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「ハウス世界名作劇場」の枠で過去に放送していた、たとえば「フランダースの犬」や「アルプスの少女ハイジ」、「母をたずねて三千里」、比較的新しいところでいえば「ロミオの青い空」などといったテレビアニメ作品を観るにつけ、抗いようのないほどに強大で、そして時には邪悪で凶暴な運命の捻転に巻き込まれ翻弄されてゆく主人公の境遇の変化に心を痛め、あるいはホッと安堵し、とにかくハラハラして仕方がなかった、という人はきっと多いと思うが、それと同種の共感めいたものを私は読中ずっと感じていた。
この作品はスポット的なイヴェントやトピックスを膨らませてエンターテインメントとして成立させている小説ではなく、1人の女性のティーンエイジャー時代から老いさらばえてその生の幕を閉じるまでを、比類なき壮大さと圧倒的なリアリティで書ききっている。
リアリティといっても、そこは小説であるから、ちょっと現実には起こり難いであろう事象が重ねられていたり、現代の日本に生まれ暮らす私たちにとっては決して身近ではないシチュエーションが舞台であったりはするけれど、それなのにまるで文中のエピソードが実際に我々の周囲で巻き起こり、そこで描写されている出来事が我々の眼前で繰り広げられているかのような、徹底的なリアリティが溢れ貫かれているのである。
文字通り流転する1人の人物の歴史を綴ったクロニクルとしては最高級の大作。
そして読了後に残る、ほんのりとした哀しみ。
名著は脳を刺激し、感情を揺さぶる。
本筋とは関係ないが、20世紀初めの、帝政から共産主義へと移行してゆくいわゆるロシア革命へと至る市井の情勢が、フィクションとはいえこれまで読んだどんな歴史の教科書や参考書よりも分かりやすく理解できた。
掛け値なしの傑作である。
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ロシア革命前、一枚の絵にみせられて、ロシアに渡った日本女性の話。
ものすごい波乱万丈です。
主人公環(タマーラ)は、裕福な家に育ったけど没落し、奉公にでる。裕福だった頃にいっていたロシア教会のつてで、イコンを学ぶためにロシアにいき、女学校にはいる。でも、なんやかやでそこも追われ、帰国させられそうになり…。
もう、昼ドラも真っ青な波乱ぶり。
でも、革命前のロシアならそれもありかと思わせる雰囲気と、主人公の魅力と、皆川博子の説得力のつよい筆。これらが絡みあって、それこそ絵画のように迫ってくる。
彼女をとりこにした絵、そして、異母妹の夫の連れ子へ憧憬、彼女を突き動かすものへの情熱が激しくて、圧倒される。そして、それらが連れて行く先での出来事が、哀れを誘う。
もうちょっとむくわれてもいいんじゃないかと、異母妹の夫の連れ子はもっとあってもいいんじゃないかと思うんだけど、そこを突き放してしまえる大胆さが皆川博子の懐の深さなんだろう。
環は、結局なにも成せなかったのかもしれない。
けれど、成すことだけが意味があって、成さないことは無意味、であるということは、決してない。
ってことが、大事なんだろう。多分。
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■あらすじ
時は19世紀末。一枚の絵に見入られ、芸術の悪魔に身も心も奪われた環は、露西亜の大地を彷徨い続ける。高名な美術収集家トレチャコフ、怪僧ラスプーチンとも出会い、宮廷へと招かれるが、やがて抗いがたい革命の炎と欲望、過酷な運命の渦に巻き込まれていく……。実在の人物に想を得た壮大な歴史フィクション。
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皆川博子の醍醐味といえば、幻想、なのだけれど、大河浪漫では生活も描かなければならない。
ましてや露西亜の貧困を描くのであれば、なおさら。
いちどきの幻想ではなく、長いスパンの物語なのだから。
しかし要所要所で現れる幻想・幻覚。
特にタマーラが恋う少年や得体の知れない力などが、やはりねっとりと。
ロマノフ王朝の没落。ラスプーチン。歴史とクロスする。
一方フィクションに属する妹や相棒やが少しずつ離れていくのが、寂しくもある。
それにしても徳川家茂に対する勝海舟の優しさも想い合わせ、どうして没落する家の子供をいつくしむ視点、がこんなに胸に迫るのだろう。
読み終えて初めて、ミハイル・ヴルーベリ 座せる悪魔 を見た。荒々しさと粗野と憂愁と。ロシア人そのものじゃないか。