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イタリア・ユダヤ人の風景 みんなのレビュー

第57回読売文学賞随筆・紀行賞 受賞作品

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紙の本

これはとんでもなくすごい本。「もっと表現、選べよ」と自分に突っ込み入れながらたたえれば…。しかし、連行されたユダヤ人たちを辿るイタリア鉄道の旅など、この著者以外に誰ができ得たことだろう。

2006/05/24 13:58

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 「旅のはじまり」という動機を述べたプロローグ、その中扉の裏側にイタリアの地図が載っている。よく見かけるたぐいの、あのヒールの高いブーツ型のくっきりした地図だ。ローマ、フィレンツェ、ジェーノヴァ、トリーノにミラーノ……、「うん、知ってる、知ってる」と都市の名を眺める。だが、本を読み終わってから、このよくある地図を見直したとき、まさに「目からウロコ」という感覚が襲ってきた。——イタリアが変わってしまったのだ。
 目からウロコと言うよりは、私の感覚にもっと近い象徴的なエピソードが本文中にある。特異なイタリアの旅を決意し、その基点をローマに選んだ著者は、「まず何よりも」とカンピドッリオの丘に登る。旅の目的は2つ。1943年10月16日に起こった「ローマの惨劇」——ゲットーに居住していた1000人のユダヤ人が強制連行された事件の現場、その街路を歩きまわながら歴史の傷跡を現在の人びとの内に確かめること。そして、北イタリアのいくつかの都市にゲットーを訪ね、その歴史と現在を追うこと。あとで分かって行くのだが、北へ向かうのは、惨劇の当事者たるユダヤ人たちの行方を追う旅なのである。
 2つの目的のため、「むしろ文学と離れて」という姿勢を、イタリア文学研究の第一人者は期す。そのような心を固めるかのように丘に登っていく。ローマを一望する丘を…。丘の広場で著者は皇帝騎馬像の複製を目にし、かつて真像について友人から聞いたことを思い出す。像は元来は黄金でめっきされていたという。よく見ると、あちこちに黄金の筋が残っていたのだが、それはローマの民衆が長年かかって黄金を削り落とした痕なのだということだった。
 このめっきがぽろぽろ剥がされたり剥離していく感じ……。イタリアという国家がめっきされた青銅像に過ぎないという意味ではないが、自分のなかで長い間築き上げてきた「イタリア像」がまるで違う姿になって、読後、起ち上がってきた。都市づくり、文化形成、歴史等の1コマとしてユダヤ人がどう関わってきたかが明らかになったあとで……。
 沈黙する亡霊たちの痕跡を辿る紀行は、細かい網の目のようにはりめぐらせられた路地や隘路に分け入り歩きまわりながら、「こうではないか」「こういうことがあったのではないか」と考えをひとつずつ掘り下げては確かな存在を求めていく辛抱強い旅である。この著者にして、なぜこういう独特の思索が可能だったのかは、本文の随所に感じ入り納得させられるものがある。キッパーと呼ばれる小さな帽子の扱い、恩師から受けた薫陶をさらに育ませる学究への姿勢、戦時を体験した10歳の自分に戻り惨劇を透視しようという試みなどがそれである。
 ここでは、「ローマの休日」やフェリーニの「ローマ」のエネルギーや笑い声が遠景に消え失せ、パスタにかかったトマトソースや焼き立てピッツァの熱、ワインがもたらす熱も鎮まり、グッチやアルマーニのシックな華やかさも影を潜めている。小舟を漕ぐ人の鼻歌もパヴァロッティのたくましい音声も響いてはこない。
 しかし、『ベニスの商人』について数行触れられたとき、ゲットーの語源となった「鋳造」と貨幣経済のつながりを暗示されたとき、ヴェネツィアの水路とゲットーの関わりを説明されたとき、カトリックにとってかけがえのないローマとナチスドイツやユダヤが結び付けられて述べられたとき、強烈な光を引き立てる深い陰翳のなかに身を潜めていた実体、かつて実体だった影や亡霊たちの漆黒が、光との立場を逆転する。
 帯に付された言葉——「外観を欺く」の真意は本当に重い。ナタリーア・ギンツブルグやモラーヴィアの小説、ウンベルト・サーバの詩、ユダヤの血を引くイタリア文学の巨匠たちの作品を、こんどはもっとしっかり読めるだろう、もっと彼らの「核」に近づけるだろう——そんな
昂ぶりに突き動かされた。

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2018/01/06 16:26

投稿元:ブクログ

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