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紙の本
私はこれに最大級の賛辞を贈りたい。
2006/08/14 02:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
並外れた体力を持て余している探偵・東三四郎の元に,彼がプロレス界を追われるきっかけとなった張本人,守山の親分がやってくる。もう八百長はお断り,と身構える三四郎に親分が切り出したのは,親分の孫娘の誘拐事件。犯人は中国人マフィアの猫雲若(にゃうんにゃ),身代金要求額は10億,そしてその受け渡しにかねて恨みのある東三四郎をご指名だというのである。守山に含むところはあるものの目の前で母親に泣かれては断れず,10億を持って取引に向かった三四郎。ところがそこで待っていたのは自閉症の少年タッ君を誘拐して500万円を要求している別の犯人と,警察だった……。
たぶん,こういう分析をされるのは著者の本意ではないと思うが,自閉症などいわゆる知的障碍を持った子供を漫画に描くのは難しい。漫画というのはそのキャラクターを容姿に仮託する,ぶっちゃけて言えば「いいやつ」は「いい顔」をしており,「悪いヤツ」は「顔も悪い」というルールがあるからで,知的障碍を抱えた子供をありのままに描けば,その子は「漫画におけるお約束」により読者の好感を励起しない。かといって一般の漫画における主人公のような容姿を与えれば,それは著しくリアリティを欠くだけでなく,前述した漫画のルール,というか「暗黙の了解」を逸脱した居心地の悪さを読者に与えてしまうだろう。
しかもこれは娯楽作品(漫画はみんなそうぢゃないか,というひとは漫画に対する認識が低いぞ)なんである。あの東三四郎が活躍する探偵ギャグ漫画であり,障碍者福祉をテーマにした山本おさむの「どんぐりの家」ではないのだ。例えば誘拐されるのが車椅子の少年でも盲目の少女でも作品として成立したはずだし,描くのも楽だったろう。しかし我々は道で彼らに出会うし,バスで彼らに乗り合わせる。漫画やTVドラマ,映画が彼らを「世界にいないこと」にして成立しているのはやはり欺瞞なのだ。小林まことは敢えて描いた,そしてそれは見事に成功している。私はこれに最大級の賛辞を贈りたい。
紙の本
自閉症児が大活躍する誘拐劇
2006/01/28 13:06
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの「一、二の三四郎」の東三四郎が、なぜか探偵事務所をやっているシリーズです。いったいどんな経緯で天職のプロレスラーを廃業したのかは、第一巻を読めば分かりますが、何をやっていも最強であるところは相変わらずです。レスラーでも探偵でも、自閉症児の保護者でも……。
四巻と五巻は、二冊でひとまとまりのお話になっています。タイトルは「走れ!タッ君」。表紙には、右の耳を左手の指で、左耳を右手の指で塞ぎながら、大口をあけて笑っている少年が描いてありますが、これを見ただけで、タッ君が何者であるか、思い当たる方もいるはず。
そう、彼は自閉症なのです。それもかなりの重度の。
自閉の子には聴覚が過敏な子が多いのです。私の息子も自閉症児ですが、学校の喧噪が苦手なため、よく耳を押さえています。息子のクラスには、タッ君と全く同じように左右の腕を交差させて耳を押さえている子もいます。
ある日、三四郎の事務所に妙な依頼が舞い込んできます。依頼主は、三四郎からプロレスラーの仕事を奪った興業会社の社長。三四郎とも因縁のある兇悪な犯罪組織「猫頭(にゃとう)」に誘拐された孫の身代金を支払いに、犯人の元へ行ってほしいと社長に頼み込まれた三四郎は、赤ん坊の命を守るために、身代金十億を持って交渉場所へと赴きます。
ところが三四郎は、そこで全く別の誘拐事件の逮捕騒ぎに巻き込まれてしまいます。警察官と接触したと思われれば社長の赤ん坊が猫頭に殺されてしまうため、三四郎は張り込んでいた警官全部をなぎ倒し、やむを得ず別件の誘拐犯人および人質と一緒に、逃亡するハメに。
別件のほうの犯人は、精神病の母親の介護に疲れて殺害してしまった若い男。彼は、デパートでたまたま自分についてきたタッ君の療育手帳を見て素性を知り、逃亡資金を手に入れるための誘拐を思いついたのでした。
ところがタッ君は、自閉症特有のパニックや常同行動を炸裂させて、三四郎たちの逃避行を大混乱に陥れます。
作者の小林まこと氏は、自閉症児とその家族を綿密に取材して、この漫画を書いたのではないでしょうか。にわか誘拐犯たちを混乱の渦に陥れるタッ君の行動は、自閉症児の親なら誰でも経験して知っているものであり、いつのまにか親身な療育者としての視点をもつようになった三四郎たちの心情も、親の思いと重なるものでした。
物語のなかで、タッ君の自閉的な行動とピュアな心は、兇悪な犯罪を打ち負かし、絶望して荒んだ心を救済する大きな力となっていきます。それは自閉症児の親にとっては実に痛快なファンタジーですが、自閉症を知らない方々にとっては、見失っていた何かに光を当てるきっかけになる物語となりうるものかもしれません。
自閉症を題材にしたマンガは他にもありますが、啓蒙を目的として作られたものでなく、完全なエンターテイメントの作品で、こんなふうに生き生きと自閉の子が活躍するマンガが出てきたことは、自閉症児の親であるマンガ好きの人間として、とてもうれしく思います
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