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紙の本
今期のいる作業の果てに本書をものにした著者に感謝
2008/12/06 02:34
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
だれしも名文を書きたいと思う。ちょっと気の利いた言葉を差しはさんだりなんかして、その時は、「自分もなかなかのものだな」としばし満足する。
でも、少し時間をおいて、その文章を再読してみれば、気恥ずかしさを感じる。気の利いた言葉のはずが、妙に気取っていて、前後の文章と調和していなかったりするからだ。
そんな経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。日本語は英語やドイツ語などにくらべて、言語としての自由度が高い。だから、「こうすればすばらしい文章になりますよ」というような公式は見出しがたい。
とにかくたくさん書いて、たくさん文章を読んで、自分なりの執筆スタイルを自然に会得するのが、おおよそではないかと思う。たしかに、結構な文筆家が文章教室のような著作を刊行しているが、今ひとつ合点がいかなくて、自己流に戻ってしまうことが多い。
そして、本書は、単なる思いつきで志賀直哉の名文を、解読してみせたのではない。志賀直哉の全集はもちろん、鴎外などの多くの作家の全集をことごとく同時に読破して、その上で、「それでもやはり志賀直哉なのだ」として、取り上げている。だから、微細をうがちつつも、とても本質的なところを突いている。
例えば、「考えが頭にとりついてくる」といった表現。心の動きを空間的に置き換えている。こうすることで、ただの心理描写がダイナミックになる。「気持ちが飛び退く」といったことも同類。
著者は、こうした志賀直哉の技法を読者に平易に提示してくれる。きっとこうした表現方法を自分のものにできれば、いい小説が書けるのだろうなと思わせてくれる。作家になるような文才ともなると天与のもので、努力しなくてもスルスルと小説が紡ぎ出されるのかと思っていた。しかし、志賀直哉は推敲をして、自分の会得した技法をたくみに適応している。
たいへんな労力をかけて、志賀直哉を分析しているので、小説家志望の方はきっとヒントを得られるだろう。書評に用いるには、ジャンルが違う。それでもたまには志賀直哉に弟子入りしたつもりで、気の利いた文章表現を前後関係との調和に気をつけながら応用できたら、さぞかし楽しいだろうなと思わせてくれた。
「あ、この言い回しいだだき」と小説を読んでいて出くわすことが、たまにあるものだが、本書を通して、志賀直哉からいろんな技法を学ぶのはとても得した気分がするに違いない。
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