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工学領域において一段格下に見られがちな「福祉工学」がどのような問題意識のもとで実践されているか、また今後「ビジネス」として発展していくにあたりどのような可能性を秘めているか、という二点についての主張がメイン。
技術バリバリの記述については正直理解が難しかったが、現在の福祉工学が生体機能補助から生活機能補助へという流れのもとにあるという指摘は腑に落ちたし重要でもあると感じた。「健常者」もいずれは(明日にでも)確実に「障害者」となりうること、高齢社会である日本においてはこうした支援の学が充実することが市民の安心・安全、生産性などに直接的に繋がってくることは想像に難くない。また、著者は長らくこの領域での研究を重ねてきたとのことで、福祉工学の歩みが当人の歩みとリンクして伝わってくるのが面白い。
一方で、福祉工学での実践が暗黙のうちに「エンハンスメント」を前提としているように描かれている点には疑問が残る。移動、コミュニケーション、情報獲得といった機能に不全を抱えたとき、それを補う技術の存在が必要とされるのは判るのだが、こうした視点は果たして誰の視点なのだろうか。あるいは「福祉工学をもってしても支援しきれない病い/障害」に出会ったとき、「治らない」状況に置かれる当事者はどのように/どこで回収されるのだろうか。福祉工学が人の生に関わる以上、生活の質や、幸せさ加減などの側面を扱わざるを得ず、したがってこうした価値的な議論を行う余地が良くも悪くも残されている。
QoLや幸福、といった話題をどのように取り扱うかによって、恐らく福祉工学のあり方も(場合によっては根本的に)変化する。こうして見ると、哲学や心理学や社会学といった人文・社会科学との連携の可能性/必要性も感じられ、実は福祉工学という実践をめぐってはビジネス以外にも(あるいは、ビジネスにするとしても)多分な経路が存在していることが推察される。課題は多そうだが、同時に可能性も感じられた一冊。「支援」や「技術」といったキーワードに興味をお持ちの方は得るものがあるかもしれません。