紙の本
異見を中心に書くが、大筋では良書だと思う
2006/03/08 03:57
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初に、bk1の著者コメントに、二言三言。
《ここ数年、日本と世界は深刻な転換期を迎えている、ということに人々は気づき始めています。》
だいぶ昔から、毎年のように誰かがどこかで、「今こそが大きな転換期だ」とまくし立ててきた。そのせいか、「いつだって『転換期』なのでは?」とまぜ返す癖がついてしまった。
《千年に一度あるかないかのエポックです。》
こういう、「大仰」が高下駄履いているような物言いには、ずずっと引いてしまう。日本に限っても、幕藩体制の崩壊時や対中対米戦時のほうが、よっぽど「エポック」だったのではなかろうか。まあ、簡単に比べられるものでもないような気もするけど。
文句をつけたが、8割方は本書に賛同し評価している。現地での取材と資料の入念な読破を元に、論理的に突き詰めていく作業姿勢には敬服させられる。
「情緒もいいけど論理も大事」ということが、本書を読むと身に沁みてくる。
次は本文に、二言三言。
イラクで《自衛隊員に死者が出るのは、もはや時間の問題でしょう。》
もちろん、まだどうなるかは分からないのだけれど、少し筆が走ったようです。死者が出る可能性は(何%とは言えないが)、「時間の問題」と言うほど高くはなさそうだ、とするのが妥当かと。
《ここで指摘しておくべきは、有人宇宙ロケットを世界で三番目に成功させ、日本の中小企業を圧迫し続ける大国に、いつまでも日本が金銭援助する必要などあるわけがない、という問題です。》
その通りです。すぐに撤廃は無理でも、せめて対中ODAは、公害防止技術と環境対策援助に全額を振り替える、ぐらいにはしてもらいたいもの。両国のためにもなる。
《また、長く続いた「植民地」にかかわりをもたなかった地域は、世界中にほとんどありません。その当時、半ば強制的な移住は合法であり、国際世論にも反していませんでした。それは残念かつ不条理なことですが、現在の常識から過去を裁くのは歴史を学ぶ正しい態度ではありません。ただの凶暴な独善です。》
「その当時」の範囲が明確ではないが、この文章からは18世紀末以降からの、長きにわたる「植民地支配」のことを指していると思える。で、間違っているかもしれないのだが、「国際世論」なるものは、そんな以前からはなかったと思うのだが。
それから、↑が「歴史を学ぶ正しい態度」に反しているとは言い切れないと思う。昔の人の立場には完全には立てないのだから、私達は「現代の眼」で歴史を見ざるを得ないし、その眼で何らかの「判断」を下すこともあるだろう。それが「裁く」(というか「評価」をするということなのだが)形になることだってある。
私らだって、後世の歴史家でもそれ以外の庶民でもいいが、彼らの眼で「裁かれる」ことがあるかもしれない。「あの時代の連中が資源を浪費し、自然環境を破壊したせいで、我々はこんな目にあってるんだ」のように。そんな風に裁かれないように努力したいが、覚悟もしておくしかない。
《あれかこれかの二極思考を脱したうえで、第二に熟知すべき要点は、複数の選択肢から「良いとこ取り」が可能な時代になった、という認識を持って問題解決にあたることです。》
そうですね。私は「良いとこ取りなんて、そんな虫のいい話はない」と言われたものだけど、やってやれないことはないと思っていた。時代が後押ししてくれるなら、なおのこといい。
ただ、脱二極思考なら、他者を「売国奴」呼ばわりは戴けない。「愛国者」と対概念の、著者の批判する「善悪二分法」そのもの。
最後に、再び著者コメントに一言。
《これで1冊たったの756円とは、著者としてやや理不尽な気持ちを抑えきれません。》
値段以上の価値はあると思います。かなりの労作をリーズナブルに提供して下さって、ありがとうございました。
紙の本
政治経済から一般社会問題が満載。短時間で知る現代日本の問題点
2004/09/01 10:21
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みち秋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
21世紀初頭は1945年(二次大戦終戦年)以来のエポックメーキングになるだろう。この重大な時代世の中は混沌とし情報、主義主張が氾濫する中で、いかにして個人が確固たる思想信念を持つかが大切である。
著者はあとがきで《二極化思考(一方が悪で他方が善と単純な思い込み発想)からの脱皮》を提言している。《個人個人が今そこにある危機を正確に把握し、回避しかつ前進することが肝要な時代になった。それがたとえ小さな成果でも全体を変えていく、という方向性が見えてくるはずだ》と記している。この言葉を念頭に入れて読むと著者とは異なる見解が見出せるかもしれない。
内容は国内政治(失業、安保、年金)、国際情勢(イラク戦争、北朝鮮問題)、一般社会問題(犯罪増加、老後の不安)と多義に亘り解りやすく記述されている。
問題が多義に亘るので日本の10年先を見据えた重要な問題について考察する。
第一は構造改革《官尊民卑からの脱却》である。一例として郵政事業の民営化については、著者は反対しているけれども郵政民営化は21世紀初頭に実施すべき重要テーマである事には間違いない。とにかくやってみることが先決だと思う。たとえば民間会社ならば計画を立案検討した上で即実行する。その後発生した問題についてはその都度修正して生産性を高め競争力を向上させている。 民間ができて官ができないはずはない。ただやる気があるか、ないかだけの問題である。
第二は安全保障の問題 憲法改正の可否であろう。 著者はこの問題に関してはイラクへの海外派兵はイラク特措法違反であると述べるのに留めた。安全保障は従来通りのアメリカ依存でよいのか、憲法は護憲か改憲か、大切なことだからもう少し掘り下げて欲しかった。
第三は学校教育、家庭教育問題と思う。 著者は治安悪化、少年犯罪増加を食い止める為に刑法の改正を力説しているが、もう少し根幹に触れると教育問題、家庭問題ではないかと思う。 そこに著者の鋭いメスを入れて欲しかった。
第四は雇用形態変化による雇用不安と年金問題(老後の不安)であろう。 著者は《個人が『稼ぐ力』と『売る力』を身に着けてゆくこと。自分をスキルアップして『起業』を》と呼びかけているがこれらはもう言い尽くされて久しい。言うは易し、行うは難しである。これができる職業と人は限られており大多数の人は悶え苦しんでいるのが現状である。やはりこの問題は政治家が真摯に取り組むべき問題であろう。
色々批判もしましたが、これだけ多義に亘る問題がうまく整理され、読みやすく短時間で吸収できるのはうれしい。やや掘り下げ不足の部分もあるが、これだけのテーマを新書版にまとめることは無理かもしれない。
現状日本が抱える問題を把握して、自分の考え方を整理するのに役立つ著書である。
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ご存知、賛否両論ある日垣氏の著作。ここでもまた、膨大な情報量と冷静かつ熱い分析で時事問題を中心にバッサバッサと斬っています。
詳しく説明するために(内容の裏づけをより濃いものにするために)統計などの数字を多用するのは構わないけれども、それがかえってこの本を読みにくくしているように思う。画期的な発言を沢山している(と思う)ので、もっとスリムな文章にして、わかりやすくしてみたらどうだろうかと思います。まぁ、そうすると日垣氏らしくなくなるのかもしれませんが。
この本の中で特に注目すべきなのは、イラク戦争と北朝鮮問題だと思います。刑法の話も注目すべきだけれども、個人的にはイラク問題と北朝鮮問題の箇所に強くひかれました。当たり前のバカ話に気づいていない自分を日垣氏に指摘されたようで、自分が情けなくなってきました。
日垣氏を個人的に好くかどうかは別にして、現代社会の時事を考える上で、必ず参考になる一冊。ぜひ、読んでみて下さい。
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レポート課題の1冊。現代日本って言っても2年前だから、時代の流れが早い現代にとってはほとんど昔の出来事だけど。日本を取り巻く政治とか経済とか事件を毒舌で切ってます。
この本で「〜〜なると思います。」的に書かれている事が現実では既に答えが出てるから、この人の思惑と現実ではどうなったか見比べてみても面白いかもね。小泉政権とか、マンモス復活プロジェクトとか。
結構この人評価高いけど、自分的には少し読みにくかった。まぁまだ自分がヒヨッコで時事に関心が薄いっていうのもあるんだけど、言及してる事柄について説明が少ないから、何を取り上げてるのかわからない。16章に分けて書いてるんだけど、それをもう少し少なくして一つ一つの説明をもっと詳しくして欲しかった。
まぁでも、メディアリテラシーを養うにはいい本だと思います。考え方とか載ってるし。一番興味を持ったのは、ショッピングリテラシーの章かな。
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2極思考に別れを告げて、カンタン思考にもオサラバしましょう。僕をココまで引っ張り上げてくれたのは日垣さんの本に出会えたことも大きな要因なのです
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世界の大企業を支えているのも実は田舎にある小さな、しかしそこにしかない技術をもった工場であることが多い。
自衛隊は設立以来、2004年までに1742人も殉職している。
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二極思考により他の要素が見えづらくなり、本質がかすんでしまう危険性について警告している。
最近では、特に政治の分野で顕著なように思える。
「郵政民営化するかどうか選挙」でもそうだし今回の「政権交代するかどうかの選挙」でもそうで、本来の選挙の意味はどこへ行ってしまったのかと思う。
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年金、犯罪増加、拉致問題、雇用不安、イラク派兵。。。
新聞やニュースで取り上げられているたくさんの問題について、それぞれ漠然とは理解しているものの、
その本質がどこにあるかをわかっている人、またそれを考えようとしている人は少ないのではないだろうか。
ちなみに俺は「考えたいけど考えていない人」。
正直な話、普段の生活の中で、これらの諸問題を深く掘り下げて考えている余裕なんてなかったし、その時間をつくろうともしていなかった。
「現代日本の問題集(著:日垣隆)」は、この考えている余裕がなかった問題たちを徹底的に掘り下げて教えてくれる本だ。amazonで著者が≪我が家の高校生にもよくわかるように書きました≫と書いているように、納得いくまで教えてもらっているような気分になる。
著者の本はこれまでにも何冊か読んでいて、自分の中の矛盾を一切許さない徹底的な調査と取材を貫く姿勢には圧倒され、尊敬している。この本に関してもその深さは変わらず、とても現実的で、一般人に身近なレベルまで落とし込んで書かれているように感じるため、それぞれの問題を実感しながら読むことができた。
この本を読んでいて強く感じたことがあって、「一人の人間として生きる力をつける」こと。
国や組織にただ頼っていく生き方では、苦しい道しかないのではないかと思える。毎日、組織の文句を言い、国の文句を言い、他人の文句を言う。そんなつまらないことになったりしてしまう。
こっからは自分の話。他人のことではない。
文句をいうのは、自分の自信がないからだ。自信がないから、一人で生きていく自信がないから組織なり、国なりに依存しようとする。弱い。弱いのはしょうがない。そっからどう強くなっていくか。
自力でひとつずつ解決していかないと、何も好転しない。
この本の第六章は「フリーエージェント社会へ」。ここで、≪会社での同僚・上司や主たる取引先というような強い絆ではなく、否むしろ、そうでないからこそ自分の狭い殻を打ち破ってくれる発想や情報に出合える、そのような繋がりです。「いざ」というときに最優先で終結する、という一点のみが≪弱い絆の力≫の掟なのですね。≫と書かれている。疎結合だ。疎結合。
好きなときに好きなやつ集めて、好きなことやったほうがすげ-力が出るんだよ、といっているように思える。自分の好きなことをしっかりやって、自由に生きて、ちゃんと力をつけて、金を稼げるようにしておく。そうすれば自分ひとりでも生きられるし、≪弱い絆の力≫の一翼にもちゃんとなれるのではないか。
フリーで働くことには覚悟がいる。でも、組織内で仕事をするにしても覚悟を求められるものだし、必要なことだと思う。さして変わらない。なんでもいい、どんな形でもいいから好きなことやって、力をつけろってことだという結論に、俺はいま達している。
ということを考えたたりした本です。おすすめ。
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[ 内容 ]
警官の発砲事件が増えた理由は。
刑法改正はなぜ消えた。
官尊民卑から脱する方法は。
この国が抱える難題を斬る。
[ 目次 ]
日本を襲う九つの不安
官尊民卑からの脱却
カルト教団の暴走と忖度社会
医療費の膨張と老後の不安
ショッピング・リテラシーを身につける
フリーエージェント社会へ
動物との二一世紀的つきあい
新しいタイプの事件・事故
イラク戦争のヴェトナム化
危険地帯取材の是非
北朝鮮とどうつきあうか
いいかげんな実名報道と匿名報道
凶悪犯罪はすべて起訴すべきである
心神耗弱を廃止せよ
恫喝的言論との決別
人権論の暴走
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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共同共謀正犯という概念が面白かった。
確かに、なぜ実行しなかった人も正犯と認定されてしまうのか。これが日本で受け入れられている理由に
1つに日本ではヤクザを裁く必要があったから。
2つに日本が忖度社会であるから。この理由はなかなか興味深い。
忖度とは目上のひとの意思を推し量る慣習的態度のこと。
これは組織が暴走する牽引役となる。
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だいぶ昔の話ではあるが、書かれている問題がほぼ何も解決していないところにため息がでる感じ。
今となっては原発の問題にすべて覆い隠されてしまって、これらの問題が国民的な話題にのぼる期待も持てないような。。
まずはメディアだろうけど、変わるべきは。
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古本屋で入手。8年以上前のネタだが、いまだ解決を見ず、むしろ悪化している現況と比較しつつ読む。氏の読み口が楽なのがまず良い。データ入手をどうやってるのかと興味があるが、実証主義で説得力もある。若干1つの章が短めなので、独自で補完する必要があるが、問題提起をもとに考えてみるのが良いと思う。刑法については前から変だと漠然と思っていたことが、具体的に指摘されており、勉強になった。かなり脆弱なシステム国家である点を認識し、慄いてしまったが、それではいかんな、と。まずは意識から・・・。
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権利意識が相当程度高まってきている昨今にあってさえも、未だ官尊民卑の気風が蔓延しているここ日本国。税金を使って行動する人間に対しては極めて甘い。公部門の生温い現状を鋭く指弾。ここまで言うかというような歯に衣着せぬ持論の展開。小泉首相もメッタ斬りとなっている。すべてに賛同するわけでもないが、新鮮な発見も少なからずある。まっすぐな批判精神に多くを学んだ。
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二極思考からの脱却。どちらかが絶対に正しいというのは幻想。
これがこの本を通じて日垣さんが言いたいことなんだと思う。
書いてあることは相当昔のことだが、今読んでもかなり共感できる。特にイラクで首を切り落とされた彼に対する考えは、当時は「自己責任」とか知ったようなことを言っていたが、今思えばそれは恥ずべきことだなと思う。
日垣さんは濃厚な経験、膨大な知識を持った人なんだろうなあと思う。
別の本も読んでみようと思う。