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紙の本
昭和モダニズムが匂い漂う田辺写真館
2007/02/24 16:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりにNHKの朝の連続テレビドラマが好評であり、安定した演技が光る俳優さんたちによってますます輝いてみえる。『芋たこなんきん』がそれであるが、ドラマの舞台にもなったのが本書のテーマでもある田辺写真館である。
大阪大空襲で田辺写真館も家財も何もかもが焼失してしまったものの、田辺聖子氏の母親が親戚に送った写真が残っていたために貴重な戦前の大阪の様子が窺い知れる。そのいくばくかの写真をもとに時系列に時代の変遷を解説されているが、豊かな生活ぶりに驚くばかりである。
明治のご一新によって経済の中心は大阪から東京へと移ってしまい、その盛況ぶりにも陰がさしていると田辺氏は語るが、なかなかどうして当時の他の都市、農村に比べれば天と地の差があるのではないだろうか。
とはいえ、真実を写すから写真とはよく言ったものであるが、田辺聖子氏の解説がつくことによって細部に渡っての生活ぶりが浮き彫りになってくる。浪花立志伝に登場する氏の父君はシャレ者といわれボルサリーノの帽子を身につけるほどであったのに、なぜペラペラの紙の帽子、背広に日本手ぬぐいなのか理解に苦しむ。しかしながら、あのゼネラルモーターズの工場が大阪にあり、従業員やその家族、取引先を招いての日本流のパーティーの様子と分るとシャレ者とはあくまでも自己主張を貫くのではなく調和というバランス感覚を持った人のことをいうことなのだとわかる。
現代の大阪弁イコール漫才と思われがちだが、氏が語る言葉からは昔の大阪弁がそこここに登場する。言い回しも、言葉も今と異なるものが多々見受けられ、古き良き時代を感じさせてくれる。
本書の帯には「若い世代にも手にとって頂けたら」と書いてあるが、ハリウッドの映画に狂奔したのは現代に限ったものではなく、「そんなん、当たり前でっしゃん」と昭和の時代もそうであったと軽く流されてしまいそうである。
最新のトレンドに乗っているつもりが、なんのことはない、昔の流行の焼き直しだったという感じではないか。
写真館という家業でありながら戦災で多くの記録が失われ、親戚の家のアルバムから分けてもらった数葉から生み出された本書であるが、語り尽くせない思い出がまだまだあると思う。敗戦後の混乱から抜け出した頃からしか知らない身にとっては、贅沢な時代があったことは浦島太郎の物語りのようである。
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