紙の本
かつては何者かだった人へ
2006/09/15 20:07
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
第49回(2006年)群像新人文学賞受賞作。
塾、受験、大学、企業、果てはマンションの位置取りまで、この世の中の階級社会を描きます。
子供の頃から優秀で、東大卒で一流企業にトップで入社し、大学の研究室で一緒だった弁護士と結婚した凛子。ところが今やハローワーク通い。それでも「主婦」という枠組みではやっぱり上位にランクイン。
ハローワークのセミナーで、かつて同じ塾に通っていた熊沢君に再会します。おそらく日本の小学生でもトップだった彼は、30近くになってもフラフラしている様子。小学5年で突然引っ越してしまった彼は、あの時、父親が逮捕され、いろんなことがダメになっていきました。
熊沢くんは「Has been」なんだ、と言います。英語の現在完了形。「かつては何者かだったやつで、もう終わってしまったやつ」。
凛子はそんな状態の自分に納得しません。周りを分析し、すべてに嫌悪しますが、自分のことは分析しません。
そんな彼女は実は階層社会の下のほうから這い上がってきたことが、だんだんと語られます。彼女は、なにを目指して上にあがったのか。
ところが上がってみたら、戸惑いだけが彼女に残されています。
堅実な文章と構成力で読ませます。凛子の理解ある夫と姑、両親の存在感も熊沢に負けていません。彼女の生きる道は指し示されていないのもいいですね。なにかを目指していたのに、ポキリと折れてしまい、それさえも受け入れられない女性をうまく描いています。
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中途半端な仕上がりだったように思えました。もうちょっと展開がおもしろい方が好きです。何か読んでゆくたびに苛々しました。
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わかりやすくて好きでした。主人公が自分の対極にいたからか、とても新鮮でした。
『学歴や偏差値ばかりを重視してはいけない』というものはたくさんあっても、たいてい『それより愛情や気持ちだ』という作品が多いと思います。
だけどこれは『学歴ばかりを信じて生きたらどうなるか』ということの率直な答えが書いてあったからこそ好感がもてました。
熊沢さんが主人公に『まだ世界の上澄みしか知らないで生きてきたひとだな』というように、主人公が最後に『(学歴重視という)どうしてひとつの生き方しか示してくれなかったの?』とお母さんに言うように、仕事がデキることでプライドが高い女性の内面がものすごく飾り気のないきれいな文体でえががれていておもしろかったです!
学歴よりも愛だ。ではなくて学歴があったり仕事デキるのも、偏差値があるのもいい。だけど、それらを使ってちゃんとひととコミュニケーションをとり、きちんと仕事を進めていけるのか。『人間性』という問いかけをしていると思いました。
しっかし、プライドってあれやね、うまくつかえば自分を磨くことになるけど、へたに使うと自分を滅ぼすことになるから怖いね。
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あなたは誰かに期待されていますか? まだ自分に期待していますか? 東大卒、
一流企業でスピード出世、弁護士の夫と結婚。だが、今の私は満ち足りていな
い。そんな29歳の凛子はある日、かつての神童・熊沢くんと出会い…。
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「子育てするとき、一つの生き方しか子供に見せないのって、すごくリスキーなことじゃない?」子育てはある意味洗脳だな、と思っていたのですごく納得。でも親だけの世界から抜け出して、世の中を見たら、気付くチャンスはいくらでもあったはず。結局親も人間なんだから、盲目的に信じるんじゃなくちゃんと考えて自分の人生を生きなくちゃな〜。自分が親になった時は、せめてそのことだけは教えてあげたい。
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なんとなくタイトルと表紙がツボだったので読んでみた。
主人公がひねくれてて、なんとも人間らしくて、共感できたり、性格悪っ!って思ったり。
もっと素直になればいいのにー なんて思ったけど、それって自分に向けての言葉でもあるかもしれない。
☆気になったぶぶん
ボサッと突っ立ってるだけで他人が解決してくれるのを待ってるだけだから、あなたたちは失業したんだよ。
バターと卵の甘い香りに胃が小さく音をたてた。
一口食べてみると、卵のやわらかさが、なんだかなつかしかった。
れい子さんの態度や言葉の何をとっても自分に対する悪意がないのは分かるし、身奇麗で人当たりのいい彼女は周りの誰からも自然と好意を持たれるタイプの人間だ。けれど、姑という立場でなく、どこか別の場所で知り合ったとしても、れい子さんのような女は苦手だと思った。そういう自分はどこか異常なのだろうか。れい子さんを好きになれない私には、どこか人と違う欠陥があるのだろうか。
怒りが頂点に達すると、私の頭は奥の奥が冷たく冴える。こういうとき私は無表情になり、感情を殺したロボットのような妙な饒舌さで相手を罵倒する。
いいんだ、と思う。この人の何も分かっていないところに私は安堵しているのだ。雄介は私の胸の奥を見ようとするかわり、彼なりの生真面目さで不器用なやり方で、私そのものをつつもうとしてくれる。それが彼の愛情のかたちなのだから。
自分の中にな何の指針もないことに気づいて、私は急に泣きたくなった。戻る道はないくせに、向こう岸には渡りたくない。新しい港を探す気力もない。なんて中途半端なんだろう、と。
春に向けて空気が少しずつ柔らかくなっている気がする。それでもまだ白い息をマフラーの中に吐きながら、私はいつもの場所に自転車をとめた。
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自分の中に何の指針もないことに気づいて、私は急に泣きたくなった。戻る道はないくせに、向こう岸には渡りたくない。新しい港を探す気力もない。なんて中途半端なんだろう、と。東大を卒業し、外資系一流企業で一番のスピード出世をし、弁護士の夫を持った。それなのに、今の私は満ち足りていない…。そんな凛子(29歳)はある日、かつての神童・熊沢くんと出会う―。あなたは誰かに何かを期待されていますか?あなたはまだ自分に何かを期待していますか?第49回群像新人文学賞受賞作。 (「BOOK」データベースより)
この人の作品は、自分と重なる部分が多くてグサッときたりする。
この物語の最初から最後まで、凛子はどこかひねくれている。
口調が強く、何事も素直に受け入れないような頑固さがある。
でもこのささくれ立った気持ちの裏には、
凛子の人生の栄光と挫折があり、手に入れた幸せと複雑な感情がある。
結局はこの言葉に集約されるんだろうな、と思う。
「私は私に、まだなにを期待しているのだろう」。
こうしていこう、こうすればいい、という道が示されないまま、なんとなく終わってしまうのが残念。
けれど、凛子の心が実に丁寧に書かれていて、ちょっぴり切ない、そんな気持ちになりました。
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主人公の視点から見た失業者への感想に、タイトルのごとく憂鬱…というか、グサリ笑
しかし難儀な人だなあと暢気に思いました。怒られそうですね。
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日々の暮らしで感じる息苦しさがせまってくる。
その中でもがきながら、変えようとする思い。
ラストに向けて少しずつ変化する様が理解しやすかった。
文体が好み。
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プライドが捨てられない。過去の栄光も捨てられない。
だから、幸せなのに実感できない。
恵まれて、努力もして、愛されてもいるのに。
だから、周りに厳しく接してしまう。
幼い頃の知り合いにであってそれに気付いてしまう。
自分にもきっと、この人に似ている部分って持っているんだと思う。
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ハスビーン=一発屋、終わってしまった人。中学受験の成功→東大→一流企業の内定といったかつての成功にこだわる主人公が最初はいけすかなく思えたが、子供に戻ってすべてをやり直したいと願う場面が悲しい。東大や内定をゴールにするには、人生は長すぎる。
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図書館でタイトルが目について、
手に取ってみるとなんとなく手放し難い感じがして、前知識もなく読んでみたら、
自分と重なる部分が多くて一気に読んでしまった。
主人公の30歳目前という年齢も、高学歴というプライドから来る高飛車な態度も、
キャリアから外れたやりきれなさも、
全てが痛々しく、そして、他人の事のようには読めない。
学歴社会と言われて、親の期待に答えたくて、
必死にキャリアを目指して生きてきた凛子が、
結婚して専業主婦になるととたんに空っぽの自分を感じてしまう。
他の生き方があったのではないかと思ってしまう。
親に、なぜ勉強ばかりさせたのかを問うてしまう。
全てが終わってしまった、ただの一発屋(has been=ハスビーン)だった、
これを認めなければ先へ進めない凛子の内面の葛藤が、クライマックスの凛子の涙へとつながる。
そして、また歩き出す凛子は、これからの自分の幸せを、きっとその手で作り出していくのだろう。
読後感もよく、現代の女性の生き方を考えさせられる作品。
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一体何にそんなに満たされてないのか。
そう不思議に思ったが、読み進めるうちに、共感するところが自分の中にたくさんあることに気付いた。過去にしがみついているところ。それでいて、今の自分を過去の誰かの責任にしているところ。その身勝手なやるせなさ。
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タイトルを見たとき、ハスビーンとは何だろう、熱帯の植物か何かかなと思いながら読んでいった。ハスビーンはHas been。一発屋のことだという。もちろん主人公のことを指している。
主人公の凛子は東大卒で、外資系のパソコンメーカーにシステムエンジニアとしてトップクラスの成績で就職した。だが、次第に壁際に押しやられていき、適応障害に陥る。弁護士の恋人と結婚して会社をやめるが、結婚生活の中では、裕福で育ちの良い夫と姑と、中卒の父親を持ち貧乏な自分の出自を比較して悶々として暮らしている。
読んでいてこちらも憂鬱になってくる話だが、なんだか凛子に気持ちを取られる。彼女の鬱屈した感情は他人を絶対的に不快にさせるが、まったく悩むこともなくエリート街道を歩む人間というものを、少なくともわたしは見たことがない。
ラスト、凛子はまだ自分は中途にいて、ハズビーンなんかではありえないと自分を立て直そうとする。
そうはいかないだろうな…と、四十を越えた身の上としては思わずささやいてしまう。
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泣きたくなる。サラっと読めちゃうのに、いつまでも心に残る世界観。自分とは全く交錯しない主人公の人生なのに、なぜだか、私もそうだったような気にさえなる、誰もが持つ憂鬱。主人公も、ハスビーンって言葉も、それを言った登場人物も、抱きしめたいほどスキ。