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「中」がなくて「下」を先に一気読みしてしまった。20歳前後の頃、氏に興味を持って読んだ時期もあったが「面白い」と感じる度合いは年を重ねた今のほうが高かったようだ。。自分の知らない「昭和の風」を感じるのも魅力で、どれも素晴らしい作品。鴉:土地収用を拒み続ける男。変わり者の彼は、仕事もうだつが上がらず家庭でも孤立している。そんな彼が本当にその土地を手放したくない理由とは。そして「鴉」という題名の意味。うまい。と終始こんな感じで一人ごちていた。
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2009年8月5日読了。松本清張の名作短編を宮部みゆきが紹介する、3部作の三冊目。各小説のタイトルのしびれるようなかっこよさと、ラストの1ページ・1文に漂う鮮やかな余韻がこの作者の魅力なのか。「社会派」と言われるが、救いようのない・暗澹となる結末を多く描きながらも大いにカタルシスを得られ、先を読みたくてしょうがなくさせられるのは、社会の暗部・人間心理に深く通じ、それらを鋭く暖かく見つめる視線が確かだからなのだろう。短編の中では「鴉」の、終盤に向け高まっていく緊張感とリアルな描写、効果的な視点の切替、突き放したようなラストがすばらしい。
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松本清張傑作短篇コレクション最後の一冊。ようやく読み終わった。
下巻は、バラエティに富んだラインアップで、ショートショート風の「支払い過ぎた縁談」、いつものようにプロットに無理があるもの、清張らしさのある犯罪モノ「生けるパスカル」、清張の処世作「西郷札」、私小説風の「骨壺の風景」、戦後の混乱期(GHQ統治時代)に起きた大量殺人強盗事件を描く「帝銀事件の謎」などなど。
3巻の中では一番楽しめたかもしれない。順序を付けると、下巻、上巻、中巻といった感じ。でも、何となく昭和のジメジメとした暗さがあって、畏怖はしつつも、好きになれない作家だ。やっぱり清張はしばらく読まなくていい、と思った。
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もう小説のクオリティに関しては語る必要もないでしょう。そんなもの高いに決まってるのだ。
さて、この短編集で1つ特筆すべきことは松本清張によるノンフィクション作品が収録されていることだろう。具体的には帝銀事件についての考察が書かれている。そのクオリティはさすが松本清張といったところで、彼の鳴らす警鐘に耳を傾けずにはいられない。
他のノンフィクション作品も読んでみようかなァ。
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宮部みゆき氏が監修する清張作品。タイトルで惹かれる短篇や、権力の怖さを描いた作品を紹介している。「帝銀事件の謎」は推理小説家らしい推測で真の犯人像を絞り込んでいる。
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悲惨な事件がたびたび起きるともし。松本清張がいたらどんな小説を書くだろうかほんと書いてほしい。とか思う。願望。西郷札。生けるパスカル。帝銀事件の謎。この3篇がいい。あとはよくないってことじゃない。個人的なことだがトリックが見事だとかパフォーマンス重視のサスペンスにはあまり惹かれない。事件の闇に葬られてしまった実はすごく大事なコト。事なかれ主義とかうやむや天国とか葛藤地獄とか。ぜんぶ人間の性かもしれないけどそこはもうちょっと踏ん張んないと。みたいなところ。この社会は自分たちで作ってきたんだから。自分たちでちゃんとしようよ。みたいなところ。
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風俗はとんでもなく古いが、 やはりストーリーテラーとしては腕利きだ。かなり読ませる。 「鴉」という短編は名作ではないかと思う。 何気ないプロローグがラストに意外な形で結びつく。
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10年近く前に、ドラマ化を機にブームになったらしい松本清張の、ブームに乗ろうとした短編集。選者に宮部みゆきを据える作戦に、あざといと思いながら乗せられて手に取った。
上、中巻同様昭和の色が濃い作品が多く、犯行の動機や世間の意識などから、ミステリとしては成立していないものも含まれている。例えば「支払い過ぎた縁談」などは楽しむ気持ちで読むのは難しく、こういった作品はもう昭和の匂いを楽しむしかないが、そうでない作品も収録されている。歴史に題を取った作品がそうで、この下巻に収録されている「西郷札」「菊枕」の2編は面白かった。
自分は「菊枕」のラスト近く、圭介の記述が胸に染みた。ほとんど語られなかった圭介であるが、ぬいに対してこんなことを感じていたのだろうか。
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責任編集:宮部みゆき
支払い過ぎた縁談◆生けるパスカル◆骨壺の風景◆帝銀事件の謎◆鴉◆「真贋の森」と「西郷札」(山本兼一)◆「菊枕」と思い出の高校演劇(森福都)◆「火の記憶」の記憶(岩井三四二)◆『地方紙を買う女』もどきを書いてみる(横山秀夫)◆西郷札◆菊枕◆火の記憶
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宮部さんによる松本清張傑作短編集最終巻。
今回のコンセプトは・・・
ズバリ、「作家松本清張の書きたかったもの」という気がします。
「タイトルの妙」という章に納められた3つの短編、
「支払い過ぎた縁談」「生けるパスカル」「骨壷の風景」は、
どれもタイトルを見ただけで、
その内容を想像し、早く読みたくてたまらなくなりました。
タイトルから読者の興味を引き付ける、
そんな手腕も清張さんは持っていたのかなと思うほど、
スリリングなタイトルの付け方です。
そして、次の章では、権力についての作品が並びます。
「帝銀事件の謎」・・・
昭和の事件史を清張さんがかくとこんなにもミステリアスになるのです。
実際に起こった帝国銀行での毒殺事件。
その裏にはおそるべき政府とGHQのやり取りがあり、
さらにその奥には、あの戦争時に
細菌兵器の研究に取り組んでいた731部隊の上層部の存在が
見え隠れしています。
戦後の日本において絶対の権力者だったGHQの所業を
清張さんは冷静で論理的に描き表わしていました。
まさに、「記者の眼」です。
清張作品の中には、
社会の悪を暴いた小説も少なくはないのですが、
それを出版するには、それなりの覚悟が要ったことだろうと思われます。
そうまでして清張さんが世の中に残しておきたかったもの。
それは何だったのか。
私の未熟なレポなんかよりも、
実際の原作を読んでみてくださいとね。
清張さんがまだ生きていらしたら、
現代社会を題材に、どんな小説を書いて下さるのか、
私はそちらの方に興味がわいてきました。
ミステリー小説もさることながら、
政府の胸元深くにナイフを突き立てるような
鋭い観点の社会派小説が登場するような気がしてなりません。
政界の裏・・・清張さんだからこそ描けた分野です。
今はそこまで深く取材して小説に仕上げてくれるような
大物の小説家は存在しないと思います。
つくづく、お亡くなりになったのが惜しまれます。
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コロナウイルスの外出自粛で、家にある本を再読してみようと思い、、、松本清張を探してみたのだが、上・中が、見つからない!
仕方ないから、下を読み出したのだが、昔読んだはずなのに、又、面白さを感じてしまった。
スマホやテレワークの出来る今の世の中だが、小説の面白さは、この明治時代の話でさえ、松本清張氏の筆の上手さなのか、色あせていない。
山本兼一氏、森福都氏、岩井三四二氏、横山秀夫氏お水仙する小説も読んだ事があり、「西郷札」「菊枕」・・・も面白かったです。
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日本の黒い霧の帝銀事件の部分、だいぶ読まされた感じ。GHQとの関係のあたり。あと生けるパスカルは、似た境遇の人結構いるんちゃうかな…………。
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「生けるパスカル」
清張氏の短編はほとんど読んでいるが、これは初。
宮部みゆきさんの選んだ松本清張ワールド。
図書館の順番が(下)が先にまわってきた。
そんなことはともかく、とても面白く読んだ。
さすが宮部さんがお選びになっただけあって含蓄があった。
ちょうど私の関心事とも合致したのかもしれない。
お題「生けるパスカル」の「パスカル」を、
『「人間は考える葦である」と唱えた学者の「パスカル」ではない。』
と語る宮部さん。確かにそうなんだけど、ちょっと関係があるのよ、そこが憎い。
考える葦だよ、悩むんだよ、人間は。
『人間の本当の生命と、人々が安住している虚構の世界との関係』(P73)
要するに、自分が思っている理想の生き方はなかなか出来なくて、実際の人生は虚構の世界のように創っていかなくてはならない。私たちは虚構の世界を見ようとして本などを読むが、本当は実人生が虚構の連続なのかもしれないという、極限状態の恐ろしさ。イタリアはノーベル文学賞のルイジ・ピランデルロの作品「死せるパスカル」を例に引いて述べるられている。(ピランデルロって本当にいたの?)
私は上記のところにぐっと来たのだが、この短編の結末はやはり松本清張ワールド、期待通りなのだけれど…。
*****
さて、(下)で未読なのはもうひとつ「骨壺の風景」…「半生の記」とダブり、涙した。清張氏の原点。
後は宮部さんの語りと松本清張受賞作家の寄稿を楽しんだ。
松本清張受賞作家…山本兼一(2004年11回)、森福都(1996年3回)、岩井三四二(2003年10回)、横山秀夫(1998年5回)らの一文。
こんなにも清張氏は暖かく愛されていたのかかと驚いた。嬉しかった。賞を頂いたからという訳でもないだろう。
「支払いすぎた縁談」「帝銀事件の謎」「鴉」「西郷札」「菊枕 ぬい女略歴」「火の記憶」
久しぶりに松本清張の作品に触れてみて、どれもこれも今読んでも面白いこと請け合いと思う。
この宮部みゆき責任編集松本清張短編コレクションは、このごろの入れこしゃりこの小説ばやり、このような企画ならば古い清張氏の小説も蘇るだろうよと、企画妙味、効果があるといいねと老婆心。
*****
ところで、私は清張作品をほとんど読んだと豪語していたのだが、それはうそだった。
持っているのが自慢な文藝春秋社の「松本清張全集」は38巻まで。(第1期というらしい)そこまでしか読んでいなかったのだ。
私は1974年(昭和49年)以後購入していない、その後調べてもいなかった。(汗)
文藝春秋社の「松本清張全集」は第3期まで66巻もあるらしい。オアゾの「丸善」で見たよ。よくも次々と出したものだ。清張氏の膨大な著書よ!
ちなみに古いのと装丁は同じ。値段は当時880円、現在は3,262円。おおーぉ。
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宮部みゆき氏責任編集の松本清張短編集。どの作品も面白い。自分が、この下巻の中で好きな作品は「鴉」だ。ウダツの上がらないサラリーマンの一時の栄光と転落。嫉妬と憎悪。東京都下、多摩を飛ぶ鴉が目に浮かぶようだ。
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「松本清張」作品から「宮部みゆき」が傑作をセレクトした『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈下〉』を読みました。
『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈上〉』、『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈中〉』に続き「松本清張」作品です。
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文春文庫30周年記念企画。
『砂の器』で再び注目を浴びている「松本清張」の傑作短篇を「宮部みゆき」氏がセレクト、すべてに解説を付す。
「清張」の傑作短篇を「宮部みゆき」が選ぶシリーズ最終巻。
昭和史の謎に精力的に取り組んだ「清張」が、権力に翻弄される人間を描いた『帝銀事件の謎』 『鴉』や、絶妙なタイトルとストーリーの傑作『支払い過ぎた縁談』 『生けるパスカル』 『骨壷の風景』。
さらに「横山秀夫」ら「松本清張」賞受賞作家が推薦する名作『西郷札』 『火の記憶』 『菊枕』も収録。
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「松本清張」は独特の魅力があるので、読み始めると続いちゃうんですよね。
■第七章 タイトルの妙
・前口上 宮部みゆき
・支払い過ぎた縁談
・生けるパスカル
・骨壷の風景
■第八章 権力は敵か
・前口上 宮部みゆき
・帝銀事件の謎(原題:画家と毒薬と硝煙) 『日本の黒い霧』より
・鴉
■第九章 松本清張賞受賞作家にききました
・『真贋の森』と『西郷札』 山本兼一
・『菊枕』と思い出の高校演劇 森福都
・『火の記憶』の記憶 岩井三四二
・『地方紙を買う女』もどきを書いてみる 横山秀夫
・西郷札
・菊枕 ぬい女略歴
・火の記憶
・終わりに 宮部みゆき
『支払い過ぎた縁談』は、田舎の旧家の当主「萱野徳右衛門」の娘「幸子」の縁談に関する物語、、、
縁談話を相手の家柄・財産・教養(学歴)等を理由に断るうちに「幸子」は26歳となり婚期を逃しかけていた… そんな或る日、東京の大学講師の「高森正治」という男が、所蔵の古文書を見せてほしいと言って「萱野家」を訪問、「幸子」に好意的な視線を示したことをきっかけに二人は婚約。
しかし、しばらくして「萱野家」に「桃川恒夫」という青年が現れる、、、
高級車に乗った「桃川」の身なりは近代的で洗練されており、しかも相当の資産家であった… 「徳右衛門」と「幸子」に迷いが生じ、「高森」と「桃川」を天秤にかけた結果、父子は「高森」との縁談を断り「桃川」との縁談を進めようとするが、それを聞いた「高森」の叔父「剛隆」が「萱野家」に乗り込み、慰謝料を払えと要求する。
初めて読んだ作品… 欲張っちゃダメだよねぇ という大人向けの寓話でしたね。
『生けるパスカル』は、画家「矢沢辰生」が、異常なまでに嫉妬深い妻「鈴恵」のヒステリーや暴力、抑圧に苦悩した末に、自分と同じ境遇の主人公「マッティーヤ・パスカル」が登場する『死せるパスカル��を描いた小説家「ルイジ・ピランデルロ」に共感したことがきっかけとなり、妻に対し殺意を抱き、完全犯罪を企てる物語、、、
「鈴恵」のヒステリーが、何度発覚しても懲りない「矢沢」の女性関係に起因しているとはいえ、相当な異常性を感じさせるので、ちょっと「矢沢」に同情しながら読んじゃいましたね。
「矢沢」は、二人の就寝中に「鈴恵」がガス中毒による心中を図ったと見せかけて、「鈴恵」をガス中毒で殺害し、自身も軽いガス中毒となって被害者を装っていましたが、、、
『死せるパスカル』の主人公「マッティーヤ・パスカル」が「死んだことにして、実は生きている」という筋であったことを知った警察官は、「矢沢」がこの理想を願望していたのではないかと疑い、殺人の容疑で捜査を進める… そして、「矢沢」が制作中の絵画が完成に向け進んでいたことや、絵具の中から虫の翅がみつかったことから、「矢沢」が事件当時、就寝しておらず、「鈴恵」をガス中毒に陥れながら自身はカンバスに向かって絵を仕上げていたことを突き止める。
初めて読んだ作品… プロットやトリックは面白かったですが、絵画や精神面に関する専門的な記述が多かったので、ちょっと読み難かったですね。
『骨壷の風景』は、血の繋がりのない祖母「タニ」の遺骨が30年間も寺に預けられたままになっていたが、両親の墓と一緒にいてやろうと思い立ち、小倉に両親が遺骨を預けた寺を探しに行く物語、、、
様変わりした郷里を訪ねながら、幼かった頃の自身と、祖母の人生とを思いやるという展開… 著者の自伝的要素を盛り込んだ作品ですね。
初めて読んだ作品ですが、同じ雰囲気の作品を、これまでにも何作か読んでいる気がします… 下関や小倉時代の生活が少年時代の心象風景として「松本清張」の心の中に強い記憶として残されているんでしょうねぇ。
心に染み入るような作品です。
『帝銀事件の謎』は、1948年(昭和23年)1月26日に東京都豊島区の帝国銀行(現在の三井住友銀行)椎名町支店で発生した毒物殺人事件(行員と用務員一家の合計16人に青酸化合物を飲ませ、12人が死亡)の犯人とされ死刑判決を受けた「平沢貞通」の犯行ではなく、別に真犯人がいると推理(告発)したドキュメンタリー、、、
「松本清張」は、使用された毒物が青酸カリでは考えられない遅効性の毒物(旧陸軍研究所で製造されたアセトシアノヒドリン(ニトリール)?)だったことや、毒物の量と効果を正確に知っていたことから、毒物に関する知識が豊富で過去に使用経験がある人物であること、スポイトの代わりに軍医の野戦携帯用の短形駒込型ピペットが使われていたこと等から、細菌研究に携わっていた旧軍人でGHQに留用されていた人物… と推量します。
これが真実だとしたら、、、
いつ自分が何らかの事件の犯人にされるかわからないという恐怖、この毒物が再び使われるかもしれないという脅威… これらに対し、自分達は全く抵抗する術を持ってないということですよね。
他人事として流せない深刻な内容でした。
初めて読んだ作品… 事実は小説よりも奇なりと言いますが、真相は藪の中に隠されたまま表には出てきそうにはないですね。
『鴉』は、中堅メーカー「火星電器」に勤めるが、仕事ができず、上役に好かれず、良い友達もできない万年平社員「浜島庄作」が、ある誤解から元労働組合の委員長で、その後製品部の課長に昇進した「柳田修二」を逆恨みして復讐を企てる物語、、、
「浜島」は、労働組合でスト決行を激烈に主張したことが原因で倉庫係に左遷され、さらに倉庫が何者かの煙草の不始末で半焼したことの責任をとらされて馘首される… 労働組合でスト回避を決断し、その後、課長に昇格した「柳田」が、労働組合を裏切り会社側と取引をしたと誤解した「浜島」は、馘首された後、会社玄関に現れ「柳田」を裏切者呼ばわりする。
精神的に追い詰められ、上司から休養を言い渡された「柳田」は、「浜島」の誤解を解くために二人で話し合うことを決意、、、
終盤になって初めて、プロローグで披露された「浜島」が道路公団の土地買収に頑なに応じなかったエピソードの意味がわかります… 自宅の地下を掘られたくなかったんですね。
そしてタイトルの『鴉』の意味も、最後の4行で初めて気付かされます… 鴉って、敏感なんですねぇ。
3年以上前に読んだ『共犯者―松本清張短編全集〈11〉』に収録されていた作品… プロットが秀逸なので、何度読んでも愉しめましすね。
『西郷札』は、私の勤める新聞社が企画した展覧会(九州二千年文化史展)への出品資料として、宮崎支局から西郷札と西郷札に関する覚書が送られてきたことから、その内容に興味を抱き、当時の模様を再現する物語、、、
日向国佐土原生まれの士族「樋村雄吾」の家は、明治の廃藩置県を受けて世禄を失い、父は後妻とその連れ子「季乃」を迎える… 「季乃」は「雄吾」を兄さまと言って慕ったが、「雄吾」が西南戦争に参加後、自宅に戻ったときには、父は死去しており、家は戦火で焼かれ、継母と「季乃」は行方知れずとなっていた。
「雄吾」は悄然と故郷を去り、東京へ出て、俥(くるま)を曳く車夫として収入を得るようになるが、或る夜、エリート官吏「塚村圭太郎」を送った「雄吾」は、「季乃」が「塚村」の妻となっていることを知り動揺する、、、
そんな折、一銭の価値もないと思われていた西郷札でひと儲けしようとした紙問屋の主人「幡生粂太郎」が、「雄吾」を利用して「塚村」へ働きかけ、政府に西郷札を買取ってもらえるように工作を図ろうとします… 企みを知った「塚村」は、この機会を利用して「雄吾」と「季乃」の関係を引き裂きます。
うーん、嫉妬が原因で、ここまでやるかぁ… という気はしますが、当人にとっては重大事だったんでしょうねぇ、、、
血縁関係のない兄妹の淡い恋心が生んだ悲劇ですね。
初めて読んだ作品… 「松本清張」の処女作です、、、
人の心に潜む情念を巧く描いた名作ですね。
『菊枕 ぬい女略歴』は、美術教師の妻という金銭的に恵まれない境遇により才能を開花させることができないというコンプレックスに悩みながら、世俗的な成功を夢見る俳人「杉田久女」を描いた物語、、、
認められたいという欲求が満たされず、コンプレックスを感じながら、過激な行動に移り、夢を諦め、そして、精神を病んでいく… 薄幸な生涯の悲劇性が前面に押し出された作品でしたね。
昨年読んだ『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』に収録されていた作品です。
『火の記憶』は、幼い頃のおぼろげな記憶に残る、暗闇の中に見える赫い火の情景… 自分のルーツを探るという面ではミステリーっぽさも含まれた物語、、、
理屈では割り切れない男女の関係や、そこから生じた悲劇、肉親だからこそ存在する愛憎が巧く描かれています。
昨年読んだ『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』に収録されていた作品… 本作も、著者の自伝的要素が盛り込まれている感じがしますね。
印象的な作品は、『帝銀事件の謎』、『鴉』、『西郷札』ですね、、、
「松本清張」作品は、ミステリー作品だけでなく、歴史作品や昭和史に関するドキュメント作品も面白いなぁ… と実感した一冊でした。
あと、「松本清張」作品ではないですが、、、
『第九章 松本清張賞受賞作家にききました』に収録されていた「横山秀夫」の『『地方紙を買う女』もどきを書いてみる』が意外と面白かった… ゾクッと背筋が冷たくなるエンディングが秀逸。
「横山秀夫」作品として完成させてほしいですね。