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紙の本
噛めば噛む程、味わいの出る
2005/03/21 18:58
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ツキ カオリ - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説を読む際、少なくとも、2度は読むことにしている。
なるべく「誤読」を防ぎたいという思いがあるのはもちろんだが、1回目で取りこぼした(?)新たな発見が、2度目以降には、必ずあるからなのである。1作で2度も3度もおいしい小説だと、読みがいもあるというものだ(笑)。
さて、中島たい子『漢方小説』と同時に、昨年度の「すばる文学賞」を受賞した本作だが、前者は芥川賞候補になったが、本作はならなかった……。
第二次大戦から60年を経て、日本は、絶望的な冬の時代に入っていた。その憂鬱な空気が限界に達した時、北陸地方の山間部で<土踊り>が発生した。ほぼ同時期、九州地方・中央部の農産地域で、ある男が<発起人>となり、入植者を募集し始めた。時事問題を扱う雑誌の契約記者であった「わたし」は、「九州の入植者たち」と「北陸地方の<土踊り>」に関する記事を書いたため、それら2つを継続取材するよう、命じられる。取材中「わたし」は<土踊り>を教わり、強く魅了される。その一方で九州にも赴き、<発起人>にインタビューしたことが元で、「わたし」は、<土踊り>を止め、仕事も辞め、家庭も捨てて、「入植」を決意する。
作中の<土踊り>なるものは、例えば「北陸地方の山間部に住む少年たちの遊戯に端を発する」、あるいは「能という古典芸能の影響を色濃く受けた」、などと表現されているのだが、どういう踊りなのか、定かではない。踊りの一部に<サササの偶然>という箇所があり、そこだけが、どういう動作なのか、具体的に書いてあるだけだ。もちろん、これは作者の明確な意図によるものだろう。全体像が結ばない<土踊り>だけに、それが、北陸地方を越えて、じわじわと、他の地方をも侵食していく様には、神秘性や、無気味さが増すのではないか。
一読した段階ではぴんと来なかったのだが、この小説の良さは、ひたひたと、まさに<土踊り>のように、寄せてくる(笑)。
その、噛めば噛む程、味わいが出るところに惹かれ、4つ星とした。
前述の『漢方小説』が、「とっつきやすい」「わかりやすい」「読みやすい」<草加せんべい>だとすると、本作は<南部せんべい>的味わいである。<南部せんべい>は、食べ慣れていない人が、1度くらい食べた段階では、いわゆる「粉っぽくて(おいしくない)」ということになってしまうらしい。だが、あの良さは、1度食べただけではわからない。少なくとも2度以上、よく噛みしめて食べないと、あの、香ばしさ、おいしさには、気づきにくいのだ。まさに、この小説のようである。
と同時に、この作品の評価は、いわゆる、ストーリーがある物語が好きな人、もしくは、小説では会話を中心に楽しみたい人、にとっては、星は1つ減ってしまうのかもしれないな、とも思った。それこそが、「とっつきやすさ」「わかりやすさ」「読みやすさ」に関連してくる部分だろう。そのエリアにあえて入り込んでいないところが、芥川賞候補にはならなかった理由でもあろうし、逆に、この作品の強みでもあると思う。
「土踊り」で日本中を席巻することを試みた作者が、次にどんな手を仕掛けてくるのだろうか。
本作は、この作者の処女作、である。
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