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紙の本
宇宙開発のパイオニア、アメリカ
2006/11/15 23:55
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
2003年2月1日、スペースシャトルコロンビア号が再突入の際に空中で分解、7名の搭乗者はいずれも帰らぬ人となった。チャレンジャー号の衝撃が薄らいできた中での新たなるショック。
なぜスペースシャトルで事故が続いたのかは松浦晋也さんの『スペースシャトルの落日』に詳しい。そもそもの設計思想の拙さ、運用の問題点など、“夢の機体”が失敗作だったことを異論の余地無く示し、さらにアメリカが(軍事利用以外の)宇宙開発から手を引こうとしていることが指摘されていた。
同じコロンビアの事故を1つの動機として書かれたのであろう本書は、だが『スペースシャトルの落日』とは随分と雰囲気が違う。アメリカは国際宇宙ステーション(ISS)の開発に力を入れていて、その一方で遥か火星を目指した大プロジェクトを立ち上げようとしている、と夢いっぱいである。遥かな宇宙開発に希望を見たい方には嬉しい話題が続くのではなかろうか。
私も宇宙に興味がある。壮大な計画には魅せられるものが確かにある。しかし、アメリカの火星探査計画は現在の計画を棚上げして宇宙開発そのものをフェードアウトさせようとしているように思われてならない。ISSの建設は、事実シャトルの計画の遅れによって建設が遅々として進まず、一方で火星探査計画はぶちあげたのは良いがその実現可能性は将来にゆだねられていて、2006年11月現在で予想されている共和党から民主党への政権交代によって計画そのものも消滅する可能性まである。どうも楽観視はできないように思われてしまうのだ。
本書のもう1つの柱は軍事利用、戦略ミサイル防衛計画、愛称のスターウォーズ計画で親しまれているかの計画に割かれている。テロ戦争というアメリカの掲げた大戦略、そしてアメリカ本土を護るために必要なミサイル防衛システムについて広く紹介されている。
テロ戦争が悲惨なことにイラクとテロ組織とのいかなるつながりも見出せなければ事前にあると主張した大量破壊兵器もみつからず、徒に中東を不安定化させたのと同時にアメリカの力を失墜させたことに対しては批判がある。しかし、その性格上、特定の固定的な拠点を持たないテロ集団にとって、冷戦時代の理論的支柱だった相互確証破壊(略称のMADは実によくその性格を表していると思う)は通用しない。座して攻撃を待つより防衛システムを作り上げるべきだとの主張は確かに一理あると思われる。
問題は、本書でも指摘されているとおり、実験段階で実に多くの失敗があったにも関わらず、その十分な検証も行われないまま実戦配備されようとしていることにあると思う。まだ実験段階にあるように思われてならないのだ。そのあたりの事実関係は本書に当たって欲しい。今後の防衛戦略を考える上でも、知っていて損は無いと思う。その上で、宇宙開発に希望を持っているのが本書だ。スペースシャトルを失敗作だと認識していないように思われるところもあるなど楽観的に過ぎるようにも思われるが、挑戦の前には希望が無ければ話が進まない。将来に思いを馳せるためにも、本書の価値があるのかもしれない。
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