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紙の本
捨てられてこその価値
2005/01/06 21:02
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:北祭 - この投稿者のレビュー一覧を見る
紙が発明される以前の支那では、木や竹に文字を記して情報伝達が行われていたことは知られている。日本では、1961年に奈良市西郊にある平城宮跡で41点の木簡(木片の表裏に墨書されたもの)がみつかったのをかわきりに各地で多数発見され、天平の頃から紙と木簡とが併用されていたことが明らかとなっている。
その木簡が一千数百年のときを超えて今に残ったのにはちょっとした理由がある。奈良時代の役所では、不要となった木簡の多くが、火災を恐れるために燃やされず、そこで出た他のゴミと一緒に「ゴミための穴」や「古井戸」に捨てられていたらしいのである。その場所は、地中深く、水気が多く、日光や空気が遮断されるためにバクテリアの活動が鈍り、ために期せずして木簡は腐食せずに保存された。
発見された木簡の内容は多種多様である。たとえば、本書には奈良時代の役人の「借金証文」が上げられている。
■ところで、羽ぶりのいい都の役人には借金など無縁であったかというとそうでもない。今日と同じで、役人といっても羽ぶりのいいのもいるし、食いつめそうになって苦労ばかりしょって過ごしているものもいる。…
平城宮のなかからも借金証文を記した木簡がみつかっているのである。つまり、平城宮にあった役所でも役人に対して、銭貨を貸しつけていたことをその木簡は示している。
木簡は断片で全体の内容はよくわからないが、
(表)「申請月借銭事□□」
(裏)「依録状謹解証人大伴□」
とあり、某役人が月借銭(げつしゃくせん)を申請したことが木簡に記されている。裏には保証人の名前が「大伴」の某と記されている。おそらく同じ役所に勤務していた役人だろう。どうやら、平城宮のなかにも借金をしないと、その日その日が過ごせない人もいたらしい。
「捨てられたもの」であることが木簡の見逃せない特徴である。たとえば「日本書紀」などに代表される巻物は、執筆者が読者を念頭において政治的な思惑を込めたり、転写の際には故意に言葉が書替えられたりしているもののようである。では木簡の場合はどうか。奈良時代のある役人が日常の生活や仕事のために文字を記し、もう不要になって「ゴミための穴」に捨てたその木簡を、まさか後世に残そうなどと考えていたはずがない。そこに恣意のない天平人の生活を垣間見ることができるのである。
それにしても、あの某役人は借金を返済できたのであろうか。とにかく木簡は捨てられた。そして、その木簡が一千数百年後に拾われるのであるから、ゆめゆめ下手な物は捨てられないものである。
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