紙の本
スタンダードであることがラジカルであることの証明のような名著
2006/08/16 01:15
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:伊豆川余網 - この投稿者のレビュー一覧を見る
たいへん面白く読んだ。
入手しやすく手軽に読める新書という形式による概論・概史は、常に諸刃の刃を含んでいる。手軽さは浅薄な読物に変じ易いし、概論は概して折衷と項目の羅列に堕し易い。
ところが、本書は、極めて読みやすいわりに中身は濃く、倦んだりしない程度に実例を挙げて広い目配りを怠らないばかりか、さまざまなことを考えさせてくれる。
日本において宗教とは“神と仏”である。たとえば、古代における仏教の受容に関して、「それまで必ずしも明確でなかった神々の個性が次第に明確化されるとともに、寺院の影響で神を祀る固定した神社がつくられるようになっていった」のはもはや自明であり、その後の「神仏習合」についての解説も、同じ著者の10年前の『日本仏教史』(新潮文庫)と変わらない。だが、続いて「神仏習合こそ、日本の宗教のもっとも「古層」に属する形態と言うことができる」と論じるとき、我々は、日本的な支配被支配のモデルを想起する。
著者が語る“日本の宗教の歴史”を、今なお日本社会の基軸となっている象徴と実体、もしくは、すべからく「何か」に包み込まれつつも、常に一体化を拒む二重構造、すなわち「同化とその拒絶」というアナロジーで読んでしまうのは、危険なのかも知れない。
だが、神仏習合について、著者はこうも語るのだ。
「日本の神は仏教によって滅ぼされたのではない。神は仏の支配下に立ち、変貌しつつも、完全に混合し一体化してしまうわけではない」
これは、無宗教を標榜しつつも、個人と世間に共依存を繰り返すまさに現代の我々自身の分析そのものではないだろうか。いや、著者のいう「古層」(この用語について、著者は「はじめに」で丸山真男のそれであることを紹介し、その評判を真摯に伝えた上で、慎重に用いることをためらっていない。あたかも鋭利な古刀を手にした達人のように)とは、やはり、我々の拠って立つ日本社会そのものではないのだろうか。
いっぽう、クリスマスではしゃぎ、神社へ初詣でに出かけ、仏式で葬礼することに違和感をもたない我々の先祖たちの信仰については、次のように述べている。
「さまざまな信仰は雑然としているようであるが、必ずしも無秩序というわけではなく、今日と同様にある程度の分業がなされていたと考えられている。すなわち、死に関する儀礼は仏教の独占するところであり、それに対して、現世利益的な面は、仏教・神祇信仰・陰陽道が併せ用いられる。現世利益のうち、積極的な子孫繁栄や立身出世は神祇に祈り、疫病の除去などの消極面には陰陽道が用いられ、仏教はそのいずれにも関係した。」
そして、明治政府による「神仏分離」だ。形式的には“神と仏”の分化を促し、その結果、「国家神道」が誕生したという“近代”の逆説の叙述は、最も興味深い箇所である(「神仏補完」という用語もまことに当を得た表現)。極めてデリケートなテーマであるので、詳細については、ぜひ読んで頂きたいとしか申し上げられない
。特に『日本仏教史』の読者であるならば、この最終章(近代化と宗教)を読むだけでも意味があると思う。と同時に、この一章があるゆえに、本書はいわゆる凡庸な宗教概説の域を超えているのである。
著者は最後に「どのように『古層』が呼び出され、また、新たな『古層』が形成されてゆくのか。長い歴史の蓄積を振り返りながら、今日の宗教状況をも見定めていくことが、宗教史研究のもっとも大きな課題といえるであろう」と結んでいるが、これは謙譲である。“神と仏”つまり、日本人の信仰対象についての論述は、そのままあらゆる場面における今日的課題を、強く呼び覚まさずにはおかないからだ。
紙の本
入門書に最適
2018/08/25 22:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つかも - この投稿者のレビュー一覧を見る
宗教史を学問対象にする人も、教養として読む人にもちょうど手ごろな本。
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最近、なぜだか、GWはこういう日本の根源の断面を切りとった書籍を
よみまくった管理人です♪
日本人は一般的には「無宗教」な人が多いといわれるが
本当にそうなのか?
第2次大戦による反動は?
第2次大戦前の日本人宗教観とは?
日本宗教の歴史は?
などなど、興味深いトピックが、なみなみとありました♪
日本人の一部を形成する「宗教」という一断面を掘り下げたい方にオススメです♪
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ふーむ面白かった。
しかしあれですね。宗教ってわけわかんないですね。(いっちゃった!)
ただ、現世利益を求めるようになったっつーのは、少なくとも余裕がでてきたからなのかしらと思いました。
その欲求っていうのもまた、いいんだか悪いんだが…うそ寒い現代を作ったなあとおもいます。
実感があるからなのか、いわゆる新興宗教というやつには抵抗があるのは事実です。現代というやつは、何て言うか信仰心を小ばかにしてる感じもあるし、そのせいなのかも。
とりあえず本はおもしろかった。荒かったけど、面白かった。
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日本の宗教通史。
教科書みたい。
深く知ろうと思えば、巻末に示された参考文献を見ればよい。
概説的内容である本書だが、自分には十分だった。
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『神仏習合』の著者、末木氏が一般向けに書いた本。
日本の宗教史が簡潔にまとめてある。
思想の偏りもなくて(多分)、読みやすい。
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10/03/13.
一般向けなんだろか。
なんかペダンティックな感じ。あーでもなければこーでもない、と。
しっかり読んでみてから、このレビュー変更しますが。
ごめんなさい。上記の評価間違いです。序文の“古層”云々のみ該当ですが、読み進めるうちに、特に神道と仏教との関係について目から鱗でした。
3/21読了。
近代史以降についてのおおまかな政治状況についての著者の言葉がかなり常識的であることについてはやや、欲求不満を感じたものの、概説としての宗教史については私にとっては初見も多く、非常に学ぶことの多い著書でした。文庫の『日本仏教史』に進みます。
10/03/23読了。“古層”についても、了解です。
末木さん、「しかし」のあとに大事なことを書くという文章の癖発見。
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授業でお勧めされた本。
レポートで読んだ。
入門書かもしれないけどあまり新書読まない自分にとってはちょっと難しかったorz
こういうのって何回か読まないと頭に入らないんだなぁ。
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【教科書用】学部の一般教養レベルで「日本宗教史」を講ずる場合、使いやすい一冊。
価格・内容共にコストパフォーマンス的にすぐれた一冊だと思います。
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〈古層〉論を論を批判的に発展させる観点で、日本の宗教史を概観した本。仏教、神道、儒教、キリスト教などの宗教諸派が互いに影響しあい、そこに政治が絡む形で、各々発展して来たと言うストーリーになっている。
時代区分ごとにその時代の代表的な事例を紹介していて、記紀神話は仏教の影響の下に創作されているから、日本の〈古層〉じゃないと喝破するあたり小気味よい。個人的には、中世に創作された偽書に、積極的な意味を持たせている話が面白かった。
個別の話は他にも面白いことが書いてあるのだが、本書全体のパースペクティブが一番最後の章に記載されているため、読んでいる途中は、その話が全体の中でどんな位置づけなのか把握できないのは難点。
初読の場合は、最後の「いま宗教を問い直す」を読んで、全体像を把握してから読み進めることをお勧めする。
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[ 内容 ]
『記・紀』にみる神々の記述には仏教が影を落とし、中世には神仏習合から独特な神話が生まれる。
近世におけるキリスト教との出会い、国家と個の葛藤する近代を経て、現代新宗教の出現に至るまでを、精神の“古層”が形成され、「発見」されるダイナミックな過程としてとらえ、世俗倫理、権力との関係をも視野に入れた、大胆な通史の試み。
[ 目次 ]
1 仏教の浸透と神々―古代(神々の世界 神と仏 ほか)
2 神仏論の展開―中世(鎌倉仏教の世界 神仏と中世の精神 ほか)
3 世俗と宗教―近世(キリシタンと権力者崇拝 世俗の中の宗教 ほか)
4 近代化と宗教―近代(国家神道と諸宗教 宗教と社会 ほか)
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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今まで、神社と寺が一緒になっていたりするのに不思議を感じていたのだけど、これを読んで少しは理解できた感じ。今度は個別の宗教についての本を読みたいな。
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日本人と宗教について分りやすく説明してくれています。主に神仏が密接に関わりあいながら展開していく宗教史を丁寧に解説してくれています。自分のように大雑把に日本の宗教について把握したい人にためになる一冊だと思います。
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日本宗教の歴史のイメージをとりあえずふんわりと抑えるという意味において、本書の持っている力というのは絶大だと思う。
無論、新書という形態をとっている以上、細かいところまでは言及されてはいないし別の見方もあるのだろう。
けれど、日本における「宗教」概念がどのように形成されてきたのか、そしてどのような実態があったのかを振り返るためには、本書のような存在が欠かせない。
宗教学をやっている人にかぎらず、日本の思想に興味がある人は読んでみても決して損はしない一冊。
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正月は神社に初詣に行き、結婚式はキリスト教の教会で挙げ、盆に先祖の霊を迎え、クリスマスを祝い、葬儀は仏式で行う…、そんな無節操さを、しばしば批判的な論調で語られることが多い日本人。
私自身、まったくの無宗教・無信心で、いわゆる信仰というものに対する嗜好は皆無だが、日本に生まれ暮らす日本人の一人として、そういったあまりにも混沌たる日本人と宗教との関わりについては、以前より強い関心を抱いている。
結果的に本書は、日本人の国民性および精神性と宗教との関連を包括的に分析し、一つの見方を提示する、という私が求めていたようなスキームで論じられたものではなかったが、そうした思索の前提となる予備知識を、古代より時系列を追って適宜説明してくれており、まさしく"日本宗教史"の概論としては充分に読み応えがあるものだと思う。
何となくは知っているつもりの"神仏習合"の本当の意味合いや、檀家制度の成り立ちと葬式仏教の意義、記紀神話の成立には実は仏教が影響していた、などといった目から鱗の知識にも出会うことができた。
他にも、日本独特の様式である山岳信仰や、実在の人物が神として祀られる数々の事例など、掘り下げていけばきりがないような興味深いトピックスが多くあることが分かる。
とどのつまりが、"宗教"と肩肘張っていても、突き詰めればその国や土地に、文化と不可分なものとして根付く"生活様式"こそがそれだと言えるのではないか、という自分なりの結論に至った。
もちろんそれは信仰や信心とは縁が薄いものにもなりうるので、狭義的には"宗教"とは言えないのかもしれないが、帰依する対象の有無を別にすれば、例えば"道徳"や"倫理"として捉えられているものこそ、人々の行動を縛り、そして冠婚葬祭など生活の中の節目節目で様式を規定する"宗教"なのだ、と定めても完全な誤りではないだろう。
儒教(儒学)は宗教なのか、という議論も古くより行われていると聞くが、その辺りは専門家の間でも意見が分かれているようだ。
少し話は飛躍してしまうかもしれないが、宗教に対する日本人の寛容さ(ルーズさ)、というものに考えを巡らせてみると、なぜ日本の街並み(たとえ古都と雖も)がヨーロッパのそれらと比べて無秩序で美観を伴わぬのか、その理由が朧げながら分かるような気もする。