紙の本
閉ざされた牢獄と外界の華麗な反転
2006/10/14 17:10
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:久我忍 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『アリア系銀河鉄道』に続く宇佐見護博士のシリーズ。
博物学者である宇佐見博士は趣味であるお茶を楽しんでいる時、彼が生きる世界とは全く別の世界に意識のみ飛ばされてしまうことがある。
この本はそんな博士の五つの飛ばされ体験先での謎とその謎が解かれるまでを綴った一冊。
収録作品は『エッシャー世界』『シュレディンガーDOOR』『見えない人、宇佐見風』『ゴーレムの檻』『太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)』の五編。
表題作である『ゴーレムの檻』においては、1630年代のイギリスに飛ばされそこで名前も経歴も全てを消され、神に見捨てられた牢獄に囚われたままの『ゴーレム』と呼ばれる男の存在を知ることから始まる。
石で埋めつくされ、溶けた鉄を流し込んで固めた錠。幾つもの鉄の帯で封印された牢獄。だがゴーレムは到底脱出不可能とされる場所に囚われているにも関わらず、封印を解く日が近づいていると脱獄を示唆する発言をし始め、ついにそれを成功させてしまう。
ゴーレムは言う、自分はこの檻の外側に立ち、外の世界を己の中に収縮させることで外と内とは反転すると。そしてゴーレムが予告通りに脱獄したその時、彼の言葉通り彼は世界の外側に立った──。
ゴーレムが予言のように発する詩的ともいえる言葉。そしておそらく伝説となったであろうゴーレム。これはゴーレムの言葉と、彼を恐れる人々の恐怖によって始めて完成を見た謎の物語。おそらくそのどちらかが欠けたとしても、きっとこの『謎』は『謎』として完成しなかったのではないかと思う。
この作品を言葉で説明するのは難しいかもしれない。それはおそらく作者が言葉とそこから生み出される見えない力の可能性をこの作品で書こうとしたからなのかもしれない。
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前々からこのノベルズのデザインが気になってて、
柄刀さんの好きな作品が出たので購入。
前作よりも好きかも。
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同じ密室状況の不可能犯罪を2編作ってしまうのが、実にこの作者らしい。でもこの中では「エッシャー世界」がわかりやすくて好きなんだけどね。
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研究所勤めの博物学者・宇佐見護博士を中心に5篇からなる短編集。表紙が気になったので読みました。めくるめく不思議の国、という感じ。
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全体的にみて非常に水準の高い短編集になってると思う。
異世界ミステリとしても、普通のミステリとしても楽しめる。
特に異世界ミステリとしては一級品。
個人的には「エッシャー世界」と「ゴーレムの檻」が好きだ。
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正直、表紙の言葉に惹かれました。「神に見捨てられた牢獄で、こんなにも君は美しい」…どんな話なんだろう!と、どきどきした時点で、装丁をした人に負けたようです。しかし、残念なことに表紙の言葉と連動するミステリは収録されていませんでした。ロマン系と銘打ってるわりに、自分はあまりロマンも感じませんでした。むしろきっちりと組み立てられた機械を思わせる物語だった気がします。ミステリだから、当然かもしれませんが。いろんな意味で若干、後味の悪い作品集でした。
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始めは読みにくくてなんだろ?これ・・・
って感じで読んでました。
だけどだんだんそのおもしろさにとりつかれ、最後は一気に読み。
入れ子状の構成がなんともおもしろいです。
短編それぞれのテーマがわたしにはわからないものばかりで、それがかえって新鮮でした。
前作もあるらしいのでそちらも読んでみたいです。
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紅茶が飲みたくなる本
エッシャーあまり好きではなかったんですが、この本を読んで好感がもてるようになりました。
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SFチック本格ミステリィ。
いやぁ、良かった。久しぶりの本格。
表題「ゴーレムの檻」は純粋にミステリィ。『内と外』の命題は、森博嗣氏や恩田陸氏も書いていたが、この命題は私も大好きだ。
「エッシャー世界」はSF色が強いが、この作者の視点は素晴らしいと思った。
全編を通して、この作品のキーワードは『視点』だと言えよう。
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この世界の鑑賞者。全能なるものの視座に立てるのは、神だけではあるまい。
悪魔もまた、同じなのだ。
(P.58)
「君達の世界を、私の造りあげる子宮に戻そう。私は、すべての外側に立つ」
(P.216)
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げ、まさか物理トリック~!? と一瞬後悔。いやしかし、ぜんっぜんそんなことはありません。物理といえば確かに物理だけど……そんなもの超越して、とことん論理(自分でもよくわかんない評だとは思うけれど、そうとしか言いようないぞ)。どうも「アリア系銀河鉄道」シリーズのようなので、そちらも読まなきゃ。
「シュレディンガーDOOR」は、解決も綺麗だけれどその謎だけで非常に魅力的。これにはわくわくしたなあ(そもそも「シュレディンガーの猫」命題にときめくぞ)。そして表題作「ゴーレムの檻」。これはすごい! トリックそのものもだけれど、その動機というか、バックグラウンドが美しい。これには唸らされたなあ。帯(表紙)の言葉がなんともいえません。
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神に見捨てられた牢獄で、こんなにも君は美しい。
この一文が素敵。何かの引用?
ただこのイラストとゴシック体、このフォントサイズ…装丁としてはもったいないと感じました。
SFミステリ連作短編集。お茶好きの宇佐美博士が異世界で事件に遭遇する話たち。
どうも柄刀氏の文章は読みにくいです。慣れていくのかな。
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神に見捨てられた牢獄で、こんなにも君は美しい―
(以下は本文より引用。●コメント)
p.69 視覚を持つ者にとって、この世界は見ることによって存在していると、宇佐美博士は思う。そしてこの宇宙は、見られることによって存在しているのだ。
●なんか前に、うまく言えないけど、目をつぶったら見えないのに、なんで、モノは私の世界に存在してることになるんだろう?みたいな、どーでもいいんだけど、当たり前のことを考えたことがあって、それを思い出した。同時に、「晴れの雨。(朝丘戻。)」で木生が『忘れられるのが怖い』と言ったことを。
結局、自分一人では、自分の存在を完全に認めることなんてできない。私なんか、特に。でも、対相手があって、存在を確かめられるっていう点では、絵も人も同じだ。あぁ、だから、『あなたが見つけてくれた…』って言うのかな。
p.70 「鑑賞者ですよ」と宇佐美博士は答えた。「その絵を見ている人です。鑑賞者は、絵画の視点を再生し、脳髄という内部での認識においてその絵画を存在させる。そして、その人間の意識と美の観点が、外部に表だして、絵画が持ちうる意味となる。鑑賞者は、実は自身の内面世界に視覚で触れているのです。絵画の世界というものをトータルに捉える時、絵画と鑑賞者という外側と内側は、還流していてすでに一体なのです。」
●自身の内面世界に〜ってのは、その通りなんだけど、言葉にするとちょっと怖いね。最近、少しだけ絵とか見るようになって、それには知識が絶対必要だと思ってたけど、絵そのものを感性だけで見るのも、「鑑賞」のよさかもしれないと思った。
p.159 「例えば、私を知らない者にとっては、私はこの世に存在していない。あなたを知らない人にとっては、宇佐美博士は存在していない。そして、宇佐美博士、あなたも私の過去がノンフィクションであるかどうかは認知できない」(中略)
「そう。誰も、相手の現実にまでは認知力は及ばない。それどころか、私自身によってさえ、感情や現時点でのものの見方によって過去の記憶は改ざんされているだろうから、かつての真実はすでに真実ではないかもしれない。」
「自分のありったけの真実を話した相手に、それがフィクションとしか伝わっていないこともあるだろうね」
「私と宇佐美博士の体験がなんらかの媒体に記録されていたとしても、二人が実在したという情報を得ていない人間にとっては、それがフィクションであるか、ノンフィクションであるかなんて区別できない。人はまさに、他人のフィクションの裏側で生きているノンフィクションそのものだろう。自分の存在がフィクションでないことを実感したくてもがいている人間が、現代社会ては増えてきているようだが…」
クロードは、ティーカップを口に運ぶ。
「知覚の届かない者同士の間では、私達の現実は、互いの空白のページの中にあるのさ」
「知覚の届く者同士の間にある現実は?」
と、宇佐美博士が設問を返すと、クロードは薄く笑った。
「その現実も、記憶のインクで主観的に綴られているだけだ」
●誰かに読ませたら、『あんたが好きそうな文章だね』って言われそうだけど、その人はどんなイメージでそう思うのかな?
私は、なんでも願いが叶うなら、自分の存在をなかったことにしてほしいって願う。誰に出逢うことも、誰かを傷つけることもなく、存在しなかったものとして消えたい。
でも、だから私は、過去が本当にノンフィクションかどうか?と思いながらも、自分の存在はフィクションだと、認知してる。
この文章は、あとの出来事の前フリだから、あんまり深く考えなくてもいいのかもしれないけど、何回読んでも、私はここが目に止まるだろうな。
p.268 ゴーレムは檻の中に自らを閉じ込めることによって、外の世界に出て行ったのだな。ここよりさらに内側に入ることによって、内と外を反転させたのだ。(中略)
彼は今、我々よりよほど自由に、世界中のどこにでもいる。伝説となった彼は、我々よりも永遠を生きるのだと思うよ。
●ゴーレムすごいねぇ。執念というか、これがゴーレムの生き様なんだろうなぁ。私は、勝手に「自由」っていう言葉に憧れたりしてしまうけど、ゴーレムが手に入れたモノは、そんな綺麗事の世界じゃなくて、底無し沼の中でやっと探し当てたような、救いだったんじゃないかな。
この本すき。違うシリーズも読んでみよ。
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柄刀氏の「本格ミステリ」らしい短編、だと思う。ちょっと変則だけれど。
「シュレディンガーDOOR」と「見えない人、宇佐見風」が好き。
宇佐見先生のお茶好きっぷりが、親近感がわく…。
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どこか歪な世界の中で、それでもきちっと論理を貫いているところが良い。「シュレディンガーDOOR」は、後の作品とのリンクも含め秀逸。