠の茶屋を始めるが、実は茶屋に寄った客の懐具合をみて、金持ちならば殺し、その金品を盗む生活を送っていた。ある時そんな生活とお弓に嫌気がさし市九郎は逃げ出す。
その後、後悔の念から出家し旅にでる。難所の岩場を通過する時、事故で亡くなった人を見、懺悔のために、その岩を掘削してトンネルを掘る決心をする。
その後、掘削を始めて19年、敵討ちのために旅に出た中川の息子が、とうとう市九郎を見つけ殺そうとする。素直に殺されようとする市九郎であったが、石工たちはこれを止め、トンネルが開通するまで待つこととなる。
さらに1年6ヶ月が過ぎ去り、とうとうトンネルは開通した。そして殺されようとする市九郎であったが、この時既に、トンネル堀工の仲間となっていた中川の息子は、殺す意思は無くなっており、トンネルが完成した事に一緒に感動し涙を流すのみであった。
前半は、市九郎の残忍さが強調され、ヒドい人間として描かれる。
しかし、無心にトンネル掘削を行う彼の姿から応援する気持ちが芽生えてくる。そんな気持ちを代弁するかのように村人達の気持ちを描いている。そしてトンネル完成を共に喜び涙する気持ちに同調できるようになった
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古い作家さんなので 読みにくいかと思っていたら 短編でドラマのような展開で 面白かった。
「ドラマ化したら良いのに…」と思っていたら 既にされているらしい。
真珠夫人の著者だったか!
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千年読書会、今月の課題本となります。
大分県で語り継がれる“青の洞門”伝説をベースとした、ノベライズ。
実際に名称は使われておらず、登場人物の名前も違います。
成り行きで“主殺し”の罪状を負った、了海(市九郎)。
そのまま逐電し、追いはぎにまで身をやつします。
罪を重ねていた最中、ふとしたことで自身と向き合った彼は、
仏門に帰依し、自身の罪と向き合いながら全国行脚に。
そんな彼が、ふと立ち寄った町の難所(岩壁)を見て、
湧き上がるように“大誓願”を建てたのが、洞門を掘ること。
といっても、掘削機器も何もない江戸時代の半ば、
文字通りに槌一本で事業を始めます、、周囲には狂人扱いされながら。
1年2年で終わるような事業でもなく、
結果から言うと、20年以上の月日が流れます。
その20年の終盤、大願成就も間近かと思われたその時に、
かつて殺害し逐電した主人の息子、“実之助”があらわれます。
親の敵として了海を追い求めていた実之助、
彼もまた大願を果たすために旅を続けていたのですが、、
了海の大願に取り組む様子を見た実之助は、さて。
話としてはそんなに長くなく、さらっと読めます。
実際の逸話をベースに“人の心”を織り込みながら、
そのうつろいも映し出しながら、、
罪を消すことはできないが、赦すことはできる。
“恩讐の彼方に”とは、上手い題名だとあらためて。
戦前の教科書には“青の洞門”が掲載されていたようですが、
こういった話は教材に使ってみたいなぁ、なんて一冊でした。
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「恩讐の彼方に」
・メインの人物たちはある意味善人であり、仏教や道徳のような、人間本来の善良さを肯定する物語。悪人は駆け落ちした女のみ。
・主人公の主人を殺す始まり方が臨場感がある。物語に引き込む効果が高い。
・主人公の殺人はすべて受動的であるというエクスキューズが物語の核を弱めている。本来極悪の人間が何かのきっかけで、大きく考えを変える方がドラマチックになるのでは。
・心理描写が説明的で明快。もう少し繊細にもやもやしながら恐ろしい表現をするとぐっとくるのでは。
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万城目学が「忠直卿行状記」をオススメしていたので、読んでみた。他に収録されている作品もそうなのだが、人間的な、あまりに人間的な、作品が多い。
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有名な九州耶馬渓、青の洞門の伝説を小説化した『恩讐の彼方に』、封建制下のいわゆる殿様の人間的悲劇を描いた『忠直卿行状記』は、テーマ小説の創始者たる菊池寛の多くの作品中の傑作として知られる。
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菊池寛。
名前は知っていたが、作品に触れたことはなかった。
市川雷蔵主演映画「忠直卿行状記」原作が含まれると知り、読んでみることに。
最初から飛ばしてる。現代人から見ると「うわあぁぁぁ…」な話から始まる。
命の価値や人々の常識が時代によって違うのは承知しているつもりだったが、こう正面から描かれるとびっくりする。
こちらのびっくりを無視して、ただ淡々とあくまでも冷静に話は綴られてゆく。
なるほど文豪に分類されるのも納得。
いつかどこかできいた話や、有名どころも明快にわかりやすく書かれている。もちろんアレンジ入りまくりであるが、それはそれで面白い。
他の作品も読んでみたいと探してみたが、思いの外、書籍と鳴っているものが少ない。「真珠夫人」が手に入りやすかったがなにせ真珠夫人……こちらはゆっくりと読んでいこう。
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解説:小島政二郎
三浦右衛門の最後◆忠直卿行状記◆恩讐の彼方に◆藤十郎の恋◆形◆名君◆蘭学事始◆入れ札◆俊寛◆頸縊り上人
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芥川龍之介と共に「新思潮」を創刊し、活躍したことで文壇上、新思潮派(新現実主義)と位置づけられる、菊池寛の短編集。
氏の代表作である、「恩讐の彼方に」を読むため購入しました。
菊池寛は文学者というより、私的には大映の社長であり、文藝春秋の社長という実業家のイメージの方が強いです。
そのため、正直なところ小説のおもしろさという意味ではあまり期待をせず読み始めましたが、どれも凄く面白く、印象に強く残る作品だらけで驚きました。
本書の収録作はすべて、初期芥川のような説話や歴史物に拠って書かれた作品となっていますが、氏は「真珠夫人」のような大衆文学も書いているのでそちらも読んでみたいです。
収録作の各話の感想は以下の通りです。
・三浦右衛門の最後 ...
主人公は今川氏の家臣で戦国武将の三浦右衛門佐義鎮。
甲陽軍鑑などからの創作で、武田信玄の駿河侵攻より逃れた三浦右衛門がどうにかこうにか高天神城に逃れるも捕らえられ、悲惨な最後を遂げる物語となっています。
凛々しく勇猛な武将が、子供達からリンチにあい、落人に助けを請い、更には拷問にあいながら情けなく命乞いを繰り返す展開で、我々のイメージする戦国武将は、実のところただの人間に過ぎない。
生きることに執着することの浅ましさが描かれる一方で、それの何が悪いのかという思いの対比が感じられる作品だと思いました。
・忠直卿行状記 ...
菊池寛が文学者として地位を確立したきっかけとなった作品として有名です。
暴君として有名な福井藩の大名・松平忠直を主人公にした作品です。
ただ、"石の俎"に代表される残酷な振る舞いは中国の故事を元に後世つけられたということが言われていて、本作もIFの歴史小説と読むべきと思います。
大阪夏の陣で武勲をあげ、武芸も囲碁将棋においても無双を誇る松平忠直が、なぜ暴君になったのかが書かれていて、短編ですが読み物として面白い内容でした。
・恩讐の彼方に ...
菊池寛の代表作。
豊前国の難所に、一人の僧によって掘られた"青の洞門"を下敷きにした物語で、主人公はトンネルを掘り進める僧・了海です。
実際に青の洞門を掘削した僧・禅海の史実を元にしていますが、内容はあくまでも創作となっています。
菊池寛の短編はどれも読み始めはとっつきにくいですが読み始めるととても面白く、すいすいと読めます。
本作もそういう作品の一つで、本書収録作では比較的長いですが、非常に読みやすく、最後は感動できます。
是非、おすすめしたい作品です。
・藤十郎の恋 ...
江戸時代の歌舞伎役者・初代 坂田藤十郎が主人公です。
歌舞伎役者として真剣だが自身の成長に限界を感じた藤十郎が、関東の中村七三郎に勝つため、近松門左衛門に描き与えられた新作の狂言で与えられた役は、道ならぬ恋に迷う男の役だった。
その役を演じ切る自身が持てない藤十郎は、それを全うするために恐ろしい行動に出るという展開です。
正直、凄まじい話だと思います。
全ては芸のため、人はどこまでできるのかというある意味で本質を���いた作品と思いました。
・形 ...
3ページ程度の超短編作品です。
武将・松山重治の家臣で槍の名手・中村新兵衛を主人公にした小説。
創作ではなく、常山紀談の逸話の一つを元にした作品のようです。
身につけている陣羽織と兜を見ただけで恐れおののくほどの存在だったので、その武勲肖りたい若武者と武具を交換するのだが、という展開で、タイトルの意味が教訓として強く伝わってくる内容でした。
・名君 ...
5ページほどの短編。
こちらの主人公は徳川家14代将軍・徳川家茂の幼少期。元ネタは「幕末小史」史書より。
普通におもしろい話でした。
同級生の女の子の失敗をごまかすため乱暴者が一芝居打つテンプレのような展開なのですが、こんな時代からあったのかと、そういう意味で驚きました。(女の子ではなくおじいちゃんですが)
・蘭学事始 ...
「ターヘル・アナトミア」を訳し、「解体新書」を記した前野良沢と杉田玄白の物語。
本短編集はいろんな時代のいろんな人の話が収録されていて、話を読み始めるたびに次は誰の話なのかわくわくしますね。
物事の考え方、捕らえ方が違う2人が、どうして一緒に、当時解読が全くされていなかったオランダの書を読み解くことになったのか、その経緯が描かれています。
距離を起きながらも気にしている関係の2人が、手を取り合う展開は、少年漫画のそれのようでとても楽しい展開でした。
・入れ札 ...
江戸末期の侠客・国定忠治が悪代官を討ち、赤城山中に逃れた後、信州へ逃亡します。
だが、すべての子分を連れて行くわけにも行かず、3人に絞ることとなった。
本作の主役は国定忠治の子分の一人・九郎助で、己の沽券もあり忠治に連れて行ってもらいたいと思うが、その選定方法を忠治は悩んでおり、という展開です。
本作は全くの創作なのか、元ネタがあるのかわからなかったです。
そもそも国定忠治をちゃんと見たことも読んだこともないので、そのうち触れてみたいと思っています。
作品としては、なんというか、やるせないストーリーでした。
恨み言はあるが、ぶつけるわけにもいかない九郎助のやり場のない怒り、無念、そういう感情が伝わってくる作品です。
・俊寛 ...
西光らと共に平氏打倒の企てに加わっていたため鬼界ヶ島という離島に島流しにされた俊寛、成経、康頼の3人。
望郷の念に苛まれる3人だったが、ある日、恩赦の船が島にやってくる。
換気に湧く3人だったが、首謀者とされた俊寛は赦されず、船は成経と康頼のみを乗せて去ってゆく。
平家物語に書かれた俊寛に関する説話が元になった作品で、平家物語では、島に残された俊寛は死を決意して食を断ち自害したとあるのですが、島に残された俊寛のその後が書かれた作品となってます。
暗く絶望的な状況から始まるのですが、すごく爽快でスッキリした内容でした。
名著と思います。本書の中では「恩讐の彼方に」の次に好きな作品です。
・首縊り上人 ...
寂真法師という上人は、ある日、馴染みの稚児に先立たた悲しみあまりに三七日間無言し、その後、首を縊って往生することを企てる。
一人でそれを実行しようとするが��心を揺るがせなくするため、小原の僧正に告げると、またたく間に人口に膾炙し、そのありがたい行いにあやかろうと毎日大勢の人が押し寄せるようになる。
その人々の様子が、自分を死なせようとしているように感じ、また現世に未練を抱いた上人は、その日が来るのが恐ろしくなってしまうという展開。
世にも奇妙な物語のような内容でした。ラストはちょっとすっきりしない展開です。
また、本作は文章が文語調で少し読みにくい感じがありました。
ただ、難解という程ではなく、普通に面白く読めました。
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前近代の日本人の精神、心持ちをちょっとした出来事からうまく引き出している。
それが不思議と、色褪せず、心に響くのは、普遍性ある人生の在り様にフォーカスしているからだろう。
そのテーマは、永続性、普遍性のある、間違いなく物質的なものではなく、芯となる精神的な価値観だと思う。
それは、大正、昭和と近代国家として日本が変わりゆく中で、置き去りになるような価値観であったのだろうし、現在でも、同じ意義を持って受け止めることができる。
ストーリーの展開も、捻ることなく(ドラマティックではなく)、ストレートなところが却って、安堵感があって心地よい。
あとがきより
・「芸術のためにだったら、私は一行も文章を書かなかっただろう」というショーの言葉を、そのまま彼は自分の信条としていた。人生のための文学しか彼の意中になかった。
・菊池は、小説にはテーマ(主題)がなければならないことを主張した作家である。
・「芸術のみに隠れて、人生に呼びかけない作家は、象牙の塔に隠れて銀の笛を吹いているようなものだ」
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冒険研究所書店の選書で購入。
菊池寛の短編集。
タイトルにもなっている「恩讐の彼方に」「忠直卿行状記」のほか、「俊寛」など命の在り方を考えさせられる短編。
短い編は4ページほどだが、すべて読後に何かを感じさせる。
数年後に再読したくなる本。
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急に菊池寛に興味が出てきて読んだ。小説らしい小説。平家物語の俊寛をこんな風に描く作家は他にいないだろうと思う。潔い真っ直ぐさが心地よい。
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『三浦右衛門の最後』が一番印象に残りましたね。あんなにグロい作品がよく許されたものだと思います。だからこそ気に入ったのですが。