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「西太后」は「せいたいこう」と濁らずに読むのが正式な読み方だそうだ。まず最初にそこを確認しておきたいところだ。
筆者は前書きにおいて、本書の目的として「従前の誤った俗説や偏見を排し、彼女の生涯の真実を浮き彫りにすることにある」と宣言しているとおり、「稀代の悪女」というイメージを払拭する内容となっている。私はこの本のよって、西太后のイメージはいかに作り上げられた話や俗説などによって歪曲され、現実とかけ離れたものになっていることに気付かされ驚いた。確かに彼女は独裁者ではあったが、政治的に全く無能だったわけではない。結果的にかもしれないが、西太后こそが近代中国への扉を開いたといえるという。特に清朝末期と重なる西太后最後の十年は日清関係に大きな影響を与えている。
それまでの中国は、いろいろな西欧列強から「いじめ」を受けていたが、中国人の外国人に対する態度は、いわゆる「反日」だけが突出している。「反日愛国」という言葉が存在するくらいだ。日清戦争開戦のおり、清朝の主戦派が「反日愛国」を錦の御旗として政権を批判するの図がこの戦争で発明されたのだという。
反日の激烈さは反英や反仏、反露などとは次元が違うという。「反日愛国」という「正論」には主戦派さえ表だって反対できなかった。このような中国の反日愛国運動の特徴は、清末も今日もあまり変わっていないのだそうだ。
最近の中国は海洋において、国際法上においても明らかに独善的な示威行動を見せたりしているが、いったい彼らがどういう精神構造で「反日」を叫ぶのか、この西太后のいた清朝末期の歴史を学ぶことで見えてくることがあるという。
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地元の図書館で読む。正直、期待していませんでした。しかし、面白い本でした。この人物を語るには、この時期が丁度いい時期だそうです。早すぎると、利害関係者が生きているため、うまくいきません。逆に、遅すぎると、資料が消失します。つまり、100年後ぐらいがベストだそうです。1世紀とは、そういう意味なのかもしれません。面白いエピソード満載です。再読の価値があります。
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これは読み物として普通に面白かった。『蒼穹の昴』~『マンチュリアンリポート』に至る一連の作品があまりにも素晴らしくて、それで実際の歴史が知りたくなって手にとった本。だから、もともと小説で得た知識があったからこそ楽しめた、ってのもあると思うけど。実際に起こったこと、実存する人物像との対比も興味深かったけど、フィクション・ノンフィクションの織り交ぜ具合が絶妙で、件の作品の素晴らしさを改めて思い知らされる結果となりました。
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中国の政治の常道として、カリスマ的政治家は実務派政治家を失脚させたり復活させたりして、彼らに権力が集中しすぎぬよう調整する。西太后はそれを誰から教わったわけでもなく、暗黙知的に体得していたのであります。臆面もなく人を失脚させたり自尽に追いやったりする振る舞いに凄みを感じます。蛇足ですが、P254に掲載の女史の写真の顔が漫画家の蛭子 能収氏に見えてしまうのです。
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[中華蒸留]中国史上において類い稀な 女傑として広く知られながらも、現代中国では国の衰亡をもたらしたとして評価が低い西太后。近年明らかになってきた、長きに渡り中国を治めてきた彼女の驚くべき半生を通し、中国の歴史意識や世界観にまで踏み込んだ意欲作です。著者は、『京劇』で第24回サントリー学芸賞を受賞した中国専門家の加藤徹。
このような人物がわずか一世紀ほど前に存在し、あの広大な領土を統べていたというのがまず驚き。政治や軍事に限らず、一私人としてもエピソードに事欠かない西太后という存在を通して、近代中国を興味深く学ぶことができるかと思います。著者が指摘するように、現代中国との奇妙な類似も見せる西太后の治世は、今日の中国を考える上でも欠かせない点かもしれません。
また、本書がただの歴史書に終わらないのは、著者が西太后という一つの物語から中国的なものの本質的を捉えようと試みているからだと思います。例えば、義和団事件の際に北京から逃げ出した西太后が、連合軍に敗北を喫したにもかかわらず都に凱旋する場面があるのですが、著者の下記のような解説を読むと、何故の凱旋なのか、そして勝者感がいったいどういうものかというのが如実に浮かび上がってきます。
〜いったい彼女は誰に勝ったというのか。そのような疑問を持つのは、中国政治の常道を知らぬ野暮な外国人だけである。彼女は勝ったから凱旋したのではない。凱旋したから勝ったのである。〜
久々に中国に関する作品を読みましたがやっぱり面白いですね☆5つ
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西太后の生涯。
現代の日中関係の基盤は西太后の君臨した清朝末期から築かれていた。
読みやすくて面白かったです。
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西太后といえば、幼少の皇帝を操り、政治は二の次で自らは贅沢三昧、それが清国滅亡のきっかけとなった。というのが歴史的評価だが、著者はそれに異を唱える。むしろ、この時代に女性がトップについたことは中国にとって幸運なことであり、結果的に中国はインドや東南アジア諸国のように完全に植民地支配されず、独立を保つことができたというのが著者の意見。
西太后が贅沢を好み、国費を無駄にしたのは事実だが、彼女の欲望はそこまでだった。もし、彼女が中国の歴代男性権力者のように、自分の権威を示すために有能な家臣を殺害し、侵入してくる外国への挑発、戦争を繰り返していたら、中国は内乱やクーデターの連続でやがて列強から分割統治されていただろう。西太后が権力を維持した目的は自らの豪華な生活を維持したいだけだった。
こうした身の回りのエゴだけに徹した女性が50年間中国を支配したことは、中国にとって結果オーライだった。
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面白かった。
西太后は、女性的な専制君主だった、というのが筆者の基本的認識。
皇帝の母として、息子にかしづかれたいという願望のみで、決して自らが皇帝になる希望はなかったという。
少女期から、その死までを、丁寧に資料にあたりながら描き出されている。
巷間に流布している話も、これは根拠がある、これはない、とされていく。
清朝の統治システムが、それまでの王朝に比べ高度に完成されていたことの指摘が最初にあるので、西太后の行いがどの程度の異例さなのかが理解できる。
西太后の読み書きのレベルがについての話が興味深い。
中級の書記官の家の生まれたため、文書の読みはそれなりにできたけれど、書くほうは当て字なども多かったとか。
こういった、これまで聞いたことのなかった話がたくさんある。
他にも、東太后は愚昧ではなかったとか、西太后が熱河から帰還した際に、通る道を整備した事業がどの程度のものであったかなどは、具体的な様子も分かって面白い。
この手の本の中で、本書が親切だと思えた点がある。
人名が出てくる度にちゃんとルビが振ってある。
一度出てきたら二度とは振らないという本が多い中、この配慮はありがたい。
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蒼穹の昴の影響で読んでみた。西太后の人となり、清朝末期の歴史もつかめた。とても読みやすく勉強になった。
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徹底的な男尊女卑社会であった清の時代において、如何にして中堅官僚の家系の娘が中国全土の権力を牛耳るに至ったのか。イメージが先行して稀代の悪女として語られがちな西太后の人生を、歴史的事実から追う一冊。
中国の王朝は大体200年ほどで交代するというが、清の王朝時代の末期であり、また19世紀後半という海外との関わりあいを無視できない時代においては、例え悪政をしかなくとも変わらないことが罪になるということか。徹底的に個人の利益しか考えない西太后が困窮しつつも権力を失わなかったのは、自らを縛る清朝のシステムにより、大したことは出来なかったが、大したことをしなかったおかげで生きながらえたようにも見える。
しかし、牧歌的に見える田舎国家に突然西欧が殴り込みかけてくるこの時代の激動さは、どの国の視点に立っても面白い。昨今の教科書ではどのくらいの記述があるかは知らないが、ろくに学べなかった自分としては、積極的に補完していきたい次第。
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本書は大変上手に読ませていく。読みはじめると止まらない。
まず、西太后を理解しなければならない理由が明確に述べられる。それは西太后が現代中国を知る上で如何に重要だからである。清朝末期が領土的にもナショナリズム的にも現代中国の原点であり、清朝末期こそが西太后の時代であった。実質的な建国はアメリカ合衆国より短いとまで言われている。
また、西太后をめぐる俗説の紹介が多数ある。史実ではないにしても西太后の人となりや当時の雰囲気をイメージすることができ面白かった。解説のなかで比喩や比較に中国史の有名人物を多用することも読んでいて面白い理由のひとつである。ヴェーバーの統治形態の類型をつかうことも理解をたすける。
西太后のグロテスクなまでの理想の生活への欲求と、近臣のあまりのやる気のなさがシンクロして、奇跡的な西太后長期政権が現れたように見える。しかし何よりも、他を圧倒するオーラなりカリスマ性がすごかったのだろう。
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西太后の人生に触れるだけでなく、清の国の統治のあり方、何故、日本と比べ、近代化が遅れたのか等、筆者の個人的見解も含めて踏み込んだ考察もあり、学ぶこと多し。
以下引用~
・「選秀女」は、清朝独特の后妃選定制度である。
秀女とは、皇帝の妃や側室の夫人の候補のことである。清朝では、適齢期の旗人の少女たちの集団面接を皇帝自らが行い、秀女を選んだ。
・臣下どうしを対抗させ、臣下の勢力を分散すること。これは中国の政治の常道であった。毛沢東が鄧小平を失脚させたのち復権させたのも、みな同じ理由である。
・西太后にとっての権勢とは、ずばり崇慶太后の再来になることに尽きた。彼女の夢は、息子の同治帝が無事に成人し、生母である自分を大事にしてくれることであった。つまり、至高の生活文化を満喫することこそが、西太后の野望であった。男の権力者のように強力な軍隊を保有することにも、戦争に勝利することにも、西太后は興味を持たなかったのである。
・和魂洋才と中体西用は、一見すると似ているが、決定的な差がある。「魂」は無形だが、「体」は目に見えねばならない。(日本はソフトな開発独裁国、中国はハードな開発独裁国)
・中国の歴代王朝には、清流と呼ばれる良心的知識人の一派がいた。清流とは、国政の実権は把握していないが、その代わり財界との癒着や腐敗とは無縁で、純粋に天下国家を憂え、堂々と正論を述べる気骨の士たちのことをいう。
・清仏戦争では、清軍の第一線の将兵は勇戦し、フランス軍を破った。しかし、もし戦争がこのまま継続すれば、李鴻章は自分の虎の子である北洋軍閥の兵力を割いて、ベトナムに送らねばならなくなる。
そうすれば、清国の勝利は揺るぎないものになるだろうが、李鴻章の軍閥も多少の損害を免れない。
・西太后が海軍の予算に目をつけ、これを横取りした理由。(頤和園への流用)
①李鴻章の政治的発言を抑制
②銀の海外流出抑制
③国内の主戦論を抑える(60の大寿に向けて)
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蒼穹の昴を読んで、興味が湧き他に中国の歴史などを読んだが、この本はとにかく読みやすかった。名前などに馴染みがあったのもあるが、説明が丁寧で時にユーモアがあり、読み切ることができた。
西太后については、諸説あるのだろうが、事実に基づいての推測に根拠が感じられた。
最近の中国の動きや文化大革命など、中国特有の考え方の根源に少しだが、触れたような気がした。