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旧訳と比べて新訳がどれほど読みやすくなったのかは,旧訳を読んでないので分かりませんが,ハーシュマンの3つの概念の説明力の高さをあらためて感じました。
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<概要>
組織に対して不満を持った人物が行使しうる二つのオプションである「離脱」と「発言」、これら二つのオプションの行使可能性と効果に影響を与える「忠誠」に関する検討を行った政治経済学者ハーシュマンの著書。
ある企業の製品品質が低下した場合(あるいは組織の方向性がついてメンバーが不満を持った場合)に、その企業がこの事実に気付き回復するためのプロセスを開始するきっかけについて、経済学では(フリードマンに代表される新自由主義では特に)専ら「離脱」のみが重視されている。しかし、筆者は状況に応じて政治学的な行為である「発言」によって不満を表明することもまた有効なメカニズムであることを主張する。
離脱とは、①ある製品を購買する顧客が品質に不満を持った場合にその商品から競合他社の商品へのスイッチを行う行為であり、②またメンバーが所属する組織に対して不満を持った場合にはその組織からの脱退である。
これに対して発言とは、①生産企業あるいは②所属組織に対して不満を表明する行動である。これらのオプションを顧客・メンバーが行使したことに対して適切に反応した企業のみが継続的に事業を営んでいくことが可能となる。
離脱オプションは独占と、意外なことに激しい競争のもとでは機能しない。
ナイジェリアの国営鉄道では、鉄道事業に関して独占であるにも関わらず、規模の経済のために鉄道輸送が優位にある穀物輸送でさえも自動車輸送に市場を奪われてしまった。この原因は顧客の離脱オプション行使に経営陣が反応しなかったからであり、この背後には経営陣が「損失は税金で補填される」という期待が存在していたことがある。
また代替製品が無数に存在する競争市場では、発言によって製品品質が回復するか不確実であるために顧客は離脱を選択する。しかしすぐに品質が分からないような場合には多くの顧客が多くの製品で離脱し続けるため、企業の業績が悪化することがなく有効には機能しない。また発現コストが高いためにどの顧客も発言しなかった場合、経営陣は製品品質を改善することなく、漫然と経営を行うことが可能である。この状況が「緩慢な競争」であり、多数の製品が存在するため一見激しい競争でありながら、かえって非効率の源泉となる。
このように離脱オプションが機能しない場合には、発言オプションの回復メカニズムとして有効性・重要性が高まる。発現オプションはいくつかの変数によって行使される可能性が高まるため、それらの変数の操作を通じて発現オプション行使の可能性を高めるべきである。
発言オプションの行使可能性に影響を与える要因として本書では三つが挙げられている(ように思われる)。
①離脱コストの高さ
離脱手続きが煩雑であるような場合には顧客が不満を感じていても離脱が一旦取り止められ、発言が選択される可能性が高まる(しかしギャングや全体主義政党のように離脱コストが極めて高くつく場合には、離脱はもとより発言を通じて不満を表明することすら不可能であり。このような組織は一度道を誤ると回復する見込みはない)。
②参入コストの高さ
参入するためのコストが高い場合、積極的な発言が行われる。認知的不協和の理論では、参入コストが高い場合、不満を感じにくくなるとされている。しかしこの理論は短期の効果のみに焦点があてられており、長期的にみると高い参入コストを正当化するために積極的な発言が行われるようになる。
③顧客・メンバーの企業・組織に対する忠誠
顧客の忠誠度が高い場合には、発言オプションによって品質が回復するか否かに関する不確実性についての許容度が高くなるため発言オプションが行使される可能性が高まる。また忠誠を持つ顧客は、自分の発言の有効性を高めるために様々な行動をとり、結果として企業に対する影響力を高める。顧客が影響力を高められた場合には、さらに離脱の脅しも有効となり発言の成功可能性が高まる。
しかし、一方のオプションが回復メカニズムとして安定的に有効であり続ける場合は考えにくい。片方のオプションが重視されるほど、短期的に行動裁量を増そうとする経営陣はその抑え込みにかかるし、行使する側も他方のオプションの効果を軽視するようになってしまう。このときにもう一方のメカニズムが有効になるのである。
<所感>
・ホテリングの立地理論について:元々ホテリングの理論の例で二大政党は中道的になる、という話について違和感があった。この原因は需要の弾力性が無視されている点にあって、また相互作用的に大きな不満を持っているメンバーが影響力の行使で左派(あるいは右派)に引っ張るので中道的になる度合いには限界がある、という議論は直観的で納得できた。
・独占企業について:必ずしも独占企業が競争の不在によって規律がないのではなく、発言によって制限されうる、という話はあたらしいガバナンスの観点だったかと思いきや、銀行とかは発言主体でしたね...
・経済学的基礎の話:注ではあるものの、各議論について経済学的な基礎が示されていて社会学的でありながら経済的だなぁ、と感心した。複数のディシプリン(学問的基礎)があるってスゴいな、と。
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2013年度ゼミ内輪読の課題。
政治学者と経済学者の偏った視点ではなく、社会学者という包括的?立場から、衰退のおこった状況での回復メカニズムである離脱と発言について書かれていました。話は何度か行ったり来たりするけれども、きちんとした立論というか、順序だって書かれているのでわかりやすい。実際自分が、離脱オプションや発言オプションを使っているかどうか想像しやすいので、想像しながら読むと理解は深まると思います。
また、訳者補説が熱い!
寧ろここを先に読むと、もっと深く考えてしまうことになります。先に補説を読むことをおすすめします。
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経済学者であり政治学者であり、社会学者でもありそうなハーシュマンによる政治経済学に関する本。
衰退していくあらゆる組織体に対して、構成員が取りうる手段は離脱<exit>(さようならする)か発言<voice>(抗議する、意見する等々)かの二つであるということ。
それらを行うかどうかはその組織体にどれだけ忠誠<loyalty>(愛着)を感じているかによるということがきちんと論理立てて書かれている。
フリードマンらの市場原理主義者への反論(企業間競争において離脱する以外にもとる手段がある、例えば品質改善を求めて提案するとか。)をしつつ、国家に対して発言以外の対抗手段がなかなかないことから、モデルに基づいて単純化する経済学と、多様な概念を扱う政治学の両者を架橋することを目指して書かれている。
あとがきに書かれているハーシュマンの壮絶な人生(7回もの移住と従軍経験)を読むとなおさら、様々なことを架橋させていく試みを行っているハーシュマンの原動力に触れられてよかった。
プラスでフリードマンがなぜ市場原理主義者になったのかについてもわかった。思想はその人の経験してきたことと不可分なんだなぁやっぱり。
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離脱=経済学的論理=市場の論理
発言=政治学的論理=非市場の論理
経済的論理は政治学的論理を必要以上に過小評価し、貶めてきた。その逆もまた然り。
離脱と発言、両方を取り入れることこそ組織の改善に必要になる。
一文一文丁寧に読みたい本。