紙の本
透明な光あふれ、風が通り抜ける癒しと祈りの森へ……
2008/10/15 14:44
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紅葉雪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の印象を一言で表すなら、「癒しと祈り」だと思う。
主人公の翠は高校生。彼女の周囲で起きた「事件」に絡む小さな謎を、自然解説指導員(レンジャー)の護が解き明かす形を取っており、3話の中編が収録されている。
でも自分はこれを単なるミステリーとはしたくない。
護は、探偵役であると同時に、まるで祈るかのように、凍りついた登場人物たちの心にそっと優しく光をあて、そよ風を送っているように思えてならないから。
単行本のあとがきで作者が述べているように、「風の音にじっと耳を傾けているような、(中略)……罪を断ずるのではなく、つながりを育んでいく名探偵」なのである。
舞台もほとんどが、彼の仕事場の森となる。
作者の、美しく繊細な、同時に凛とした日本語から紡がれる四季の森……自然の姿には圧倒されるばかりだ。
まるで目の前に自然豊かな森があらわれ、その空気や温度までも感じられるよう。
そんな自然描写と、暖かい登場人物たち。そして優しく真摯に人を見つめる「祈り」には、読んでいるだけで癒されてしまう。
ところで。文庫版のあとがきによると、「この小説には少し不思議なところがある」とか。
単行本として初版が発行されたのが1998年。文庫化されたのが2006年。その〈時差〉からも判るが、もう少し引用させてもらうと。
「単行本としてものすごーく売れた、というわけではありません。「青臭い」という批評もいただきましたし、(中略)…にもかかわらず、少数の読者にそれは深く愛していただいているようです」
まぎれもなく、自分はその少数の読者の一人であると、自信を持って断言してしまう。
収録されている三作とも甲乙つけがたいが、第三話が一番気に入っている。
そして。この第三話に出てくる、「夜の森の静寂にひたる」という「ふくろうタイム」や、ここでの説明は省くが「トラストフォール」を、ぜひ経験したいと心底思ってしまった。
作品にも引用されている箇所があるが、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』がお気に入りの方には、ぜひ手にとってもらいたい。また何だか心が疲れているという方には、何も言わずにそっと手渡したい一冊だ。
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文庫化するのを何年待ったことか。う〜ん、でも初めて読んだときほどの感動はないなあ。再読で結末が見えてしまったためかもしれない。
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高校生の翠の周囲に起きた“事件”の数々。誤解やすれ違いなど、どれも小さなことなのだけれど、自然解説指導員の護さんは、あるがままの事実をひろいあげて、静かに謎を解き明かす。癒しのミステリ、という感じです。
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レンジャーが謎解き役という言葉に惹かれて買いました(昔レンジャーという職業に憧れていました……)。
優しい探偵は、実は他の誰よりも傷ついているんじゃないだろうかとちょっと心配。だからといって謎をほぐさずにいることで他人が傷つくのも見たくないのでしょうしね。
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主人公である少女は森の中で失くした時計を探している最中にレンジャーの若者に出会います。
暖かな眼差しと穏やかな声をしたこの青年は、事実という粗いピースから真実というタペストリーを編み上げる不思議な魅力を持っていたのです。
深い深い森の中・・・・・・愛という鼓動が響き出す、そんな3編の物語。
そっと頁をめくってみませんか?
失くした時間が動き出すかもしれません・・・・・・。
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なんとなく表紙に惹かれて買った本。おだやかな雰囲気の中で比較的重い話が続いていきます。最後の1ページが持ってる雰囲気がすごく好き。さわやかなでやわらかい気持ちになれる一冊です。
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同級生の謎めいた言葉に翻弄され、担任教師の不可解な態度に胸を痛める翠は、憂いを抱いて清海の森を訪れる。さわやかな風が渡るここには、心の機微を自然のままに見て取る森の護り人が住んでいる。一連の話を材料にその人が丁寧に織りあげた物語を聞いていると、頭上の黒雲にくっきり切れ目が入ったように感じられた。その向こうには、哀しくなるほど美しい青空が覗いていた…。
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ダーリンご推薦。うん、面白かった★読んでる時間が穏やかで、気持ち良かった。護さんに会って見たい。ソフトクリームも食べてみたい。護さんと翠ちゃんのその後も気になるんだけど・・・。
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青春小説に近いけど、ミステリーだっ!
翠と護さんののほほんとした雰囲気がたまりませぬ。。。
かつ恋愛が近いような、遠いような……。
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表紙とタイトルに惹かれて読んだ。これは文庫版の方の表紙の方が秀逸だと思う。書影はおそらく単行本の絵ではないかな? 文庫版は上下の青い線が入っていなくて、表紙一杯に緑の背景と女の子の絵が描かれていた。
表紙のイメージ通りの、柔らかく、自然の描写の美しい、少し哀しいミステリだった。探偵役の護さんが好き。清里に行きたくなる(清里をモデルにした街が舞台なのです)。
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なんか……「これぞ青春」だよね、と思える超和み系。ほのぼの日常の謎(ま、謎というには些細だけれど)。普通なら残酷になるシーンであっても、暖かく包んでくれるこの雰囲気。落ち込んだときに読みたい一冊。ただし、冷めた目で見るとぬるく感じてしまうかもしれないので、穏やかな気分で読みましょう。
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★あらすじ★女子高生・若杉翠は、森の中で落としてしまった腕時計を探しているうち、自然解説員の深森護と出会う。出会った人達が抱えていた心の傷を物語を解くように解き明かしていく護に、いつしか翠は惹かれていく。
★感想★人の死を扱っていながらも、この小説では「残された人間の心の在り処」を探すことに徹している。残酷な真実と対峙しながらも、それを乗り越えていく強さや優しさが描かれているのが素敵だと思いました。
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嫌いではないし、やはり光原百合という作家の物語力、というかその文章の質はすばらしいと思うのだが、感情移入という点では今ひとつだった。文庫本の表紙も、いい年の男性が手にとるにはなんだか気恥ずかしい感じ。
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とても素敵なミステリです。
森の守り人たちと出会った少女。
そこにはゆったりとした時間があった。
彼女たちの出会う事件。
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ミステリとしては傑作ではないのかもしれないけれど。たぶん一生忘れない本です。翠の心のしなやかさに、護さんの懐深さに、登場人物の一言一言に、優しさで泣けてくる。心がホロリとほどける。「幽霊が出るだけの暗がりもない世界なんて、すごく住み心地が悪いと思うから。」名言です。