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大沢在昌お得意の、昔はちょっとは「ならして」いたが、故あって今は孤独をかこっている男が主人公の、極太のハードボイルド。
とはいえ、鮫シリーズやアルバイト探偵シリーズのような派手なものではなく、佐久間シリーズ(しかも後期の)のような、感傷的でしっとりとした作品となっている。
公安からCIAまでが出てくるのだが、アクションらしいアクションはラストまでほとんど出てこない。
前半はひたすら勝浦の海や釣りの描写が続く(大沢氏の別宅は勝浦で、夏などは釣りを楽しんでいるらしい)。
いかに主人公が孤独であるか、そしてその孤独を望んでいるかが書き込まれている。
まあ正直、釣りの薀蓄なんかは蛇足かなーという気もしなくはないのだけれど。ただ、釣り糸を垂れること、海に向かい合うことで、主人公の心境を表現しているので、多少は多めに見よう。
そこへ、お約束のようにやってくる美しい女性。しかもいわくありげな謎を持った女性。
さて、彼女の素性は?
何故彼女は逃げていたのか?
主人公、リュウの元から消えてしまった彼女を、リュウは探し出すことができるのか?
帯には「春に彼女と出会い、夏に熱い感情を覚え、そして秋に、過ぎ去った夏を想う」とある。
このコピーは、実にうまく本作を表している。
墓標とは、誰のものか、何の意味を持つのか。
人は時に、思いがけない出会いを経験するのかもしれない。
こんな墓標は、できれば欲しくはないけれど。
オーソドックスなストーリーであるが、だがその王道のストーリーをここまで緻密に、男の孤独感と女性を求める純粋な気持ちを軸に書けるのは、さすがの一言。
大沢氏は、実は派手なアクション物よりも、こういう作品のほうがうまいんじゃないかと、密かに思ったりもする。
もちろん、ハードアクション物もうまいのだけれども。
佐久間シリーズが好きな人にはオススメ。
孤独を無理に選んだ男の恋愛物が好きな人にもオススメ。
男と男の友情物が好きな人にもオススメ。
うじうじした男が嫌いな人にはオススメしません(笑)。
(リュウの名誉のために付け加えると、リュウはうじうじ考えるけれど、結局は自らの目で確かめたい、と行動に移す男らしい男です)