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紙の本
淡々とした語りに心魅かれ、絵に圧倒される。ハルばあちゃんの美しい一生。
2005/08/10 16:20
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うっちー - この投稿者のレビュー一覧を見る
絵と語りがぴったりと合い、みごとな絵本になっている。
はじめの赤ん坊の絵から魅了される。あどけない顔。ぷくぷくの手。そして、その手についたほくろ。この赤ん坊がハルである。そのハルの一生が、淡々と語られていくのだ。
大きな物語があるわけではない。田舎に育ち、戦争にあい、結婚し、子どもを育て、老いていく。あちこちにたくさん転がっているだろう普通の人の物語。けれども、読み終わった後、しみじみとハルの一生に思いを馳せてしまった。
ただ、ありのままに、人を信じ、できることを一生懸命して、家族を愛し、でも多くを望まず、普通の生活にきちんと幸せを感じてまじめに生きる。その美しさ!
ハルの中で、自分を一番雄弁に語ってくれるのが、その器用な手である。彼女にとっては、その手を使って働くことが生きている証なのだろう。ぷくぷくのもみじのような手から、子どもの手、若い女性の手、働き盛りの手、そして、老女の手まで、木下晋のみごとな絵がすべてを語ってくれている。
余計なものが何もない文章もとてもいい。
この美しさをなんと言って伝えればいいのだろう。ここに書かれ、語られていることの後ろにある、その時代や、そこに生きた人の一生まで感じることのできる大きな絵本だ。
紙の本
手に刻まれたもの
2016/06/05 09:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学校の美術の授業で自分の手を描く、そんな時間があった。その時に描いた絵はとっくにどこかに消えてしまったが、もし残っていたら私の手はどんなに変わっているだろう。
人生のさまざまを手に刻んできただろうか。
この絵本は山中恒が文を書いているが、絵を担当している木下晋の鉛筆画が印象的だ。
赤ちゃんのふっくらした手、少女のやさしい手、娘のなめやかな手、妻のそして母の強い手、そしておばあちゃんのしわだらけの手。
人の手はさまざまな経験をそこに刻んで変化していく。
山中の描く物語は海辺の小さな村に生まれたハルという女性の一生を描いたものだが、木下はそれを見事に絵に書き留めている。
ハルの左手にはほくろがあった。「器用で幸せになる」と村の人たちはいってくれた。実際そのとおりにハルは器用な少女に育つ。ハルがつくったかずらのつるで編んだかごが男の子と運命的な出会いをもたらす。
ハルが15歳の時戦争で父親がなくなる。母親も病気でなくなる。ハルの厳しい時代が始まった。「幸せになる」といういわれてハルは男にまじって働くしかない。
そんな時、あの男の子がハルの前に現れる。ユウキチは神戸でケーキつくりを修行しているという。嫁にするから必ずまっていてくれとハルと約束する。(このページにはハルの手は描かれていない。描かれているのは、ハルの瑞々しい顔だ)
ユウキチはなかなか迎えにはこない。ある日、突然現れて、ハルとユウキチは結婚をする。
ユウキチはケーキ屋さんになっていた。ハルは店を手伝い、店は繁盛する。
男の子が二人、成長して大学にも行った。しかし、店は継がないという。
やがて、ハルもユウキチも年をとる。ユウキチがなくなったあと、ハルは海辺の村へ帰って盆踊りの踊り手として、昔のように美しく踊るのであった。
最後、今までの白を背景にした絵が黒の世界へ変わる。まるでそれはハルの死出の旅のようにも見える。
ハルはなんと仕合せな人生を生きたことか。感動的だし、生きるということを深く考えさせられる作品である。