紙の本
竹中教授に学ぶ”仕事の仕方”あるいは”喧嘩の仕方”
2007/09/05 01:02
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hisao - この投稿者のレビュー一覧を見る
すでに過ぎ去った人の事をとやかくと笑われるかも知れませんが、小泉氏・竹中氏の“構造改革”の仕事は良しも悪しくも日本政治経済の歴史的転換期に勝負をかけた大仕事でした。その意味で彼らが仕事を一段落させた今こそ、そのプラス面マイナス面の遺産が問われています。
本書は小泉前総理と一心同体とも言われた竹中平蔵氏が経済財政政策担当大臣、金融大臣、総務大臣としての日々の戦いを自ら記録されたものです。
ここで触れられた政策論は勿論賛否両論あり私の素人頭では判断出来ようもない点多々あります。しかし“改革”には改革の戦い方がある、彼らの“ものの考え方”“仕事の仕方”“喧嘩の仕方”に従来型支配層とは異なる凄みが有りました。読むほどにこの“戦いの作法”そのものが“改革”だったのだと感銘させられました。
竹中氏はまず経済財政担当相として経済財政諮問会議を運営、諮問会議で政策運営の根本方針“骨太方針”を作成、予算編成の筋道を付ける事で小泉政権の司令塔としての位置を確保していきます。
小泉氏は“人事権”で切り伏せましたが、竹中氏の身上は“竹中チーム”をバックにした“立案能力”と面罵や悪意にたじろぐことのない“根まわし力”でした。
一般に官僚は有能で最大の情報量を持っていますし与党は権力を持っています。しかし官僚や与党には“誤りを認めては拙い”“組織防衛が至上である”“縄張りの利権を擁護すべし”と言う行動原則があります。その為竹中氏は官僚や与党に立案させない、力を借りない戦略を取ります。
まず改革の方向付け、原則を自ら書き上げ総理の了解を得ます、これだけで十分考え抜かれ権威付けられた“仕事の指針”が出来上がります。次は竹中氏自ら選別した私設補佐官とも言うべき少数の“竹中チーム”を結成、実質的政策論議を重ね政策立案を誘導します。これは氏の言う“裏の戦略会議”です、この会議での結論を例えば諮問会議では“民間議員ペーパー”として公にする形を整え、しかる後まず総理に説明、了解を取ります。その上で閣僚・与党等との“根回し”、公の会議・閣議・国会等への議案提出に入るのです。見事な自作自演でした。
まずトップの了解を取ってしまう、更に“いつまでに何をどれだけやるか”数値目標と工程表で責任範囲を明確にし、毎回会議要旨を即時公表する事で自分自身すら縛り上げ退路を断ってしまいます。
氏は金融大臣、総務大臣としても同様の戦略で所謂“抵抗勢力”からの理不尽とも言える痛罵・攻撃に身をさらしながら、仕事への信念・総理の信頼を活力源に不良債権処理、郵政民営化などをやり遂げられました。
何故小泉氏・竹中氏は強力に改革を推し進める事が出来たか?
民間の中小企業で働く私ですが、この書から次のような点で大きな示唆を受けました。
教訓1、トップの“お客様のお役に立っている”という主体的信念と先頭を走る行動のみが部下の主体性を引き出す。
小泉・竹中氏は国民人気にのっとり、有る意味で“国民”を人質にする事で存分に戦うことが出来ました。“お客様としての国民のために戦っている”と言う信念が官僚、議員、銀行を頂点とする財界、マスコミなどと強力に戦うことを可能にしたようです(小泉氏達を支持した“国民”とは、どのような実体であったかは是非諸先生方に解明いただきたいところですが)
民間企業でもトップにまず求められるのは“お客様のお役に立つ”と言う信念です。実際“お役に立つ”かどうか、そのトップの力量によるでしょうが、まずは“役に立ている”と言う信念が無ければ、なかなか先頭に立って働けるものでないし、ましてや部下を強力に率いることは出来ません。
教訓2、自分を敢えてピンチに追い込む事が反転のチャンスを生む、逆境が己を強くする。
“改革”の中身は抽象的なものでは意味がありません。彼らは自らマニュフェストを作り、数値目標・工程を掲げる事で敢えて自分自身さえ縛り上げ、目標に追い込みました。私達は最初から実現を諦めている“達成目標”や結論を出さない“会議”で随分時間を無駄にしています、小さな企業こそ“責任回避”の“組織の病”が蔓延していることを恥ずかしく思いました。
教訓3、仕事は人を見抜き、人を得る事で達成出来る
現在、小泉氏が信頼した後継者、安倍総理が迷走しています。竹中氏の強力な懐刀として活躍、氏を後継した大田弘子氏の実行力も疑問視されています。あの“改革”の嵐は旧に戻ったとさえ言われています。小泉・竹中氏などが身を張って開発した“改革の仕組み”を忠実に後継したはずだったのですが、やはり“仕組み”は“人”を得なければ回転しないと言うことでしょうか。
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よく逃げ出しませんでしたね
2007/01/04 21:17
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の政策決定プロセスの詳細に踏み込んだ貴重な資料だと思う。同時に、表舞台で事を成し遂げるには、どれだけの人が裏方で泥をかぶらなければいけないのかも実感させられた。著者がどれだけ苦労して、どんな手法で改革を断行したかはじっくり読んで頂くとして、ここでは、政治を報道するマスコミのあり方という視点から見ていきたい。
ボクはマスコミの人間ではないから本当のところは知らないが、想像で言えば、政治部記者のニュースソースというのは、特に親交のある、政治家、官僚、評論家などだろう。現在進行中の政治に対して、本音で話してくれるような人間は、記者個人と相当の信頼関係が築かれていると考えるべきだ。そんな関係を、多方面、多思想にわたって構築するのはとても困難だろうと思うので、信頼できるニュースソースは、ごく少数の、ある程度思想の似通った人たちなのではないかと思う。
事実の報道は、特定の思想に偏るべきではない。一つの政治問題を報道するためには、様々な立場・理論の見地から検討し、ソースの政治的利害関係を考慮に入れた上で、情報を公正に評価する必要があると思う。しかし、報道番組を見ている限り、特定の局に出演する評論家は大抵いつも同じであり、とても様々な立場から評価しているとは思えない。
本書では、マスコミの見解の朝令暮改ぶりが冷静に指摘されている。このような問題は、ソースが特定の政治的立場に偏っているから、政治的理由によって起こるに違いない。国民に正しい政策内容が報道されるには、本書で提言されているように、政治的影響を受けない、第三者による政策評価機関の設立が求められると思う。
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<07/1/16読了>小泉改革のうち著者が直接携わった不良債権処理を始めとする金融改革、郵政民営化、経済財政諮問会議の活性化の3つの改革を描いています。そのどれもが面白いですが、特に迫力のあるのは、やはり小泉総理のライフワークであった郵政民営化です◆抵抗勢力や官僚との争いは、現にそれを体験した人だけに迫力にあふれており、手に汗を握る面白さ。そんな中で学者出身の竹中さんが意外にしたたかなのに驚かされます◆私が最も感心したのが「戦略は細部に宿る」作戦。通常政治家は基本的な方針を定めたら、法案や具体的な施策作りは官僚に任せてしまいますが、そこに官僚が「骨抜き」をするチャンスが生まれます◆竹中さんは法案や具体的な施策作りも官僚任せにせず自分とそのブレーンでやってしまいます。どころか、官僚の常套手段の「骨抜き」作戦を逆手に取り、妥協したフリをして答申案や法案にこっそりと重要な条項を盛り込んでしまう「骨抜き」ならぬ「骨入れ」をするしたたかさを見せます◆脂汗を額に浮かべながら抵抗勢力や野党、マスコミの執拗な攻撃に耐える竹中さんの様子をテレビで見ながら、私は「竹中さん大丈夫だろうか」とハラハラして見ていたのですが、その陰でこのようなしたたかさがあったとは知りませんでした。
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当事者の証言だから自分が正しいとしか言わないのは当然だが、不良債権や郵政民営化といったやるといったことをやり遂げたことは確か。そこから逆算して読み直すと、当時のメディアの情報がいかに歪んでいたかに思い至り、これではまともな判断などやりようがないと暗澹たる思いがする。自分の間違いを認めないことにかけては、官僚以上ではないか。
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意外と的確に手を打っていたんだなと言うのが最初の感想。そして、ローゼン麻生と塩爺が意外と老獪な政治観だと言うことがわかります。
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政策決定の過程が赤裸々に書かれていて、非常におもしろい。これを読むと、政策の中身はともかく、小泉純一郎という人物がまれに見るリーダーシップの持ち主であったことがわかる。
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ついに大学生になりました。
竹中さんの講演を聞いたことがありますが、この本からもわかる通り、非常に情熱的な方です。大事なのは“passion”だとおっしゃっていました。
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経済財政諮問会議がうまく機能していた時期の内幕を描いた本である。
表に出た割に仕事が出来なかった「チーム安倍」と違い、裏の実行部隊「チーム竹中」は実質的に構造改革・経済成長路線のシナリオを練り(官僚の裁量を許さないように「戦略は細部に宿る」と法案の文面まで細かく吟味し)、それを経済財政諮問会議が承認することで、改革エンジンの役割を果たしてきた。不良債権処理の金融改革や郵政民営化も、その新たな改革エンジンによって正面突破することができたのだ。なぜ他の政治家は同じことができないのか。
国レベルで公務員改革と公会計改革が成されるとともに、地方分権(税源移譲を含む)の上で地域格差の解決策や地方政府の構造改革が図られるべきであろう。
あと改造内閣は安倍首相の出身派閥清和会の厚労利権にどこまで切り込めるか。外添大臣に期待。
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また竹中本です。
この本で知った言葉。
無謬性
英語のがわかりやすい。
infallibility. ですね。
官僚を象徴した言葉だと思うが、これって、日本の会社にも言えるのでは。
世界的にも非常に奇妙な問題です。 なのでグローバルで論じられる「リーダー」とは違った特殊能力を持った人で無いと、この国では改革は成功しないのではないのかなあ。
この本だけ読むと興奮する。一方で竹中氏の客観的な評価を見たいが、ほとんどが極端すぎて比べれられない。
まあいいか。
それにしても、小泉さん以降の混迷がコレを読むと自ずとわかります。
ここまで改革したら、その後のオペレーションはもっと変人がリーダーとならないとまわらんでしょう。
「小泉以前」の体制に引き戻す力が猛烈に働き、今の政局混乱を招いているように思う。
infallibility.
くだらん。。
あと一冊。。どうしよっかな。
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小泉政権下で経済・財政・郵政の構造改革の全権を委任され、改革を推し進めた竹中平蔵さんの回顧録。
あのとき、あの裏側で行われていた策謀、政争について赤裸々に描かれている。
改革の最終評価については歴史が語るとして、大きな改革を推し進めようとすると、超人的な意志をもった孤高のリーダが必要なんだな・・・と感じた。
こういう本は、後年の歴史教科書の資料集に一部掲載されたりするだろうな。
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この本は、恐らく、3年後くらいに、もう一度読んでみたくなるであろう、そして、そのときの竹中氏の主張と比較してみたくなる。ぶれているのであろうか、一貫しているのであろうか、興味深い。内容はとてもリアルで、読み応えがある。非常に感銘を受けた。しかし、登場人物の描写があまりにも二元的で気持ちが悪い。中川氏の描写があまりにも「善」で、与謝野氏の描写があまりにも「悪」で、おいおい、そこまで人間は極端にラベル付けできないだろうと思ってしまう。そのぶんマイナスだが、それを除けば、おすすめの本。
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竹中平蔵って、ひ弱なイメージがあったけど、そのイメージは完全に覆される。この本に登場するのは理不尽な要求を繰り出す抵抗勢力に対して、ねばり強く交渉をし、信じた政策の実現に汗をかく、強い男だ。
不良債権処理、郵政民営化、経済財政諮問会議と大臣在任中の5年半の間に現れた高いハードル。それらの解決に学者と政治家、それぞれの視点を適切に使い分けるバランス感覚は、さすが。そして、せっぱ詰まったときの伝家の宝刀「小泉総理の一言」。
正直、自身と小泉総理を美化しすぎている気もするけど、政策決定のプロセスはドラマチックで読み応えがある。やはり、小泉政治劇場はおもしろかった。
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金融日記で紹介されていた本。
選挙も近いということで、小泉政権の功罪を改めて考えてみるべく読んでみた。
?不良債権処理と?郵政民営化を達成するための攻防戦が詳細に描かされている。
この二点については、特に異論もないし、業績と考えていいのではないかと思う。
もっとも、竹中氏らしく、郵政民営化の利点に関して、建前的な健全性の議論、法制度としての正しさ、という点のみが記述されている。
私としては、もっと本音の部分に踏み込んでメリット・デメリットを記述してほしい。
この本を読んだ後、小泉政権の功罪を考えるには、規制緩和委員会に関する文献も当たってみなければならないということに気づいた。
というのも、竹中氏が政権でおもに担当したのは、上記2点である。今むしろ問題になっている、貧富の格差の拡大の原因ともなったとされる大幅な規制緩和に関しては、竹中氏が直接担当したわけではなく、オリックスの宮内氏をはじめとする規制緩和委員会である。
小泉政権では、竹中チームと規制緩和委員会の両輪で政策が作られていたから、竹中氏の著作だけでは、網羅性を欠くのである。
ってなわけで、今度は規制緩和に関する文献を読んでみようと思う。そういう著作って宮内氏や、それに連なる村上ファンドとか六本木社長などの魑魅魍魎が出てくるから、きっと面白いはずだ。
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竹中氏の視点で小泉改革が語られている。
どうやら本当に日誌をつけていたようで、何月何日に何があったとか、かなり細部まで書かれている。
竹中チームの一員だった高橋洋一氏の同じテーマの本も読んでいるんだけど、かぶる内容がほとんどで、チームとして意思疎通できていたのがよく分かる。
あくまでも竹中氏の価値観で書かれているので、氏が嫌いな人は読んでもムカつくだけだろう。
しかし氏の考え方に賛成できるなら、「抵抗勢力」と呼ばれた族議員や官僚との戦いは、下手な小説よりもハラハラドキドキ楽しく読めるだろう。
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「日誌」というタイトルになっていますが、竹中氏が付けていたという日々のメモを元にして大臣時代の舞台裏を再構成した著作になっています。
あらためて、竹中氏は確かな伝える技術を持っていると感じさせます。郵政総選挙のときには、世の中郵政民営化だけが問題ではなかろうに、という感想を持って眺めていたのですが、読んでいると民営化に入れるしかないよな、と思わされてしまします。
大手マスコミの不見識に対する批判も辛辣で(ずいぶんとたたかれましたしね)、大物政治家の利益誘導型の行動には軽蔑の色を隠していません。ただ、名指しの批判をしていないのは、竹中さん自身の矜持なのか弁護士のアドバイスなのか。一方、官僚に対しては、無謬性の問題を強く批判するものの、その能力と役割には期待している感がありますね。
小泉政権の5年間という面白い素材を、当事者がうまく料理して見せてくれたという感じがします。全て竹中さんの言うことが正しいのか判断することはできないのですが、その実行力と強い志は全く尊敬に値するところです、というのが感想です。