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紙の本
中岡慎太郎の盟友、早川勇の物語。
2009/08/19 21:25
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末、徳川幕府から天皇親政へと大きく政治の舞台が動いた要因は、なんといっても薩長同盟の成立にある。その薩長同盟の立役者は土佐出身の坂本竜馬、中岡慎太郎が中心になってまとめあげたと定説になっているが、その薩長同盟のシナリオを書いたのは筑前福岡藩の月形洗蔵と早川勇(早川養敬)であることは知られていない。これは、薩長筑の三藩による倒幕同盟成立寸前に筑前勤王党が藩主によって大量処分され、その陽の目を見ることが無かったのが原因である。
このことで三条実美公を中心とする五卿を筑前太宰府に迎えたことや、命がけで高杉晋作、勤王僧月照を幕吏から守った実績も一瞬にして消え去ってしまった。この経緯は史実として残っていても、後の人々に美談として記憶に留められることはなかった。本書は中岡慎太郎の盟友である早川勇の評伝として語りながら、薩長同盟の下地が筑前福岡藩によってどのようにして進められたのかを詳細に語っている。
おもしろいことに、中岡慎太郎は土佐の庄屋の出身だが、本書の主人公である早川勇も庄屋の生まれで、自ら農民を自称する医者でもあった。身分制度が厳しい時代にありながら、筑前勤王党の月形洗蔵と師匠を同じくする同門になったことから早川の人生が大きく変化する。月形洗蔵とともに薩長和解に向けて西郷隆盛、高杉晋作はもとより、諸藩の志士たちの間を説得して回るなど、やはり、時代がこの早川勇を欲したのだとしか思えない。
江戸時代、政治犯に対する処罰の厳しさは現代の比ではないが、月形洗蔵などは切腹どころか士分を剥奪されての斬首ということに驚くばかりである。そんな中、不思議なことに早川勇は牢居という処分だが、これとても座して死を待つ刑罰には違いなかった。しかしながら、筑前福岡藩祖の黒田官兵衛が水牢から生還した如く、早川勇も驚異的な精神力で生き抜いた。
本書は窮屈な封建制社会を自由奔放に飛び回った坂本竜馬のような一服の清涼感は無い。むしろ、妻子を犠牲にして国のために奔走した早川勇が哀れでしかない。唯一、救われるとするならば、後進の育成に残りの半生を捧げ、その人徳から深い尊敬の受けていたということだろうか。
生き延びてはみたものの人格的に問題のある志士が多いなか、スポットライトは当たらずとも真っ直ぐな生き方をした志士早川勇の伝記を読んで、胸の奥につかえたわだかまりがストンと落ちるものだった。
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