紙の本
資料の裏付けと読みの深さに感服の松本史観。
2008/12/09 20:58
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この一冊には下記の5つの事件について、松本清張の視点で解説が加えられている。
・陸軍機密費問題
・石田検事の快死
・朴烈大逆事件
・芥川龍之介の死
・北原二等卒の直訴
刊末にも注釈がある通り、社会の不条理に対しての松本清張自身の憤りも加味した内容となっているが、これはそのまま、松本清張の身の上に不思議と重なりあう気がする。戦前の軍部が膨張の一途をたどり始めた陰には官僚化した高級軍人が政治の世界に介入し、政治を支配し始めたことにあるが、その象徴的な事件が「陸軍機密費問題」である。冒頭、乃木希典が政治の世界に身を置かなかったというエピソードが対極にある田中義一の人間性を浮き出させ、興味を惹かれてしまった。
このなかでも、「北原二等卒の直訴」を読んでいて思ったのは、これは松本清張が朝日新聞に所属していたときの、いわれのない差別に対する憤りをこの作品にぶつけたのではと思えてならない。差別は差別を受けている人間が闘って、自ら勝ち取るということを暗に訴えているが、これは芥川賞という社会的にも高い評価を受けたにも関わらず、新聞社の催場の受付係をやらされていたという組織差別に対する反抗の言葉かもしれない。
また、「芥川龍之介の死」においては、『半生の記』に描かれてはいるが、松本清張自身の陰の部分を芥川龍之介に見たのかもしれない。
尚、これらの作品は昭和39年(1964)、40年(1965)に書かれたものなので、当時、まだ生存している関係者に配慮して綴られているように見受けられる。前後の関係がすっきりとしない箇所が散見されるが、こういったところに松本清張という作家の社会に対する優しさが偲ばれるようだ。
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1965年というから結構昔に書かれた本ですが、戦前への見方・印象に未だに強い影響を誇っているようにおもいます。それだけ名著ということになるんだろうな。戦前について知ろうとするときに最も手に入りやすい本で、かつ基本として読んでおく本とおもいます。この本に触発されて書かれた本も多いはず。スパイMとか。
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うわっ、いったい何か月かかって読み終わったんだ・・・。
目次を列記。
・陸軍機密費問題
・石田検事の怪死
・朴烈大逆事件
・芥川龍之介の死
・北原二等卒の直訴
歴史認識のピントがわたし、ちょっとズレてるせいなんだろうけど、最初の2つがなかなか読み進められず、時間かかりました。けど、清張研究の編集をやるには避けて通れない作品だし、どうしても読み切らないと次に進めない。光子さんが「だんだんと2.26につながっていくところが圧巻ですよ」とおっしゃったので、がんばってこのあと4巻(?)読みますとも。朴烈あたりから少しずつ面白くなってきて、そこからはあちこち別の本にも浮気しながらで、3日で読みましたよ。(10/11/2006)
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面白いのでぜひ読んでください。
マニアックなところまでカバーしたすごい作品。
昭和初期の軍部の動きから政府の動きから世相まで
なんとなく見渡せます。純粋な意味で超おすすめ。
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好きな作家でしたので、全部読みました。寝不足ぎみ(^^)になりますが、ぐいぐい惹き付けられます。日本の昭和史を知りたいときには、この全集を読んで良かったと思います。
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堅い本です。
面白みには欠けるかもしれませんが、興味深いです。
時代を生きた人の考察。それが真実かどうかはどうでも良いのです。
ただ、このひとがどんな風に感じたかを、どんな事件があったのかを知る為の本です。
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主に未解決事件を扱っているので、松本清張版「コールドケース」のような趣です。第一巻は、まだ歴史の単独の事件の調査本ですが田中義一、森恪、など第二巻以降で主要な人物となる人物たちがチラチラと顔を見せます。彼らの運命が交差し、次第に不穏な空気を作り、次第に日本全体を大戦に向かわせて行くと思うと続きが楽しみでたまりません。昭和一桁の日本は本当に酷い時代で、政党政治の閉塞感など、現在に通じるものがあります。
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昭和初期のこの黒い感じ。ああ、これが日本史なんだよ、と心がときめく。
歴史が好きな人は、陰謀や密約、サスペンスなんかといった言葉に惹かれる傾向があるらしい。 まさに。
鎌倉時代の次に、好きな時代。
それを大好きな松本清張氏が書いてるというにに、今まで読んでなかった自分に反省。
226事件がこのシリーズの中でも目玉とのこと。全巻制覇します。
松本清張氏の推理小説に心惹かれる理由がわかった。
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初松本清張作品。
もっと難しい文章かと思ってましたが、すごく読みやすかったです。
芥川自殺の考察、彼の弱さがすごく共感出来ました。
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陰謀論についてWikipediaで調べているうちに一日が終わることのよくある僕には、この本はまさにうってつけでした。
いやまあ、ある意味都市伝説的な陰謀論なんかと一緒にしたら怒られるかもしれませんが、昭和の史実に潜む真実(と思しきもの)を、緻密な取材で暴き、論理を構築したうえでストーリーを展開していくという短編シリーズ物。
その言葉は説得力があり、「世の中の裏やべー」と、のうのうと平和を享受していてはいけないという気にさせられます。
「芥川龍之介の死」と「北原二等兵の直訴」という話が特に面白かった。
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最近、よくテレビに出演し、当時を語る鈴木宗男の言動に耳を傾ければ、実はこの人、現政権に嵌められたのでは、との疑念が芽生えてくる。
ホリエモンが確信犯であることは間違いなかろう。けれども、いわば一犯罪者にすぎないのを、かくも盛大にさらし者にしてしまう検察に、なんらかの意図があるのは明白。とりあえず、留置場に放り込んで、その言動を封殺し、やり過ごさせる、ってことか。
「日本の黒い霧」から本書へと読み継いでゆくと、
いずれの御方もいい時代に巡り会わせたようで、生きているだけ拾い物、一昔前であれば、線路上でバラバラ死体になっていたり、拉致され二度と日の目をみることなく冷たくなって路上に放置されたり、と有無を言わさず冥途の旅へと追いやられたのだろうから、
なんて実しやかに想像してしまう。
昭和初期の世相を背景に、政界や軍やらの悪党が跋扈する時代の出来事を、清張さん独自の取材でものにした力作。小説ではありません。
以前に取り組んだ折には、現在の新装版より巻数が多く、字も細かだったりし、全巻読破に至らず、中途で放り出してしまった。なので、この1巻目は再読ということになる。
通勤時の慰みとしては少々重い感じはするものの、初読時に比べてスラスラ入ってきます。面白くってね、環状線、2、3周したろかなと思います。さあて、年内に全巻読破できますかな。
(2006年記)
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数ある松本清張作品の中でも、最も読んでみたいと思っていた作品。
陸軍機密費問題、石田検事の怪死、朴烈大逆事件、芥川龍之介の死、北原二等卒の直訴を収録。
北原二等卒の直訴については、これまで全く知らなかった事実であったので、興味深かった。その他の章についても観察眼が素晴らしく、推理小説を読んでいるかのようだった。
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松本清張は読ませます。
東京に出張した折、本を持参するのを忘れ、
車中で読む本を、と、
上野駅構内の本屋で、
この本を手にしました。
本当は、陳舜臣の日清戦争の小説が読みたかったのですが、代打で購入しました。
陸軍機密費問題、石田検事の怪死、朴烈大逆事件、芥川龍之介の死、北原二等卒の直訴
上記6編が収録されていますが、なかんずく、石田検事、が面白かった。
政治的な機微に触れ消されたのは明白です。
きっと今の世にもあるんだろうなぁ、こういうの。
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陸軍機密費問題から始まる昭和歴史発掘。
初めは小難しげで取っつきにくかったのですが、読み進めるうちにだんだんおもしろみが増してきました。
陸軍機密費問題は石田検事の怪死に繋がり、朴烈大逆事件にも絡み・・・・・・と、歴史の中に伸びる一本の柱を想像しながら読み進めました。
恥ずかしながら、すべて知らない事件、出来事ばかりでした。
自分の国のことでも、知らないことは多い。いや、知らないことだらけです。
おかげで昭和一桁の時代の雰囲気を、なんとなく感じ取れたような気がします。
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大逆事件を計画したとされるアナーキスト朴烈のスキャンダル写真
そんなものに振り回されて議会は空転する
モラルをめぐるヒステリックな論争のなか、大正ロマンの時代は終わり
田中義一の軍機密費着服疑惑をもって昭和の幕がひらいた
腐敗の時代であった
芥川龍之介は、現実の汚さに耐えられず死を選択し
勇敢に声を上げる者たちは、権力にふみつぶされていった
権力とはなにか?
人々は、天皇こそ権力と信じている
しかし堅く守られたその実態を知る者はほとんどなかった