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紙の本
最近評価が高まっている成瀬巳喜男の映画の魅力を多角的に紹介
2005/09/02 11:06
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画監督の成瀬巳喜男は、これまで日本映画黄金期の巨匠、黒澤明・小津安二郎・溝口健二の影に隠れて正当には評価されて来なかったが、最近になってようやく国内ばかりではなくて海外でも、高く評価されるようになってきた。
そのような状況の中で、今年2005年は、成瀬巳喜男の生誕百年にあたり、様々な記念上映祭や催しが各地で行われている。
その一環として、NHKBS衛星放送で、9月4日から、戦前・戦中の作品から最晩年の作品まで二十数本が連続放映されるという。これは、成瀬映画のファンとしては楽しみな企画である。
書籍の方でも、関連本が徐々に刊行されている。本書は、その中でも特に注目すべきもので、この巨匠についての寄稿文16本が収められている。執筆者は、蓮実重彦、山根貞男などの著名な映画評論家から、映画監督の吉田喜重・ダイエル=シュミット、女優の岡田茉莉子、映画技術者まで多彩である。内容も、成瀬映画の本格的な映画論、インタビュー、回想、エッセーというように多様である。
この中で、とりわけ読み応えがあるのは、何といっても、戦後の成瀬映画を論じた蓮見重彦の『寡黙なるものの雄弁』と題する映画論である。蓮実の映画評論は、どれもユニークな視点で論じられており、教えられるところが多いが、この映画論も例外ではない。例えば、成瀬映画の中の男女が出会う重要なシーンに注目して、その背景には、美しい木漏れ日が差し込んでいることが多く、その中を歩く二人の顔や体には幾重にも光と影が綾をなして映像的に極めて美しく、たとえ瞬時のことではあっても世間のしがらみを越えて昇華された男女の原初の姿さえ感じさせるとしている。一般的に、成瀬巳喜男は、庶民の哀歓や慎ましい夫婦の暮らしを描く巨匠と思われているが、この映画論ではそのような成瀬映画とは別な面を明らかにしている。
蓮実以外の寄稿文では、従来は不調であったとされる戦前から戦中期の成瀬映画について今まで見逃されている豊かな面があったとする山根貞男の映画論、1937年(昭和12年)に成瀬の『妻よ薔薇のように』が『キミコ』という題でニューヨーク公開されたことを紹介している寄稿文が興味深い。
特に、後者はこれまで明らかでなかったアメリカ興行の顛末を丹念に辿ったもので映画史的にも貴重な成果と思われる。
この本の最後に、映画監督の吉田喜重が成瀬の『浮雲』について次のような言葉を寄せている。
「男と女が出会い、別れ、そして再び会い、また離別していく・・・こうした反復が強いられるなかに、誰しもが見出すのは・・・真底は離別を心に決めながら別れきれない人間の業といったものが深く秘められている。」
これは、成瀬映画の根底にあるペシミズムを言い当てた映画評と言うことができよう。
本書は、以上のように成瀬巳喜男の映画を多角的に分析・紹介していると同時に、映画の中のスチール写真も数多く掲載されている。どの写真もため息が出るほど美しく、改めて映画は光と影の芸術ということを実感させられる。巻末には、1930年(昭和5年)以降の成瀬巳喜男の詳細なフイルモグラフィとDVD化された作品一覧も載せられており、資料的にも充実したものとなっている。
なお、本書は、筑摩書房が力を入れて刊行している『リュミエール叢書』の最新刊である。この叢書は、いずれも素晴らしい映画論ばかりであるが、今回の『成瀬巳喜男の世界へ』はその中でもとりわけ印象深い一冊となっている。
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