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ワイルド・ソウル 上 みんなのレビュー
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紙の本
快作!重い話を爽快に
2011/12/24 12:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
快作である。昭和60年ごろの移民化政策で悲惨な人生を歩んだ、あるいは悲惨な死を迎えた多くの移民の恨みを背負った2次世代が、外務省及び政府に対して復讐をするという話。
この作家の才能を感じさせる一冊。デビュー作『午前三時のルースター』で物足りなかった点は、ここではものの見事に解消されている。感動あり、笑いあり、サスペンスあり、アクションあり、エロスあり、社会批判あり、のぜいたくな本になった。プロットもしっかりしており、細部の構築も緻密である。終わりはちゃんと持ち味の一つの、しゃれてはいるが嫌味のないキザ、で締める。大藪賞ともう一つ何かをダブル受賞しているはずだが、頷ける。政府のブラジル移民策の悲惨という深刻なテーマを扱っているにもかかわらず、基本的に明るく、気質として娯楽小説向きだろう。
紙の本
極上の復讐劇
2006/05/09 23:55
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sagaga - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後まもなく、豊かな耕作地と住環境が手に入るという宣伝文句を信じ、胸に希望を抱いてブラジルへと旅立った幾万の日本人たちがいた。しかし当時の外務省によって行われたこの移民政策は、実際は「口減らし」政策であり、彼らは現地人たちでさえ住み着かない未開のジャングルへと放り込まれた“アマゾン牢人”であった。家族を失い、どん底の生活から数少ない成功者へとのし上がった衛藤は、同じくアマゾンで辛酸をなめた養子のケイ、松尾、山本と共に外務省への復讐を企てる。
復讐劇というと陰鬱なストーリーを思い描きがちだが、この本はうまい具合に物語全体にラテンのスパイスが効いていて、暗い題材の中にもどこかあっけらかんとした明るさがある。登場人物もこれがまた良い。過去にそれぞれ人には語れぬ経験を持つ共犯者たちも、年とともに情熱を失いつつあるテレビ局社員貴子とその周囲の人々も、みな一様にひと癖もふた癖もある人間ばかりだ。特に日本に来てから中心的人物となるケイは、そのバカがつくほどの明るさでぐいぐい読者を惹きつけ、最後の最後まで期待を裏切らない理想的な主人公と言える。スピード感溢れるスリリングな展開、どこか憎めない犯人たち、そして極めつけはこれ以上ないというくらいの最高のラスト。読書が極上の娯楽であると改めて感じさせてくれる傑作エンターテイメント小説だ。