紙の本
口述筆記の難しさ
2021/12/24 06:40
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投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は明治28年(1895)7月から、明治32年(1899)1月まで、勝海舟の口述を編纂したもの。雑誌『日本宗教』の巌本善治が海舟の家を訪ね、長時間にわたって海舟の話をまとめた。
勝海舟は文化6年(1823)1月30日に生まれ、明治32年(1899)1月19日に死没した。故に、海舟の最晩年の記録である。読み進むと分かるが、剣と禅とで心身を鍛えた海舟といえども、流石に、その衰えを感じさせる。老人特有の「あれ」「それ」に加え、記憶の相違や主語の欠如などが気になる。維新という革命の最前線に居た人物だが、言葉にキレ、鋭さを感じないのは、悲しい。
しかし、特筆すべきは主家である徳川家、最後の将軍である徳川慶喜の名誉回復に尽力したことだろう。その慶喜からも当初は「裏切り者」として遠ざけられていた海舟だった。更に、盟友ともいうべき西郷隆盛の名誉回復については、「西郷さんのお祭り」という節に述べている通り、最終最後まで西郷を信じての言動は、何物をも寄せ付けないものがある。海舟を批判した福澤諭吉も西郷を擁護したが、内容と迫力とにおいては海舟の足元にも及ばない。
113話が収められている本書だが、日めくりのように、一日一話を読み進むと、無理がない。一話ごとに編者による補記があることは、より理解を深めてくれる。加えて、編者の松浦玲が「解題」を巻末に記していることで、この一書の価値の在りかもわかる。聞き書きした巌本が意図的に天皇制や軍部批判を書き換え、削除したことも見逃していない。ある意味、口述筆記の記録を後世に遺す事の難しさを認識させてもくれた。
いずれにしても、幾度か、読み返すうちに、小説を読んで「幕末維新史を解かったつもり」になっている史実を覆す箇所もあり、人の評価は多面的に見なければならないと示唆してくれる一書だった。
紙の本
幕末から明治初期に活躍した勝海舟の貴重な歴史的証言を収録した一冊です!
2020/04/06 08:48
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、江戸時代末期から明治時代初期に活躍した武士であり、政治家でもあった勝海舟の貴重な語録を収録したものです。勝海舟は、山岡鉄舟、高橋泥舟とともに「幕末の三舟」と呼ばれ、私たちに知られていますが、晩年にジャーナリスト巌本善治に対して、幕末及び明治初期の政情や様々な人物について思いのままに語ったことがありました。同書は、『海舟余波』及び『海舟座談』などとして知られている、それらの談話を江藤・松浦両氏が改めて詳細に検討し、かつ日付順に再構成し直したものです。この再構成によって、勝海舟の人柄や思想がより分かりやすくなっています。
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勝海舟のいまどきの人には見られない顔つきが好きである。本書の表紙には彼の写真があって、それに惹かれて購入した。
「国というものは、決して人が取りはしない。内からつぶして、西洋人にやるのだ。」(260ページ)
「議論ほど易いものはない。お前方の言ふやうな理屈は、一寸考へても直ちにわかる。実事に当ると、ソンナ易いものちゃあないと、サウ言ふのサ。」(98ページ)
「本読みになるのは、楽なものだ」(198ページ)
など。
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勝海舟は、ジブンを主役にして物語りを語ってるつもりなのかな
人の手柄も自分のことに、すり替える海舟は大物だ
さすがに、拾い読みだけで・・・
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海舟の談話筆記録を元にまとめられた本。
談話自体は最晩年期のもの。
筆記録なのでそのまんまの江戸弁。読み辛くもあるが、「実際こういう風に喋ってたんだよなあ」という感慨がある。
内容は割と淡々としている上に、注を読まないと何の話をしているか今一つ掴み辛い点もあり、「名言集」のような趣を期待すると肩すかしを食らうかも。
大事件についても人物評も、終始飄々としていて、人柄が覗える。
お値段が良いのは……学術さんなので、まあこんなもんですよね……;
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人に話を聞くには長い時間が必要です。
この本を読むのは二回目だけど、やはりこの本こそ、勝海舟がどうして幕末に活躍できたのか、本人の口で語られる最高の一冊です。
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昨年の大河ドラマ『龍馬伝』で、武田鉄矢が勝海舟を演じた時に、「あれ? 勝海舟ってこんな人だっけ?」って思いました。
咸臨丸を操り、無血開城を成し遂げた男らしい漢というイメージでした。
俳優も渡哲也→松方弘樹でしたしね(途中で色々あった大河でした)。
だから、武田鉄矢の勝海舟は、こんな気さくなおっさんだっけ?って思ったのですね。
演出しすぎだろう……と。
★★★
ところが、本書を読んで考えが変わりました。
勝海舟はもっとしなやかな方だったのだと。
そして、勝海舟が大好きになりました。兄弟本の『氷川清話』も読もうと思いました。
★★★
閑話休題、本書ですが、勝海舟の最晩年にあたる、明治28年7月から明治32年1月14日、勝海舟が72才から76才で亡くなる直前(5日前)まで、巌本善治氏が勝邸に出入りして直接聞いた談話を筆記したものだそうです。
たとえば、第1話では、こんなことを言っています。
主義だの、道だのといって、ただこればかりだと、きめることは、私はごく嫌ひです。道といつても大道もあり、小道もあり、上に上があります。その一つを取って、他を排斥するといふことは、不断から決してしません。人が来て、色々やかましく言ひますと、「さういうこともあらうかナ」と言って置いて争はない。そしてあとでよく/\考へて、色々に比較して見ると、上に上があると思って、まことに愉快です。研究といふものは、死んで初めて止むもので、それまでは、苦学です。一日でもやめるといふことはありません。
旧仮名遣いが、読みにくいのですが、半面、勝海舟の生の声を聴いている感じがしてよいものでした。
こんな問題は、利害双方の道理のあるもので、どうとも言へるものだ。それを議論できめようと言ふから間違ふのサ。つまり実行の手段にあるのだ、やる人の手加減で、善くも悪くもなるのだといふ事に気が着かんのサ。
こちらは、金貨本位(金本位制)について聞かれた時の言葉です。
ちょうど、TPP問題が騒がしかった時に読んでいたので、妙に響きました。
事を遂げるものは、愚直でなければ。あー才ばかりに走つてはイカヌ。これだけと限つてしまふと、それより大きい事があつた時、仕方が無いから。どうか、限らないやうに。人心の理といふものは、古今同じだからナ。たゞその趣が違つて見えるだけだもの。国といふものは、独立して、何か卓絶したものがなければならぬ。いくら西洋々々といつても、善い事は採り、その外に何かなければならぬ。百年の後に、知己を待つのだ。なにが、わかるものか。昔から、大功の有つた人は、人が知らないよ。久しうして後にわかるのだ。ナニ、忠義の士といふものがあつて、国をつぶすのだ。己のやふな、大不忠、大不義のものがなければならぬ。
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「勝海舟」とはたいした男である。きちんとした記録文を現代から読んでも評価できるのは、この時代では「勝海舟」と「福沢諭吉」だと言ったのは誰であったか。
しかも「勝海舟」は座談も奔放でおもしろかった事が本書でわかった。
歯に衣を着せないというか、当たるところ敵無しとでも言うか、同時代人もおそらくみな魅了されたか、それとも徹底して嫌ったかのどちらかだろう。
しかし、本書で残念なのは、「脚注」が少なすぎることである。
普通は「脚注」はあまり読むものでもないし、さほど長く記載するものではない。
しかし、本書の編者は「松浦玲」である。
「勝海舟」の周辺事情と記録は、ずぼらだった本人よりもはるかに詳しいと思われる。
本書の「座談」の解説を「脚注」としてもっと詳細に書き込んだほうが、より興味深い本となったのではないか。
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『氷川清話』と比べると発言が生々しすぎて読みにくい。文字通り聞き書きの体裁である。その息遣いを感じることができれば面白いのだろうが、私の感覚は追いつけなかった。
https://sessendo.blogspot.com/2021/01/blog-post_72.html