紙の本
「責任感」という言葉を絵に描いたような司令官
2008/12/09 15:41
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Akio - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和の高級軍人というと,一般にイメージがよろしくない。陸軍軍人は特にそうだ。しかし,どの世界にも例外はいるものだ。陸軍大将今村均がそうである。
ラバウルの司令官となり,あてにならない補給の中で,農耕を実施して,10万将兵を飢えさせなかった。敗戦後,戦犯となってつかまった部下将兵たちが豪軍看守らの虐待に苦しんでいた。彼らを暴力,不当裁判,死刑判決から守るため,身を挺して奮闘した。自らも懲役9年の判決を受け,後に巣鴨拘置所に移送されたが,現地マヌス島の刑務所でかつての部下たちが不法な虐待を受けていると聞いて,自らマヌス島への移送を願い出て,現地で囚人代表として豪軍当局と掛け合って虐待をやめさせた。相手方も,今村の人格ゆえにその言うことに耳を傾けざるを得なかった。
「責任感」という言葉を絵に描いたような人だ。部下たちからは神仏のように慕われた。
あれだけの外国人を殺し,あれだけの日本人が殺され,日本が初めて民主主義の国になるきっかけとなった,日本史上未曾有の大事件である今次の戦争。それも遠い昔でなくついこの間の出来事であるこの戦争について,1冊の本も読んだことがない人が多くいるということは,この日本という国は異常なのではないか,と考えさせられてしまう。
この本に限るわけではないが,例えばこのような本を読んで,どんなことが起こっていたのか,まず事実(の一端でも)を知ることが,右翼とか左翼とかにかかわりなく,必要なことだろう。それは,同時に,面白いことでもある。
紙の本
僕らも「自分なりの戦争」の中にいるのではあるまいか?
2010/02/07 11:14
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
立花隆が本書を推薦している本を読んで 本書を手に取る機会となった。読むほどに打ちのめされる思いがした。
本書は太平洋戦争の際に陸軍大将だった今村を描き出す。本書を読んで「日本軍にも かように凄い人がいたのか」という感想がまず
先に来るかもしれないが それだけでは済まない迫力で迫って来るものがある。今村の話は 終戦後60年を経た現在の僕らにも 痛烈な自己反省を強いるものがあるからだ。
本書は戦争を舞台とした話だ。但し 戦争の話ではない。戦争は舞台に過ぎない。あくまで 今村という方が 戦争という特殊な状況の
下で どのように「人間」として振舞ったかという話である。その意味では 僕らも僕らなりに「自分の特殊な状況」の下にいる。
「自分なりの戦争」の中で はたして自分は今村と比較して人間としてどうなのか。そういう読み方が出来るところが本書の力であり今村の普遍性である
勿論 自分を今村と比較するなど おこがましいとしか言いようは無い。それでも 今村の毅然とした態度と哲学に 少しでも 自分の状況を重ねながら読むことが 本書を読む正しい読み方ではなかろうか。僭越ながら そう思った次第だ。
繰り返すが本書を戦争の話だと思って読むべきではない。むしろ 一種の宗教書に近い気分で読むべきではなかろうか。そんな衝撃力がある一冊である。
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あの戦争時、八紘一宇、大東亜共栄圏の思想を石原莞爾以外で、唯一体現した、日本が誇るべき聖将“今村均”。
その、西郷隆盛にも通ずる人間の器の大きさ、誠の道を貫いた生き方に、感化せずにいられない。
ラバウルの風の匂いも感じられる名著。。
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昭和の日本陸軍にも、このような将軍がいたということを初めて知った。
救われる思いがした。
今年読んだ本の中でも屈指の、すばらしい著作。
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日本の軍人についてはもっと研究されてもよいと思う。
旧軍は、明治以降、多くの優秀な人間が集まったのだから、まだまだ紹介されてよい人はたくさんいるはずだ。
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帝国陸軍の将官。
インドネシア占領後の理想的な軍政。
米軍も避けて通った地道な鉄壁の防御。
敗戦後の身の振り方。
何れを取っても
この人こそ、尊敬できる。
この作品を世に残した
角田房子も、偉い。
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敗戦記念日迄に読み終えたかったので一気に読んだ。
軍律には従いつつ、部下の死を最小とし、被支配地民の恨みを買わず、敗戦後も「戦犯」とその家族を救う為に毅然と優しく行動する姿は、仁将そのものであり、こういうリベラルな帝国陸軍軍人もいたのかと、驚きを持った。
今村大将(や山本五十六)を以ってしても開戦を防げず、あるいは早期講話が成らなかったのは無念だが、一般に言われるように、軍閥が戦争を先導したのではなく、国民が望んで戦争に突き進んだ面もかなりあるのだろう、という気がする。
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聖将、仁将と言われた今村均陸軍大将の伝聞。戦中も戦後になってからも戦争に対する自分の責任を果たそうとする姿は憧れても到底辿り着けない感ある。ちゃんと責任を持って生きなければと今更のように思う。
あと、違う著者によるものか、あるいは本人による著作も読んでみたいと思う。
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手術後、練習に参加できないときに九州の合宿所で読んだ。当時責任ある立場であった筆者が責任の取り方を学んだ本。数ヶ月後、自らが招いた最悪の結果を縦容として受け入れられたのは本書の影響が大きい。今後社会人として責任ある立場となった今も座右の書としたい。
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筆者も後書きに書いていたけど、「多くの若者を死地へ投じたのだから、自分は一生騙されてゆかねば」の台詞には心打たれました。
陸軍という大きなうねりの中でここまで人を思いやる人がいたなんてって感じです。
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日本帝国陸軍にもこんな人がいたということを知ると少しは救われた気分になれる本。
「不合理な組織の中で、自らの合理性を守るためにはどうすればよいのか」が学べる、日本のサラリーマンにとって参考になる。
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目次 ラバウル戦犯収容所
太平洋戦争勃発まで
太平洋戦争開戦
ジャワ裁判始まる
晩年
あとがき
解説――保坂正康
みごとな責任の取り方であります。
昭和の時代、日本の置かれた歴史的環境の中で、図らずも軍人となってしまった今村均大将。
陸軍幼年学校卒ではなく、旧制中学から陸士・陸大へと進んだ経歴の持ち主。
そして、年少の頃に親しんだ、キリスト教の教え、その後出会った「歎異抄」との出逢い。
大将の奥深い人生に対する心構え、価値観、人の道・・・
100%神仏にはなれないが、限りなく神仏の教えに近い考え方の持ち主。
軍人としての立場で、あくまでも戦争を評価する。
そして、軍人としての行動基準は絶対ではあるが、キリスト教・仏教の教えを基準とする今村大将の生きざま。
これほどまでに事故に厳しく責任を全うする大将。
著者は、その当時の日本の置かれた状況を勘案しながら、今村大将のとった行動、心の奥底をすばらしく推察している。
今村大将の行動、そして、その動向を客観的視点で描いた著者。
今の時代、色んな人に改めて読んでいただきたい本だと思います。
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2018年1月読了。『組織の不条理』でジャワ軍政の「成功」事例が紹介されていたのでその派生として読んだ。
ジャワでの融和政策やそれを生み出した今村の思想の背景についての紹介あり。500ページを超える文庫本としては大部なものなので少々読みつかれる。
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本書はほんとうに読み進めるのが大変でした。
解説にもあるように、熱心な著者の読者が、それならば今村将軍について書くべきだといわれて編まれたとのことである。
それを書き上げるというのはとてつもなく大変なことだと思う。
そしてまさにこの内容、このような責任感のありすぎる指揮官は、いまの世でも企業でも、政治家でもそうはいないだろう。
戦争に対する考え方も考えさせられる。もとより誰しもが好き好んで戦争に突き進むのではないだろうが、結果的にはこの書に登場する人々のような経験をする可能性があることを肝に銘じておかなければならない。
折しも、かの東ヨーロッパの地では、本当の理由はわからないまま戦争が行われ、またそこに関わるひとびとがいる。彼らはその行く末、勝ち負けがはっきりしようが、しまいが、この書にあるような人々と同じような経験をすることになるかもしれない。
戦争について考えるときには、このような書に立ち戻って、みるべきだと思う。