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紙の本
闘いたかった新人類へ
2008/04/12 21:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yostos - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年10月に作者の打海文三さんが亡くなった記事を目にしてから、ずっと読 みたいと思っていた作品。
近未来、アジアの経済崩壊、大陸からの難民により無政府状態になった日本で の孤児たちの生き様を描いた作品。
戦争状態なので、戦闘、戦況の描写が多い。無政府状態の日本というとかなり 突飛な設定のように思えるが、アフリカやアジアの状況を見ていると起ること が起れば結構ありえる設定だと思える。戦況の推移は都合がよすぎる 面もあるが、作者の並々ならぬ筆力で淡々と語られるそれはリアリティのある 世界を作りだしている。
上巻は軍隊の中で成長している孤児・佐々木海人の視線で、下巻は女マフィア を形成していく双子の月田姉妹の視線で語られていく。タイトルの「裸者」と は持たざる者・孤児としての両者を指しているとも取れる。
混沌の中で強くなっていく少年・少女の成長物語とも読めるし、否応な戦闘に 巻きこめれていく子供や性的マイノリティら弱者の姿を通して戦争の無惨さを テーマとしているという読み方もあるだろう。
個人的には、この小説は「ガンダム」だ。
就職期には「新人類(ニュータイプ)」と呼ばれた僕等の世代で最初のガンダム がウケたのは、僕等は戦争を知らずガンダムでは子供が戦争の中に居て戦争を しているからだ。僕等の世代は勿論戦後だし60年代の安保闘争に終っていたし、 ティーンになった頃にはノンセクトの学生運動はあったけど学園紛争自体は下 火だった。かと言って80年代の学校が荒れた頃にはもう大学生だった。本当に 紛争とか戦いを知らない世代なのだ。だから、きっと戦争ごっかが好きなんだ と思う。「一個小隊を本部の防衛にあてる。おまえは七個小隊を連れて敵司令 部を攻撃しろ。すばやく、徹底的に叩け!」とか言ってみるのが好きなのだ。
この小説はそんな雰囲気と科白に溢れている。
紙の本
近未来の「戦場になった日本」を生き抜く孤児たちを描く恐るべき傑作。
2004/10/07 13:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タカザワケンジ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本が最後に戦争をしたのは太平洋戦争。1945年に敗戦した。以来、60年近く、戦争はよその国で起こっているものだった。経済的に大きく関わった戦争はあったし、治安維持や物資輸送などの後方部隊として兵隊を出したこともある。しかし、すでに日本国民の大多数は戦争を経験していない。戦争はどこかの国で起こっていることで、戦火に逃げまどう人たちはテレビの画面に映っているものでしかない。
しかし、そんな平和はいつまで続くだろうか。
『裸者と裸者』はごく近い将来、あるかもしれない「未来」を舞台にした悪夢のような戦争を描いている。
日本国内では財政破綻と金融システムの崩壊。中国大陸ではチベットと新疆ウィグルの独立と中国国内の内戦、サハリンの油田を背景にした極東シベリア共和国のロシア連邦から独立。大陸の戦火から逃げるため、日本に難民が大挙し押し寄せてくる。経済システムが破綻した日本に彼らを受け入れる余裕はなく、治安は悪化の一途をたどる。
軍部の一部が反乱軍と化し、首都を制圧する。政府軍はアメリカ軍の支援を受けてすぐさま反撃。首都を取り返したものの、地方の反乱軍は軍閥化し、てんでに政府軍への反撃を繰り返す。日本各地が戦火に包まれ、経済はアンダーグラウンド化し、マフィアと軍閥が持ちつ持たれつやっている。
そんな戦国時代が復活したような時代「応化」(仏が姿を変えて救済に現れるという意、だそうだ)。父は米軍の誤爆により死に、ホステスをしていた母は軍閥に誘拐されて行方不明。彼、海人(かいと)は7歳11カ月。4歳の妹、恵と2歳の弟、隆(りゅう)と3人だけでで、生き抜こうとする。
上巻では、海人が政府軍から徴兵され、「孤児部隊」と呼ばれる最前線の部隊を率いていくまでが描かれている。下巻では、海人に命を助けられた十五歳の双子の姉妹が主人公となり、彼女たち、月田姉妹は海人とは異なる道を歩む。狂った世の中のシステムそのものに牙を剥くテロ集団パンプキン・ガールズを設立し、多摩丘陵のスラム街を拠点に東京を支配するマフィアと、人種差別を旗頭にする宗教団体とその傘下のテロ集団に立ち向かっていく。
『裸者と裸者』というタイトルはノーマン・メイラーの『裸者と死者』を連想させる。『裸者と死者』は、太平洋戦争に従軍したメイラーが一兵士の目から戦争の現実を暴露した戦争文学の古典だ。どのような修飾詞がつこうとも、戦場には畢竟「裸者」(弱者、と言い換えてもいいだろう)と「死者」しかいないとするメイラーの卓見に対し、打海文三は『裸者と裸者』しかいないといいたいのか。
物語の舞台となっている時代は、軍閥、マフィアとも、人の死をまったく敬っていない。死体はモノ扱いで、人間は消耗品だ。そんななかで、「裸者」たる孤児部隊の海人、パンプキン・ガールズの月田姉妹は、死体を敬うことを知っている。
むごたらしい描写、容赦のない死はまさに悪夢である。日本が戦場になるということを一度も考えたことがない(想像すらしたことがない)現在の日本人にとって、フィクションとはいえ、鳥肌が立つような恐ろしい世界。常陸、いわき、多摩といったなじみのある地名が戦場になる。作者の想像力によって、読者は戦争に巻き込まれていく。まさに恐るべき迫力で描かれた戦争小説である。(タカザワケンジ/bk1エディター)
紙の本
平和ボケをしている我々に強い衝撃を与えるにふさわしい1冊でした。
2005/02/04 16:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エルフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
舞台は近未来の日本。
日本人が経験した最後の戦争から既に60年が過ぎ、今の日本人にとって戦争とは他国の問題としか捉えられなくなっています。そんな私達に戦争と対岸の火事ではなく身近で、ある日突然始まるものだとその事実を投げ付けられたかのような衝撃がありました。
父親はアメリカ軍の誤爆のため死亡、母親は拉致され行方不明に、8歳で戦争孤児となった佐々木海人は妹と弟の恵と隆を守るため手段を選ばず生きていくことを選択します。本文の中に出てくる「戦争孤児の適応のかたちは2つに1つ。自殺するか悪党になるか。」という一文の通り、生きていくため、いや家族と愛する人達を守るために悪になることを選んだ海人の人生。
悪と言っても海人はただ生きていくために用意された1本の道を突き進むだけなのですけどね…そして恐ろしいくらに海人は良い子なんですよ。
ここまで真っ直ぐで優しい子なんているのかしら?と思うくらいに良い子なんです。
15歳になった海人は政府軍から徴兵され、「孤児部隊」と呼ばれる戦争の最前線の部隊を率いていくようになります。最初の殺人を犯した時の海人と孤児部隊に入り何度も闘いを繰り返していくようになった海人が別人のようになっているのですよね。あまりにも人が死にすぎ、そして人を殺すことに躊躇いのない描写に引いてしまいそうですが、でもその淡々とした部分が逆に「戦争らしく」またその世界に順応していく姿に「子供らしさ」を感じさせられるのはやはり打海氏の上手さなんでしょうね。
これだけ濃い物語なのに海人の目線で書いているせいか、物語はすごく淡々と語られているのですよね。海人の感情も母親を探す時や身近な人の時のみ動くだけで後は揺らぐことが殆どありません。
この本は主人公達に感情移入するのではなく、物語自体に入り込んでしまう怖さがあります。
また、主人公の海人の周りの人々も良い味を出しています。
恵や隆もですが双子の月田姉妹、アパートの大家、竹内里里菜など誰もが魅力的なんですよね。
ただし全体を通して性描写が多すぎる部分はちょっとどうかなと思いますが、これもまた戦争になると人間は理性を抜きにして生きるようにならないと生きていけな
くなることを表しているのかもしれません。
確かに理性を保ったまま戦火の中にいるのは難しく、女性・子供という一番の弱者が被害にあうのは今までの戦争でも繰り返されたことですから避けて通れない道なのでしょうが…。
平和な日本、それはもしかすると束の間の幻のようなものかもしれません。
ある日、この世界が現実になる恐怖、平和ボケをしている私達に強い衝撃を与えるにふさわしい1冊でした。
紙の本
極上のエンタテインメント
2004/12/08 20:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナカムラマサル - この投稿者のレビュー一覧を見る
金融システムの崩壊と経済恐慌と財政破綻の結果、内乱状態となった近未来の日本。
戦争孤児の佐々木海人は妹弟のために常陸軍の孤児兵となり、のしあがっていく。
「戦争孤児の適応のかたちは2つに1つ。自殺するか悪党になるか」—。
適応するために後者を選んだ海人の成長過程が鮮やかに描かれている。
本書は、ビジネスが成り立つ以上戦争はなくならない、という本質を突いた戦争小説であると同時に、極上のエンタテインメントでもある。
海人の孤児兵仲間である、葉郎、池東仁、エンクルマ、田崎俊哉はまるで新選組のような仲間意識を感じさせるし、海人の部下の忠誠ぶりは赤穂浪士のようだし、戦争で得た利益をばらまく海人の姿は紀伊国屋文左衛門さながらである。
アパートの大家、竹内里里菜に対する海人の恋心は、失踪した母への思慕の念と重なっても見える。
これ以外にも、海人が出会う登場人物たちが実に魅力的だ。
戦争で祖父母と母を亡くした双子の月田桜子と椿子。
孤児中隊の司令官、白川如月。
性的マイノリティの武装組織ンガルンガニの幹部、森まり。
下巻は彼女たちを中心に物語が進められ、さらにエンタメ度が増している。