紙の本
国民を統治するということ
2007/01/24 15:19
19人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は後藤田正晴が嫌いである。彼の角栄べったり、中国べったり、警察べったりで反自衛隊、憲法改正反対という姿勢が、私とは政治的に相容れないからである。しかし、本書は良く出来ている。オーラルヒストリーとしても読みどころ満載で出色の出来栄えとなっている。何より面白いのは警察官僚の頂点を極めた後藤田氏の「日本国民の統治者」としての視点の確かさだろう。彼は警察という暴力装置を指揮する最高司令官として実に良くやったと思う。彼は警察が日本共産党や全学連、全共闘のバカ学生たちに対して徹底的に低姿勢に出るよう指導した。警察が学生を殺し蹴散らせば、判官びいきの日本国民は反体制側につき、日本国の国体が危うくなると正確に事態の先行きを見抜いていたのだ。だから警察に過剰な暴力を慎むよう指導し、むしろ学生たちにやられるように指導したのであった。私の義父は当時、警視庁に出向し秦野警視総監の秘書を勤めていたが、同じことを総監から言われたという。こうして暴力学生のアホどもに日本の警官たちは殴られ、投石され、追いかけられ続けたわけだが、この作戦は見事に成功したといって良い。東大安田講堂を占拠し乱暴狼藉の限りをつくすアホ学生や、よど号を乗っ取り北朝鮮に行けと指示する馬鹿ども、あるいはみんなの成田空港を占拠して管制塔を破壊するバカたちを見て、当時学生だった私は、一日もはやく機動隊に志願してこの手で左翼学生を殲滅してやりたいと手に汗握っていたわけだが、何のことはない、後藤田さんの作戦にまんまとはまってしまったわけだ、私は。統治者とはこういうものかと頭が下がる思いがした。それにくらべると「安田講堂」を書いた島泰三の考えのなんと浅はかなことか。おつむの出来がまるで違うなと、この書評を書いていて、島に対し、またため息をついてしまった。
紙の本
今生きていらっしゃれば
2015/09/14 22:11
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小市民 - この投稿者のレビュー一覧を見る
次第に戦争を知らない世代が抬頭し始めた当時の政府・自民党にあって、後藤田氏は官房長官として、出征の経験から、徒にアメリカに追従するのではなく、真の国益のためにいかに行動すべきか、相手が誰であれ直言したからこそ現在の日本か辛うじてその立場を維持できているのではないだろうか。
後藤田氏については様々な出版物が上梓されているが、この本はオーラルヒストリーという性格から、第三者の先入観が排されているため、氏の「肉声」を聞いているようである。
最近の国内情勢、あるいは周辺諸国との関係について、氏が存命であればどのようにお考えなのか、このインタビュー後にお考えが変わったのか、是非とも伺ってみたい。
紙の本
素人には分からないよ
2006/07/06 23:28
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
後藤田正晴氏のインタビュー形式の回顧録。当時の考え方などが読み取れる、大変意義のある企画だと思うのですが、一般人向けに文庫として出版する本としては少し疑問があります。
上巻には、戦前からよど号事件くらいまでについて触れられているわけですが、半数くらいの人は当時を知らないわけですよね。この本は、後藤田氏のインタビューを載せているだけなので、当時の時代背景にはほとんど触れられていません。本人には常識でしょうし、インタビュアーである著者も専門家ですから。できれば、もう一分冊くらい増やして、当時の時代背景を補足しながら、話を整理して欲しかった気がします。
…これがオーラルヒストリーだ、と言われてしまえばそれまでかもしれませんが。でも、内容は面白かったです。
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「カミソリ」と称された後藤田正晴。中曽根内閣の官房長官で辣腕を振るい、歴代の政権にも影響力を持っていた。笑うと人なつっこさを感じさせるところもあった。好き嫌いはともかく、プロフェッショナルを感じさせた人だった。
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数年前に単行本を読んだが、文庫版の存在を知り再読。
読み終えて、やはりバランス感覚に優れた政治家だったと感じるし、言葉もズッシリ重いように感じた。
三角大福時代の話は、伊藤昌哉氏の「自民党戦国史」も読んでおくと、より面白く臨場感を感じる。
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中曽根内閣の官房長官で辣腕を振るい、歴代の政権にも隠然たる影響力を持った男・後藤田正晴ー混乱する政局を舌鋒鋭く斬り「カミソリ」の異名を取った彼の直言は各界から幅広い支持を得てきた。そんな著者が自らの波瀾の人生を振り返った、貴重は戦後政官界の秘史が本書である。上巻は、軍隊時代から内務省、警視庁などを経て、警察庁長官、田中角栄内閣の官房副長官を歴任し、田中派議員として台頭するまでを収録している。(親本は1998年刊、2006年文庫化)
・文庫版のためのまえがき 御厨貴
・単行本まえがき
・第一章 人間の運勢を実感させられた軍隊時代
・第二章 人心の荒廃に日本の将来を悲観
・第三章 警察の組織・人事の刷新に全力を注ぐ
・第四章 いつ革命が起きても不思議ではなかった
・第五章 政治家の力と官僚の力
・第六章 警察人事はいかにして機能してきたか
・第七章 事件多発に最高責任者の孤独を
・第八章 田中内閣の政治指導の様式に明と暗
・第九章 人間がまるで変わった二回の選挙
・第十章 最大派閥・田中派内での仕事
再読。読むほどに発見がある。本書は、内務省、警察庁、自治庁(省)などに奉職。警察庁長官を勤め退官後に官房副長官。政界進出後は、官房長官、法務大臣など閣僚となった後藤田正晴の回顧録である。官界政界の重鎮であった氏の証言がつまらない訳が無い。
上巻では、後藤田の吏道に対する考え方が窺える。また、戦争経験も含めて、役人人生が政治家としてのバックボーンとなっていることが感じられた。
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戦前から戦後にかけての断絶・継続、官僚のパワーバランス、逮捕後の田中角栄の暗躍、行政改革の歴史など、実に興味深い。
戦前に内務省に入省し、その後警察庁へ、あさま山荘事件をはじめ学生運動が過激な時代に警察庁長官をつとめ、退官後62才にて政界入り、田中角栄の懐刀として活躍後、中曽根内閣時の官房長官時代に辣腕を奮ってカミソリの異名をとる後藤田の目から見た20世紀である。
省庁統合の難しさを痛感するくだりでは、ひとつのポストの増減をめぐって省庁間で激しい応酬があった様子が書かれている。
イランイラク戦争でアメリカの要請によりペルシャ湾に自衛官を派遣する話が出た際、強硬に反対し、総理を思いとどまらせる。「これは戦争になりますよ、国民にその覚悟ができていますか」。状況は今も同じだと思われる。
なお、本書は聞き書き(オーラル・ヒストリー)である。自伝が、多かれ少なかれ自慢話と自己弁護に傾きすぎるきらいがある中で、一定の歯止めとなっており読みやすい。
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「そもそも、『カミソリ』を形成したものは何だったのだろうか。本人が生れ持った資質の他に、何が作用したのだろうか」(下巻・「解説」より)
筑紫哲也氏(ジャーナリスト)推奨!
中曽根内閣の官房長官で辣腕を振るい、歴代の政権にも隠然たる影響力を持った男・後藤田正晴――混乱する政局を舌鋒鋭く斬り、“カミソリ”の異名を取った彼の直言は、各界から幅広い支持を得てきた。そんな著者が自らの波瀾の人生を振り返った、貴重な戦後政官界の秘史が本書である。上巻は、軍隊時代から内務省、警視庁などを経て、警察庁長官、田中角栄内閣の官房副長官を歴任し、田中派議員として台頭するまでを収録している。
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官僚として内務・警察・防衛・自治行政に携わった後、自民党に所属する衆議院議員として内閣官房長官等を務め上げ、中曽根内閣における行政改革を推進した後藤田氏の半生を本人の語りによりまとめた回顧録。
日本の戦後復興と経済成長を官僚と政治家という異なる職責から担ってきた人間だけあり、日本の戦後政治史を理解する上で貴重な語りであるのはいうまでもないが、本書の素晴らしさはこのタイトル「情と理」に表れているように、いかにこの両極のバランスを取りながら物事を推し進めていくことが大事かを学ばせてくれる点にある。
そのターニングポイントになったのはやはり初めての選挙での落選であり、その際に本人が「(落選したことで)人間が変わっちゃったよ」と語っているように、官僚として生きてきた自身が、自立した個人として有権者を見ていなかったことへの反省なのだろう。その後の政治家としての生きざまにおいては、自民党の一党体制が長く続く中で、派閥抗争のダイナミズムも当然のごとく描かれるが、どのように”情”を持って自民党の各派閥のバランスを取り、政治を安定的に進めていくかということに関する苦心が生々しく語られている。
描かれる時代は、自身が物心付くまでのものが大半であり、自身が歴史的事実としてしか捉えていなかった日本の戦後史を別の観点から見れる面白さも含め、多くの人に推薦できる一冊。
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買って良かったと思える本。後藤田の評伝は佐々淳行の本で十分かなとも思ったが、御厨の手法によるオーラルヒストリーも非常に読み応えがあり、記述者のバイアスがほとんど無いだけにストレートで生々しく、かつインパクトがある。
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行政の仕事に通じた切れ者に、東大卒の学者がインタビューを行う。
前提をある程度共有する二人の間で会話のラリーが続くが正直おいてけぼりをくう所もあった。
個人的には国会議員になってからの話の方が知ってる人や聞いたことのあるエピソードもあって読み易かったと思う。
戦後の混乱や安保闘争、選挙の失敗などを経て得た教訓が随所に散りばめられていて勉強になる。