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里が人につくられたばかりか、反対に人が里によってつくられてきたことを書いた。ここでの結論は、「里は人の感性の学校である」という点である。そして最後に、どうすれば里の再生ができるかについて、私なりの「提言」をまとめてみた。「提言」というのは少々大げさだが、そのこころは、里や森だけでなく、日々の暮らしの中に生物多様性を保つことが重要だという点にある。
一見のどかで、落ち着いた環境のようでも、里は決して安定した生態系ではなく、常に移ろいを繰り返す、不安定な生態系である。人による攪乱の種類や強さがちょっと変われば、いつ壊れるともしれない。人間の生活の単一化により、里に迫る危機の実体を、植物遺伝学の第一人者が読み解き、再生への道を説く。鳥インフルエンザやBSE、猿、鹿など野生動物の跋扈、若者のダイエットなど、様々な問題が取り上げられる中で、花が色彩感覚を、虫の声や鳥のさえずりが聴覚を、様々な香りや、実りある豊かな味覚が季節感を…と、里に養われてきた五感こそが、今、人々から失われつつある事実が浮き彫りにされていく。(S)