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紙の本
自分の信念を貫く勇気
2005/11/28 04:16
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
野中広務−突然の政界引退で,めっきり名前を聞くことのなくなったこの人であるが,現役時代にテレビで見たこの人に対する私の印象は“悪代官”であった。悪い意味での“自民党らしい”政治家であった。決して思想信条的には重なる部分は持てない人であった。しかし,本書を読み進めるうちに何度か“親近感”“共感”といった感情が湧いてくるのを感じた。
この人の政治というものに対する我を貫く真摯な姿勢はある意味評価せざるを得ないのではなかろうかと感じるようになった。
数と金がものを言い,いかに立派な主義主張をうちたてるかよりも,いかに巧みな計略を張り巡らせるかが権力掌握に資する権謀術数の世界。年齢や経歴よりも当選回数で強弱が決まるいびつな上下関係。
そんな世界の中で,この人が“影の総理大臣”と呼ばれるまでの権力を持つに至った経緯が丹念に描かれている。
二世議員のような生まれ持った力も無く,60歳近くなってからの遅い国政参加という絶対的不利な条件を乗り越えて。そして最大の試練は,本書のタイトルにもあり,本書の中でも一貫して描かれているメインテーマ,「部落差別」という近代日本最大のハンディを抱えて。
決してきれいごとばかりではない政治家の執念が見せられたような気がする。
この人には自分自身の信念があった。そして常に外に対してそれを主張した。自分の信念のためには,一時的であっても蜷川虎三革新京都府政や部落開放同盟書記長小森龍邦とも強調する勇気があった。
このような剛毅な政治家はもうあらわれないかもしれない。
紙の本
将の器ではなかった男の哀れな末路
2004/09/30 11:33
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「メディアと権力」で渡邉恒雄の生い立ちと実像を余すところ
なく明らかにした魚住昭氏の著作。のっけからぐいぐいと読者を
引き込んでしまう筆致はさすがと言って良い。京都府の被差別
部落出身者である野中氏が園部町長を皮切りに京都府議会議員、
副議長、国会議員へと出世の階梯をよじ登っていく過程のドラマ
も迫力があるが、NHK会長シマゲジ追い落とし、経世会分裂と
金丸追い落としを巡る小沢一郎との確執、自民党下野と社会党
との連立による政権復帰、加藤の乱を巡る攻防と野中広務の
八面六腑の活躍には目を奪われるものがある。
自自公連立の歴史的意味合い、なぜ公明党は自民党との連携を
選んだかの分析も「なるほど、そうだったのか」とうならされる。
それにしても野中広務という男は、一体何がやりたくて政治家に
なったのか。かれを突き動かした「業」とは一体なんだったのか。
これがさっぱり見えてこない。権力奪取に向けての凄まじい情念、
ライバルを蹴落とし、叩き潰す容赦なさ、相手を篭絡する時に
みせるアメとムチの使い分け。どれもこれも尋常ならざるもの
がある。野中に潰された政治家も柿沢弘治ほか数知れない。
しかし相手を潰し破壊するのは得意でも、その結果何をやりた
かったのかという政治家としてのロマンが見えてこない。目先の
取引、対立する相手と相手の間にたって両方から重宝がられ
影響力を拡大することばかりに終始し、最後までそれで終わって
しまった感がぬぐえない。そしてポストから離れた途端、あれ
だけ周囲を恐怖させた野中の影響力は雲散霧消し、最後は雑巾
のように使い捨てられておわってしまう。結局彼は自分でも
認めているように将の器ではなかったのであり、とりわけ
破壊力のあった足軽大将に過ぎなかったのかもしれない。
紙の本
「反差別」という立場の不幸
2004/07/31 21:04
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:梶谷懐 - この投稿者のレビュー一覧を見る
野中広務っていうと、そもそも確固とした理念とか思想などと言うものを持っていない、いかにも日本的な古い利権追求タイプの政治家だと思われがちだ。
でもこの本からわかるのは、少なくとも差別あるいは社会的弱者の問題に「政治」がどのようにかかわるか、ということについて、実は野中はかなり一貫した立場を取り続けてきた、ということだ。その立場とは、本書で繰り返し述べられているように、簡単に言えば差別者と被差別者の「融和」を第一に考えるというものである。被差別部落民のようなマイノリティの生活向上にはまず「自助努力」が基本でなければならない。もちろんいくら努力しても豊かになれないような構造があるとすれば行政や政治の力で取り除く必要がある。でも、政治が被差別部落のみを特別扱いすることはそれ以外の人々の「ねたみ」を必ず呼び起こすので、できるだけ避けた方がいい。そして最終的にはその地域が、あるいはそこに住んでいる人が、自分たちが「部落」かどうかを意識しなくても生活できる、そんな社会が実現すればいい。
…こういう考え方は、実際かなり説得力があるし、実際弱者といわれる立場にあるかどうかにはかかわりなく庶民の中にはかなり浸透してきた思考ではなかったかと思う。しかし、こういう考え方は部落解放同盟が主導する解放運動の中では一貫して「異端」とされていた。なぜそうだったのか、ということは冷戦構造におけるイデオロギー的なものの影響もあると思うし、僕自身もちゃんと理解できているかどうか自信はないのだが、おそらく「差別者」の責任を追及することなく安易に彼らとの「融和」を解くことは「寝た子を起こすな」「臭いものにはフタ」という思考につながりかねず、差別意識を深部に追いやるものでしかない、というロジックではなかったかと思う。でも、今になって冷静に考えてみると、野中的な「融和」を重視する立場と比べてどちらが優れていたか、にわかには判断できないのではないだろうか。
もちろん、野中が上記のような考え方を「思想」と呼べるほど突き詰めて考えていたとも思えないし、大田昌秀とか小森龍邦といった、明確にマイノリティの立場に立った活動を行ってきた政治家から「今日言ったことと明日やることが極端に違う」「自分を売り込むためにはなんでもする」と言われてきた彼のことを過大評価することは避けたい。しかし、それでも彼が抱いてきたような思考を一つの思想的な立場にまで練り上げることは可能だったのではないか。そしてそれを阻んできたのは、戦後さまざまな差別問題に対して一貫して「主導権」を握ってきた部落解放同盟と、その「同伴者」であった左翼知識人たちではないのか。
少なくとも、解放同盟の中で主流を占める思考のみが部落問題に取り組む際の「正統」とされ、異なった考えを抱く者は「異端」として結局のところ排除される、という状況がなければ、野中のような人が自民党政治の真っ只中であれだけ露骨な権謀術数を振るう必要もなかったのではないだろうか。そしてさらには、昨今のようにすさまじい「同和(利権)バッシング」が吹き荒れると言う状況も避けられたのではないか。
そういう意味で野中広務という政治家の栄達と挫折は、戦後の部落解放運動、いや反差別的な社会運動が抱えてきた問題と表裏一体の関係にあるのではないか、という気がしてならない。
紙の本
衆議院議員になってすぐに実力者にのしあがっていく野中という政治家の秘密とは
2004/09/20 01:16
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:格 - この投稿者のレビュー一覧を見る
野中の突然の辞職の理由は,以下のような複合的なものだという.
- 部落出身者に対する差別意識が麻生の発言など,感じられるようになったこと.
- 小泉の当選とともに,無役になり,自前の派閥があるわけでもないため,力が落ちてきた.
- 自身の周辺,子飼いの鈴木宗男などが次々と逮捕され,北朝鮮国交正常化努力への批判など….
これらのなかでも権力を目前にしての差別意識の問題がどうやら大きいらしい.この問題は新聞などでは報道されることのなかった点であるが,野中にとっては,初めから相当に大きな問題であったのだろう.
この本では野中の生まれから,政治家になって,実力者にのしあがっていくまでを時間を追って,克明に記述している.
その前に,部落差別の歴史が簡単に記されているが,かつて,江戸幕府によって,士農工商と下にエタ・非人の身分が作られて,そこから差別が始まったとされていたが,そうではなく,中世にまで被差別部落の期限はさかのぼれるという.さらに,この人々は皮革の成算だけでなく,警刑吏役をになっていて,恐れの対象であったともいう.さらに江戸中期から明治初期にかけては,独占的皮革の成算,集積地であったことから,一般の農村より裕福であったという.あまり知られていない歴史である.
ところで本題の野中ののしあがっている過程であるが結局,初期段階では,部落出身であることを利用し,解放同盟を唯一抑えられる役割を果たしてきたことであり,それ以降は,敵対する政治家の秘密を探り,それをネタに,恫喝をする,そして,利権を握り,土建屋政治を行ってきた,ということに尽きるようである.二世議員ではない議員の典型的成功スタイルというべきか.薄汚い,唾棄すべき過去としかいいようがない.