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日本の学校では教えてくれませんが、日本国憲法第9条の「国際紛争解決の手段としての戦争」という表現には実はお手本がある。(…)戦後の日本では、第9条が自衛戦争までを放棄しているか否かで大問題になりました。現在の政府見解は「憲法は国家の自衛権までを否定していない」ということになっていますが(…)こんなことは国際法を知っている人間から言わせれば、まったく無駄な議論です。その無駄な議論がなぜ起きたかといえば、日本人の多くが「戦争の放棄は、日本国憲法オリジナルなものである」と誤解してしまったからです。最初から、第9条第1項がケロッグ=ブリアン条約のコピーであることを知っていれば、憲法の規定が何を意味しているかは議論の余地がありません。314
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仏教の教典に「優曇華」という花のことが記されています。インドの伝説によれば優曇華の花は、衆生を救う如来や転輪聖王という帝王の出現を告げるものだとされているのですが、悲しいことにこの花は3000年に1度しか咲かない。この伝説から「優曇華の花」とは、滅多に起こらないことのたとえとして使われます。デモクラシーとは、まさに優曇華の花。日本人はデモクラシーを当然のもの、当たり前の政治システムだと思っていますが、それは大間違いなのです。376
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資本主義の大前提となっているのは、みなが自由に仕事を選ぶことができる社会です。「農民の子は農民、職人の子は職人」では、資本主義にはならない。そこで勤勉の精神と同時に必要になってくるのは、人間は平等であるという精神です。この精神がなければ、やはり資本主義は生まれてこない。ところがやっかいなことに、この平等の精神もまた、キリスト教があって初めて生まれてくる。(…)「神の前の平等」が転じて、やがて「法の前の平等」という近代デモクラシー思想が生まれてきたことはすでに述べたとおりですが、結局のところ、近代資本主義が生まれるのは、このデモクラシー思想がなくてはならないというわけです。384
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日本は非白人国家で最初のデモクラシー国家に変貌できた。そのアイデアとは何か。それは国家元首たる天皇を、日本人にとって唯一絶対の神にすること。天皇をキリスト教の神と同じようにするというアイデアです。すなわち「神の前の平等」ならぬ、「天皇の前の平等」です。現人神である天皇から見れば、すべての日本人は平等である。この観念を普及させることによって、日本人に近代精神を植え付けようと考えた。386
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戦後の歴史観では、しばしば「戦前の日本は国家神道であった」と言われますが、天皇教と国家神道はまったく別物です。(…)天皇教は、建国神話以来の神道がベースになってはいます。しかし、天皇教は神道とはちっとも似ていない。古くから伝わる神道のどこをどうひっくり返しても、キリスト教におけるイエスのように天皇が現人神であるという結論にはなりません。伝統的な神道の考えに従えば、天皇は皇祖神である天照大神直系の子孫であらせられても、現人神ではない。天皇とは、皇祖神のいわば斎主であって、それ以上のものではないのです。388
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伝統主義をぶち壊し、日本を近代資本主義国家にするために、尊王思想を「天皇教」という形に変えたのが、かの伊藤博文です。伊藤はこの時代にあって、近代ヨーロッパ憲法思想の根幹となっているのが、他ならぬキリスト教であることを見抜いていた。そして日本が近代国家になるにも、同じように宗教の力が必要であることを知っていたのです。(…)伊藤がヨーロッパに憲法研究に行ったのは、わずか半年ほどですが、その短い時間で彼は「宗教なきところに、憲法はありえない」という事実を悟った。そして憲法を作る前に、憲法の「基軸」となる宗教を作らなければならないことも分かった。(…)その基軸となるべき宗教とは何か。伊藤はその答えを、この枢密院会議で明確に述べています。「我が国にありて機軸となすべきは、ひとり皇室あるのみ」すなわち、天皇教こそが近代日本を作るための機軸だというわけです。396
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明治憲法では他の国の憲法に見られない、特殊な形の契約が行われた。そのことは明治憲法発布の際に出された「告文」という、文書に現れています。この「告文」とは、天皇が先祖である皇祖・皇宗・皇考の神霊に対する誓約書。(…)明治天皇は「この憲法を守ります」という宣言を、国民に対してなさったのではない。皇室のご先祖様に誓ったことだから守る。憲法を破ればご先祖様に申し訳ないということです。しかし、この結果、帝国憲法は天皇と人民との契約ではなく、明治天皇と神々との契約になってしまったのも事実です。そのため、日本人の意識に「憲法とは国家を縛るものである」という意識がとうとう定着しなかった。400
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深い見識から本質をズバッと突くところに小室直樹氏の見識の深さが現れている。憲法が生まれた背景、思想、宗教や経済との関係性など、勉強になるところが多い。
憲法は、国家を縛るための法律である。国家権力は悪であるという概念だ。憲法は、宗教と関わりがある。それは「契約」という概念だ。神との契約、ルソーの社会契約説がバックボーンになっている。
しかし、日本にはこの宗教的なバックボーンがなかった。そこで、天皇を神として生まれたのが、明治の大日本帝国憲法だった。民主主義、資本主義、憲法。形はあるが、精神が抜けている。
いま必要なのは、新しい時代にマッチした深い哲学であろう。主義を超え、形を超え、真の人間主義を取り戻す思想が求めれらている。
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すごく面白かった。高校生に薦めたい。日本史、世界史、倫理、政治経済の科目の勉強が好きになりそう。生きた知識が得られる。
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平和主義が戦争を呼び込むこともある。戦争も辞さないという覚悟が戦争を防ぐ。
日本の憲法をテーマにした本なのに、ヨーロッパの歴史が良くわかる。
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憲法とはそもそも何か、そして民主主義とは何か? こういった事を人類の歴史の観点から説明をして行き、日本が抱える問題点への提起をしている一冊。
全体を通してわかりやすい。前半は、憲法のなんたるかとかの話に入る前に、先ずそもそもなんで民主主義って形が生まれ運用されるようになったのか、や資本主義の歴史的経緯なんかが説明される。
なんてキリスト教、中でもカルヴァンの提唱した予定説の影響がデカイとか まぁ民主主義が根付くためには資本主義が大切で、そのためには神様と働く事の正しさが必要って話はわかったような気もする一方、それが資本主義が形づいた理由かと言われるとなんだかそれだけじゃねぇんじゃねぇの?となんとなく思ったりした
しかし、歴史的経緯があるからこそ大きな流れがある訳で、それを一つの基本として学ぶには良い本かなとか思ったりしました
つかケインズとかアダムスミスとかニューディール政策とか俺は本当に物を知らんなぁと読んでいて悲しくなった
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憲法の話と思いきや、
"原論"なのでそのもととなる
昔の世界各国の法律の歴史みたいな内容になっている。
法律というより歴史本を読んでいるようだった。
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議会制、民主主義、平等などの概念が歴史的に生成されてきた経緯がこれでもかというくらい説明されています。
小室先生の本はつねに興味深く読めます。
解釈論を展開した本ではないので念のため。
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目から鱗の一冊でした。憲法というと、すぐに第9条とか基本的人権がとか、個別の内容を思い浮かべてしまいがちです。しかし本書では、欧州における国家、議会政治、民主主義の成り立ちや、資本主義を生んだプロテスタントの宗教観を紹介しながら、その中で権力を抑えるものとしての憲法の必要性をわかりやすく解説しています。
憲法があるのに独裁者を生んだナチスドイツの例、太平洋戦争に走った日本の例は、憲法だけでは抑えきれない権力の力や民衆の空気の恐ろしさを伝える好例です。さらには戦後日本においては、官僚が国を動かし、マスコミが空気を醸成することで、民主主義が機能しなくなっていると警鐘を鳴らしています。
分厚いけれど読みやすい。しかし、本書に含まれている内容は広く深いものがあります。ここまでハッキリと断言されると、なるほどなと思いつつ、考えさせられる内容も多い。何回も読むといいのでしょうし、また、憲法や民主主義を考える良いきっかけになる一冊だと思います。
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改憲論議の前にまずこういう本を皆が読んで話をしないと意味のない議論にしかならないだろう。
それにしても、15年も前の本なのに、、、と思ってしまった。
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社会科学の入門書
入門書といっても内容が軽いわけではなく
核心を的確についていて、とても濃い。
近代法は何を拘束するためのしすてむなのか。民主主義、資本主義とキリスト教の関係。プロテスタントのエートス(行為態度)のない日本がどのように近代化をんしとげたのかなどなど…
自明に感じている社会のありようが、如何にして形作られてきたのか明らかにしてくれる良本。
最初っから最後まで目から鱗が落ちっぱなし。
日本人なら読んで欲しい本です。
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憲法の完成過程を通じて人類の歴史を見る本。単なる憲法の解説書ではなく、憲法の本質に迫る内容です。憲法が気軽に知りたい人は一読あれ
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日本国憲法はすでに死んでいる。
小難しい憲法解釈の話は一切なく、近代憲法の母体となった西洋史を軸に、憲法とは何なのかが根本的にわかる本。今の日本の問題点も、しっかりと見えてきます。
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憲法とはそもそも国家権力を縛るもの。キリスト教という徹底的に資本主義を否定し絶対的な神が存在することで、民主主義が生まれる。
民主主義こそが民主主義を殺す、日本における紙が天皇であったこと。本当に分かりやすく勉強になる憲法論。
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痛快すぎて爽快。
感心を通り越して感動。
ここまで面白く憲法、経済、歴史、宗教、などを統一して分かりやすく本にできるのは小室直樹氏以外いないと思う。
まさにカルヴァンの予定説のように人を変える力を持っている本。
是非読むことをお勧めします。
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本書は所謂憲法の条文を論じるような内容ではなく、日本では憲法が死んでしまっているという現状認識からスタートして、そもそも憲法とは、民主主義、それに関わるすべての事柄について歴史を踏まえて解説してくれます。憲法を議論する際は、ここまで掘り下げて理解がないとあるべき姿は見えてこないであろうと同意する。
『日本はなぜ、「基地」と「原発」~』が日本と米国との関係性において憲法の問題点を説いた本であるとすると、本書はそれに至る世界の歴史、見方を踏まえた結果の日本国憲法の問題点を言い当てている本であると言えます。また、個人的には本書が現在第一線で活躍されている著名人の方々の主張のベースとなっている本ではないかとも思えるような箇所もあり、なるほど名著であるなと納得しました。