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紙の本
とらえどころない世界観「乙一ワールド」の哀しさ。
2010/10/17 15:33
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙一作品を読むのはこれが二作目。乙一と聞くと「エグイ」「グロい」「ホラー」というイメージがわたしの中になぜか定着していて、なかなか手が伸ばせずにいたのだ。
しかし『夏と花火と私の死体』を読んでみて、思っていたよりもグロくもなく霊的な怖さもないかもしれないと、気付いた。そして単純に乙一は巧い、とも思った。
しかし「巧い」ことと「好き」であることは必ずしもイコールではない。『夏と花火と私の死体』が醸し出す雰囲気はわたしの好みではない。でももう数冊は読んでみたい。そんな揺れる乙女心(誤植ではありません)の背中を押してくれたのは、確からぴさんのレビューだったか。
このところ世間を震撼させている連続殺人事件。犯人は殺害した女性の身体をバラバラに解体し並べると言う。その殺人犯の日記らしき手帳を拾ったと同級生の森野夜が僕に言った。その手帳には、まだ明るみになっていない第三の被害者についての記述もあった。森野と僕はその手帳を手がかりに、第三の被害者である水口ナナミの捜索に出かけることにした。
「私は、この事件のことをニュースで見るのが好きなの」
「どうして?」
「異常な事件だからよ」
森野と僕が水口ナナミの死体遺棄現場に向かったのは正義感からではない。彼らは残虐な行為をしでかした犯人に興味があるだけだ。
しかし、僕たちは手帳の持ち主が行った事件の禍々しさの虜になっていた。犯人は日常生活のある瞬間に一線を踏み越えて、人間の持つ人格や尊厳を踏みにじり、人体を破壊しつくしたのだ。
本書には僕が語り部となって語られる3つの事件が収められている。僕が殺人者になるわけでもないし、森野が殺人者になるわけでもない。彼らのスタンスは終始、上で引用した具合だ。
登場する事件は猟奇的だけれど、その描写が信じられないほどグロいというわけではない。残酷は残酷だけれど、そこを追究しているわけでもない。
ただ、哀しいな、と思った。しかし不思議なことに、どこが哀しいのか具体的に説明ができない。ただ漠然と読み終わったときに、哀しい、と思ったのだ。
ミステリのトリックとしてはやはり巧い、と思わずにいられない。短い作品の中に、意表をついた小技を効かせてくる。でもやっぱり…この哀しい雰囲気がとても苦手だ。
残酷なのに毒気が感じられない。だからこそ不気味に感じるのかもしれない。
でも「哀しい」と感じるのはどうしてだろう。作品全体から漂う雰囲気に重さを感じてしまう。そして気が滅入りさえする。
それに比べて、あとがきのなんとも軽やかなことといったら! この対比がまた著者の魅力でもあるのだろう。
それでもわたしはやっぱり、乙一のこの、捉えどころのない世界観が苦手だ、と思う。
『GOTH 夜の章』収録作品
・闇黒系
・犬
・記憶