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紙の本
書評を書いているうちに評価が上がってきました。やはり、このさりげない仕掛けはいいものです。この作家、もっと評判になってもいいのに・・・
2007/03/14 18:24
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
津原は私が密かに期待を寄せている作家ですが、この本に関しては何故か触手が動きませんでした。ま、いいか、っていう感じ。あまり評判になった気配もありません。もしかして装丁のせい?そう、私に関しては装丁・装画を担当している大御所・金子國義が苦手なんです。
彼が様々な本に画を寄せ、耽美的と称される、或いは少女愛などを主題とする作家たちに支持されていることは知っています。金子の原画はかなり高い値段で取引されていますし、アリスをテーマとする版画なども高価。勿論現物を見ていますし、我が家にも彼の挿絵のついた本がどこかにある。でも、どこかしっくりこない。
今回もちょっと引きました。金色の地に一枚の絵画、下半身を露出しうつ伏せた男性とも女性ともつかない金髪の人物、下に敷かれたシーツの口許にはもしかして血かもしれない紅いものが。そして永久の眠りについた主人をこの世に引き戻すかのように犬が・・・
目次と各話を簡単に紹介します。
・夕化粧 (「小説すばる」2005年8月号): 理由も言わずに首を吊って死んでしまった晶子。そして春代までが。作家・唐草七郎がおしろい花について猿渡に語る・・・
・ピカルディの薔薇 (『凶鳥の黒影』2004年9月刊):猿渡に声をかけてきたのはサナトリウムで人形制作にはげむ星こうじという作家だった・・・
・篭中花 (「小説すばる」2006年8月号):俺・猿渡が怪奇小説作家の伯爵と向かうのは、以前はスヌエ島と表記されていた主鵺島。同行するのはリゾート事業で島の半分を所有する白鳥飛鳥。彼女の意思が・・・
・フルーツ白玉 (「小説すばる」2006年10月号):猿渡が語る主鵺島での白鳥飛鳥。食を求めて世界を駆け巡った彼女が口にした様々な食べ物は・・・
・夢三十夜 (『稲生モノノケ大全 陽之巻』2005年5月刊):平太郎が高校一年のときに見た三十夜続く夢。共通するのは「逆流夢」ということ。猿渡に語りかけてきた女は・・・
・甘い風 (『憑き者』2000年4月刊):南国洞の主人が猿渡にみせたのは金ラベルのカマカ。そしてマーティンの5Kならぬ5Mという初耳のウクレレ・・・
・新京異聞 (「ユリイカ」2003年1月号):満州で猿渡を迎えたのは和佐という家。子供たちに気に入られた俺は、その家の料理人とも親しく口を利くようになって
まず最初に断っておきますが、この本での金子の画はいいです。といってもカバー画ではなくて三つのペン画のうち二つがいい。カバーで言えば、本の左上に描かれた嘴の大きな鳥。そして目次とだけ書かれた目次の扉の子犬。その裏の画は金子らしさが感じられず、誰のものでもない感じ。
で小説ですが、bk-1の案内にある「江戸川乱歩、中井英夫の直系が独特の美しい文体で紡ぐ」っていうのはどうでしょうか?先ず文体の系譜で言って、乱歩と中井が繋がるとはどこの誰が言ったやら。まして乱歩を美文とは言わないでしょう。無論、魅力のある文体であることは間違いないのですが、中井の硬質なそれと粘着質な乱歩を一緒には出来ないでしょう。
まして、その二人の後継者が津原泰水である、とくると???です。むしろ乙一のほうが乱歩に近いし、中井で言えば笠井潔のほうが文体では近い気がします。幻想文学としてだけ読めば、確かに乱歩風ではありますが、メタフィクションはやはり現代的。むしろ同世代の仲間を探すほうがいいでしょう。
それはともかく、内容は面白いです。はじめは連作として読んでいなかったので、なにか引っ掛かるなあ、と読み進めたのですが、登場人物が共通することが分ると、面白さが倍増します。再読するのがこうも楽しいというのは、その仕掛けあればこそですが、それがあざとくないのも大きいかもしれません。ともかく、この幻想味と文体は、誰に似たということは別にして魅力的です。