- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
ヒトの変異 人体の遺伝的多様性について みんなのレビュー
- アルマン・マリー・ルロワ (著), 上野 直人 (監修), 築地 誠子 (訳)
- 税込価格:3,520円(32pt)
- 出版社:みすず書房
- 発行年月:2006.6
- 発送可能日:購入できません
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
5 件中 1 件~ 5 件を表示 |
紙の本
「個性が大事」というよりは、「みんな、少しはミュータント」。
2008/02/08 15:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
発生生物学の研究者が書いた、ヒトの遺伝子研究の本である。
ショウジョウバエやマウス、センチュウまでも用いた実験で遺伝子の研究は急速に進んできている。しかしヒトの研究では「まるごと」の実験が許されない。本書では先天異常の原因を探ることの重要性が明快に示されているだけでなく、そこから何を考えねばならないか、についての著者の科学者としての意見が明確に述べられている。
発生生物学的な興味を持つ読者には、著者の専門知識で説明できる限りがなされている。単眼症や骨の異常など生存に支障をきたすほどの大きな変異も、発生途中での異常でかなり説明できそうである。大きな変異だけでなく、皮膚の色や寿命など遺伝子が複雑に関わっているが生活には支障のない程度の変異まで、さまざまな変異の遺伝的な背景が語られ、さらに調べたい場合を想定し、索引や引用した原論文のリストも載せられていて、丁寧である。
ギリシャの彫刻や伝説の怪物にまで遡っての考察、小人症、多毛症、結合性双子を克明に記載した事例などの記述は、ヒトの変異の取り扱いについて、歴史的、社会的な興味を持って読む人にも充分応える内容になっている。アウシュビッツでの「死の天使」メンゲレやイモリ胚手術をシュペーマンのもとで行ったマンゴルトの話など、研究に関わった人々のエピソードも挿入されていて、これも幅の広い観点で考えさせてくれる材料である。
我々ヒト自身の変異、異常というものはどうしても差別や偏見につながってしまいやすい。掲載されているヒトの畸形の写真や絵画はそれだけで読者の興味をひくだろうが、その先にある著者の書きたかったことを是非汲み取って欲しい。
病気などもそうだが、どこまでが正常でどこからが異常なのか、明確な線引きができない場合は少なからずある。著者は「新しい胚には両親になかった変異が、およそ100個は見られる(第一章p18)」といった近年の知見をあげ、「私たちはみなミュータントなのだ。ただ、その程度が、人によって違うだけなのだ。(同、p19)」と喝破する。この言葉は翻訳者、監修者の両方が「印象深い言葉」としてあげているが、まさにそのとおりだと思う。
関連してちょっと面白かったのは「美の基準」の話である。「(顔も含めて)理想の肉体」というのは限りなく「平均値」に近い、という。もちろん、身近な認知できる集団内での「平均」という文化的な限定要素は加味されるだろうが、こんな風な理解の側面もあるのだ。「美」を科学的に考えていく一つの切り口だろう。
変異の研究が進めば、生命の理解が進み、治療も進む。さまざまな変異が、さまざまな程度で誰にでも存在するのだ、ということも知られてくるだろう。正しく知られていけば、無用な偏見や差別は減る。著者が自分の研究経験を通し、この本で語りたかったのはこういうことかもしれない。
「個性が大事」というと、「ヒトと違うこと」はよいことばかりのように誤解されてしまう怖れもある。「みんなミュータント」と言えば、「よいことばかりじゃない」ことも含めて「みんなすこしずつ違う」ことが正しく伝わってくれそうに思う。
みんな、少しはミュータント。遺伝子を持つさまざまな生命体、それぞれがなにがしかのミュータント。地球上の生命すべてが「さまざまな変異体の集合」と考えたら、世界が少し違って見えてこないだろうか。
5 件中 1 件~ 5 件を表示 |